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2011年7-8月 月次レポート(石田聖子 イタリア)

月次レポート
                  (2011年7-8月、博士後期課程 石田聖子)(派遣先:ボローニャ大学 [イタリア])

 多くのひとが夏のバカンスに繰り出す季節が今年も到来した。大学や図書館で見かけるひとかげが日毎にまばらになることに若干の寂しさを感じる一方で、図書館をほぼ自室化して利用できることで研究には好都合な環境が実現できる稀有な時期でもある。
 そんな今月初めにはまず、先月中に訪問予約を入れておいた、レッジョ・エミーリア市立図書館内に設置されるザヴァッティーニ・アーカイブを訪問した。あらかじめ閲覧を申し込んでいた希望の資料を手にすることができたことはもちろんのこと、アーカイブ担当者の好意から、派遣者の研究テーマに関連する貴重な資料の数々も目にすることができた。なかには、派遣者の論旨展開において決定的な意味をもちうる資料も含まれており、まさに今のタイミングで今回の訪問という機会を得られたことは実に意義深いことに思われた。
 今月初旬にはまた、渡伊中であった本学指導教員と直接面会しての研究指導を受ける機会を得た。さらにその翌日には、ボローニャ大学側指導教員も交えての三者で面会することができた。いずれの指導教員も、論文に関わる具体的な指導に加えて温かい励ましの言葉をかけてくださり、派遣者にとりこれ以上ない励みとなった。
 論文作業に関しては、博士論文最終章にあたるザヴァッティーニに焦点を当てる章の導入部であるザヴァッティーニとカンパニーレの関係を考察する節の執筆を行った。派遣者の博士論文は20世紀イタリア文化における笑いに関する表象を主題とするものであるが、笑いに関わる作家の多くにとり笑いという意匠の選択は美学上ばかりでなく生そのものに関わる問題でもある。それは例えば笑いの作家の双生あるいは相関性への注視という点において顕著に観察できるが、その意味において、ザヴァッティーニとカンパニーレというふたりの作家の関係はそれを実地に証明する20世紀前半のイタリア最良の例であると考える。事実、20世紀イタリアを代表する笑いの作家として頻繁にならび称されるふたりではあるが、その実、ふたりの関係は反発的であり、その笑いの表象の方向性は真逆を向いていると言ってもよい。そうしたふたりの笑いとそのもとでの表象は20世紀を席巻した笑いをめぐる二つの極の在り処を探る際に多くの示唆に富む。従って、この節では、そうしたふたりの相関関係を具体的な資料を提示しながら検討した後で、それら笑いがそれぞれの作家においていかなる文学表象を生みだしたかをふたりが最も近接した時期に発表された小説作品をもとに比較的に考察した。
 さて、初期の派遣予定を短縮した8月初めに派遣期間が終了するために、8月に入ってからは、帰国後の作業に必要な資料の収集、整理等を行った。今回の派遣期間中には、効率的な資料調査、収集の他、研究主題に関連する講義やシンポジウムの数々への参加、関心を共有する現地研究者との交流等、現在執筆中の論文のためばかりでなく、今後の研究活動においても肝要となるであろう経験を数多く得ることができた。しかしなにより、共同学位取得制度のもとでの博士論文作成作業が大きく前進したことが最大の成果であると考えている。
 最後になりましたが、今回の派遣の機会を与えてくださった関係者の方々にはここに記して心からの感謝を申し上げます。

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