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2011年4月 月次レポート(横田さやか イタリア)

月次レポート 2011年4月 
博士後期課程 横田さやか 
派遣先:イタリア、ボローニャ大学

 派遣開始から8ヶ月が経過し、今年度は残すところ僅か4ヶ月となった。一年度の三分の二を経過したところでこれまでの歩みを振り返り、冷静に内省してみると、今月は、当初の研究計画に対する遅れや自身の力不足を実感し行き詰まりを感じるばかりであった。実際には、ボローニャ大学大学院の興味深い講義内容、指導教員をはじめとする先生方からのご指導等を活かし研究を深めてきた結果、計画として想定していた以上のものを積み上げてきている。しかし、実感するのは、それらの成果を躊躇わずにかたちにしていく精神面の強さが自分自身に一層要求されることである。ここで一度立ち止まりしっかり内省し、これからの最終期間を充実させるべく、奮起したい。
 進捗状況は捗々しくなかったものの、今月も執筆中の論文と向き合いつつ、大学院の授業に参加した。また、視覚芸術専攻のアレッサンドラ・ボルゴジェッリ教授による「現代美術史」の授業をふた月に渡って聴講した。20世紀初頭の前衛芸術の誕生直前までが講義範囲であり、報告者の研究テーマとは直接重ならないものの、未来派誕生の美術史的また社会的基層を改めて整理することができた。同時にイタリア未来派の活動が果たした役割の重要性も講義のなかで度々強調されており、同様の主張をもつ報告者にとって、よい刺激となった。100周年を機に新たに議論が加熱した未来派の再評価については、別の機会でも興味深い意見を拝聴することができた。とある書店で行われた、新刊書籍Futurismo antineutrale (『反中立未来派』)の講演会でのことである。著者であるコンテンポラリー・アートのアーティスト、ロベルト・フロレアーニ(1956-)は、2009年のヴェネチア・ビエンナーレに際して「マリネッティへのオマージュ」と題されたパビリオンに作品を提供しており、アーティストとしての立場から、未来派を研究している。フロレアーニは、未来派が前衛芸術、現代芸術にのこした遺産の重要性を、「反フランス的批評」と「未来派は終わっていない」というふたつの立場から熱く語った。前者については、未来派がキュビスムからの借り物として定義されがちであったのは、未来派の功績をパリの芸術界が自分たちのものにしようとしたからであり史実に反していると主張した。後者については、グルッポ'63でのエドアルド・サングイネーティ(1930-2010)の視覚詩、ジョン・ケージ(1912-1992)の実験音楽等、未来派にインスパイアされたアーティストたちの証言を紹介しながら、未来派が芸術にもたらした革新は所謂「第一次」未来派で終焉したという一部の謬見を指摘した。アーティストとしての立場から分析されたフロレアーニの主張は報告者にとって賛同するところも多く、非常に興味深くたのしみながら講演を聴いた。
 また、指導教員より声をかけていただき、今月も「ダンスと研究会」の会合に参加させていただいた。次号の会誌の編集作業が今回の議題であり、掲載論文の順序や、目次の構成などが細かく話し合われた。帰着点へ向かって議論がなされる日本とは対照的に、こちらでの議論は全員が参加し、意見が方々に分離するばかりで一向にまとまらないように思える。けれども最終的には的確に結論が出されるのであり、このような違いを興味深く思いながら参加した。報告者の論文は、次々号に掲載していただくことが目標である。

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