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2012年10-11月 月次レポート(太田悠介 フランス)

ITP-EUROPA月次報告書(10-11月)

太田 悠介

 10月1日より再びITP-EUROPAプログラムのもとでの留学期間に入った。報告者は2009年よりパリ第8大学への長期留学を開始したが、翌年から同プログラムを受給するという幸運に恵まれた。今年はその3年目にあたる。このように長期間にわたるご支援をいただくことの重みをかみしめつつ、本年度も研究に取り組む所存である。本研究の目的は、フランスの哲学者エティエンヌ・バリバール(1942-)の思想における大衆(マス)論を主題とする博士論文の執筆である。なお、バリバールの紹介および研究の内容に関しては、昨年度までの月次報告書で幾度か言及してきたが、今後もこの月次報告書を通じて提示してゆく予定である。
 10月と11月は日頃の研究成果の一部を見せる好機であった。10月は東京での学会発表(社会思想史学会)、そして11月には東京外国語大学とドイツのヒルデスハイム大学共同開催のセミナーが開催されたからである。しかし、一時帰国を経て参加した東京での学会発表に関してはやや課題が残った。発表後の会場との質疑応答では、現在の研究の方向性そのものを問うような疑問も提起され、これまでの研究のあり方の再考をせまられた。バリバールの哲学の背景にはマルクスとスピノザという二人の思想家がおり、歴史的な観点から言えばおおよそ80年代半ばにマルクスからスピノザへとその主要な参照軸が移行したのが確認できる。しかし、哲学的な観点からはいかなる意味でマルクスにスピノザを接合することが要請されたのだろうか。この点を今後より精緻に解明することが求められていると感じた。
 これに対して11月のヒルデスハイム大学での口頭発表では、あくまで部分的にであるとは言え、直前の学会発表の教訓を生かすことができた。ドイツ語を母語とする聴衆ということで言語の選択には頭を悩ませたが、フランス語での博士論文を視野に入れて発表はフランス語で行い、パワーポイントを英語で準備するというやや変則的な手法をとった。
 あらためて振り返ってみると、ドイツ語を主とする場で、さらに英語を母語としない者同士が英語を含む多言語を介してやり取りを行うという外的な制約が、かえって研究の主軸を見つめ直し、それを分かりやすく提示することになお一層神経を使うという肯定的な効果を生んだように思う。また、滞在中も発表直前まで原稿に目を通してくれた友人の助けも大きかった。さらに、ヒルデスハイム大学の司会者がドイツ現代史を専門とする方で、同時代の独仏の社会状況の共通点を念頭に置きながら発表の真意を汲んだ質問をしていただいたことで、報告者にとってはより一層意義のある発表となった。これまで東京での派遣報告会など限られた場でしかお会いすることのなかった先生方や、仏、伊、露などに派遣されている他の学生たちと数日間にわたって交流の機会を持てたことも強く印象に残った。
 10月から11月にかけては二度の発表に多くの時間を割くことになった。発表を通じて得た教訓と成果を胸に留め置きながら、12月は博士論文の執筆に再び戻るつもりである。

 

Ota2012.11-1.JPG(ヒルデスハイム、市庁舎前広場)

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