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2011年11月 月次レポート(横田さやか イタリア)

月次レポート 2011年11月 
博士後期課程 横田さやか 
派遣先:イタリア、ボローニャ大学

 今月も大学院の講義に出席しつつ論文執筆作業に専念した。平行していくつかのシンポジウムに参加する機会にも恵まれ、さまざまな角度から刺激を受けながら慌ただしくも充実したひと月を終えた。
 まず、ボローニャ大学映画・音楽・演劇専攻運営、文化プロジェクト(CIMES)企画による、「能、現代の伝統」(Teatro nō, una tradizione contemporanea)を標題に掲げたシンポジウムが同大学にて開催された。イタリア国内からは日本の文学、伝統芸能などの研究者が顔を揃え、日本からは能楽師である静岡芸術文化大学梅若猶彦教授が招かれ、イタリアの学生を対象にして能の演技指導のワークショップとその発表会としての公演が行われた。梅若猶彦演出・台本によるその演目The Italian Restaurantは、伝統的な能を新しい演出で演じる、いわば現代版の能パフォーマンスである。イタリアの学生が演じるイタリア語による能舞台は非常に斬新で、難解な、あるいはむしろシンプルなキーワードが無数に提示されていた。舞台を鑑賞しながら、伝統と革新、現実世界と仮想世界、現実と記憶、表現性とテクニック、役者と登場人物、役者と観客、舞台と客席、あるいは、わたしと他者、等々のキーワードで溢れる劇場空間のいったいなにを糸口にして自分(観客)と他者(舞台)を融合させることが出来るのかと、思いがけずたじろいでしまうような感覚をおぼえた。日本の伝統芸能現代化の過程はその前衛芸術運動と合わせて報告者にとっても興味深いテーマであり、更に知識を深め今後もさまざまな演目を鑑賞していきたい。
 また、ボローニャ大学を退官されたカジーニ・ローパ教授が代表を務められる、全国ダンス・教育・社会協会(DES)主催のシンポジウムにも参加した。この協会は、舞踊研究者、また指導者らによって組織されており、参加者の専門分野もまた、文化政策、教育、あるいは舞踊療法関係等多岐に渡っていた。なににつけても経済危機だからと嘆かれるこんにち、舞踊にまつわる社会、経済問題などを共有し、情報交換をしながら現状をより良いものに向上していこうとする共通意識がこうして現実的にイタリアの舞踊界の土壌を支えている現状は非常に喜ばしいことである。
 さいごに、パヴィア大学音楽学学部にて開催された、18世紀の劇場舞踊をテーマにしたシンポジウムに参加するため、音楽の街クレモナを訪れた。このシンポジウムでは、報告者の指導教員であるチェルヴェッラーティ教授らイタリア国内の舞踊研究者、音楽学研究者、またドイツから招かれた研究者がそれぞれ研究発表を行い、この時代を研究対象とする音楽学研究者と舞踊研究者間の情報交換を促進することも目的とされていた。例えば、音楽学の研究者が当時の自筆譜を調査する過程で、そこに書き込まれた舞踊パートについての覚え書きを取り上げて考察することは少なく、一方で、当時の舞踊を研究するにあたって舞踊研究者が音楽の自筆譜を一次資料として調査し舞踊に関するわずかなメモ書きを見つけることは当然のことながら非常に難しい。そういったこれまでおざなりにされてきた空白を埋め、音楽と舞踊の領域を越境して研究成果を互いに流通させることが必要とされている。報告者の研究テーマには直接関わらない時代であるが、20世紀初頭に未来派が誕生した土壌という過去を理解することなしに、その意義を読み解くことはできない。この点において、「イタリア共和国」という国家がまだ存在しない時代の劇場芸術における音楽家、演出家、振付家の汎ヨーロッパ的往来を改めて地理的に俯瞰する機会となり、また、ご縁があるとは想像だにしなかった、研究書の著者と面識を得ることも叶い、収穫の多いシンポジウムであった。


 

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