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2011年12月 月次レポート(小久保真理江 イタリア)

12月ITPレポート

小久保真理江

 今月は博士論文の第三章第二節の執筆に取り組みました。この節では、パヴェーゼの詩集『働き疲れて』における視覚性や「イメージ」の概念について、映画との類似性を論じます。 昨年12月のITP国際シンポジウムで発表した内容の一部を出発点に、 パヴェーゼの詩や関連文献を再読し、論の構成を練り直した上で、第一稿の執筆を進めました。パヴェーゼの詩作品や詩論を映画論と照らし合わせて分析すると共に、パヴェーゼの詩とアメリカ文学との関連についても「イメージ」の概念や視覚芸術の影響を手がかりに再検討しています。この節は来月半ばまでには執筆を終了し、友人にネイティブチェックを依頼する予定です。
 先月に執筆を終了した第一章第二節については、友人のネイティブチェックをもとに修正と最終確認を行った上で、指導教員に原稿を提出しました。クリスマス休暇明けには指導教官に面会し、この原稿についての意見を伺う予定です。
 今月は二つのイベントに聴衆として参加しました。ひとつは旧ボローニャ大学で二日間に渡って開かれたシンポジウムです(Le discipline letterarie e linguistiche in Italia fra Università e Nazione, 1861-2011)。イタリア統一150周年を記念するイベントの一つとして開催されたもので、言語や文学の領域に属する様々な教授が発表を行いました。なかでも特に興味深かったのは比較文学を専門とするレモ・チェゼラーニ先生の発表です。
 イタリア統一記念のイベントでは「イタリア語」や「イタリア文学」の固定的なアイデンティティーを強調する傾向が少なからず見られますが、チェゼラーニ先生の発表は、そうした傾向に批判的な立場を示すものでした。19世紀から20世紀のイタリアにおける文学批評が「イタリア文学」の固定的なアイデンティティーを構築することを目標に行われてきたことに触れて、チェゼラーニ先生は、 複合的・流動的なアイデンティティーが広がりつつある現在、これまでのような文学批評の役割はもはや必要とはされておらず、むしろ他国の文学との関連や文学以外の領域との関連を視野に入れた研究が必要とされているのではないかと指摘し、こうした新たな方向での研究の可能性や、他国におけるイタリア文学受容の特徴などについてお話されました。今回チェゼラーニ先生の発表を聞く機会を得たことにより、現在執筆中の博士論文や今後の研究で目指す方向をより明確に意識することができたように思います。
 もうひとつのイベントは、指導教員の勧めで参加したもので、炭坑労働者のストライキで有名なケンタッキー州ハーラン郡の歴史について書かれた『America Profonda』という本の出版記念会です(Alessandro Portelli, America Profonda, Due secoli raccontati da Harlan County, Kentucky, Donzelli, 2011)。 ちょうどイタリアでストライキのあった19日に開催されたこの出版記念会では、1976年のドキュメンタリー映画『Harlan County, USA』の一部を見ると共に、著者の詳しいお話を聞くことができました。 ハーラン郡では劣悪な労働環境と貧困に苦しむ炭坑労働者により30年代と70年代に大規模なストライキが行われており、30年代のストライキにはドライザーやドスパソスなどの作家が駆けつけ『Harlan Miners Speak』を出版した他、炭坑労働者の妻によって作詞された曲『Which Side Are You On?』が有名になるなど、文化的にも大きな影響を与えた出来事だと言えます。この出版記念会では、労働運動に関するイタリアとの比較など、論文執筆の上で大変参考になるお話も聞くことができました。

 

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