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2010年7-8月 月次レポート(中田俊介 フランス)

                       ITP-EUROPA月次報告書(7-8月)

                                中田俊介(フランス、エクス=マルセイユ第一大学)

 7月以降は、8月に私の在籍するLPL(エクス=マルセイユ大学言語音声研究所)が夏休みに入ることもあって、先生方とのミーティングをできるかぎり重ね、帰国後の作業の道筋を確かなものにすることに努めました。
 分析の対象とするデータの抽出に関しては、ブリジット・ビジ教官が、もともと私の扱っている音声コーパスCIDの自動処理を研究されていたため、そのご協力のもと、16人のすべての話者について必要な部分を自動的に取り出すことができました。集められたサンプル数から、統計的にも充分な規模のデータが得られている可能性が高いのですが、分析の過程でデータの拡充が必要となれば、分析の対象とする統語構造を増やして、適宜補うことを考えています。
 抽出されたデータの分析そのものにおいては、原則的な方針の妥当性を指導教官にチェックしていただいた後、具体的な処理については同じLPLに在籍しているポスドクの方に協力を請い、やはり処理の自動化を進めています。
 東京外国語大学およびエクス=マルセイユ大学で提出した二つの修士論文では、データの分析はその大部分を手作業で行いました。それは双方で扱ったデータが音声実験によるものでサンプル数が限られていたために可能だったことですが、今回博士論文で扱うデータは、実験データではなく、自発的な音声を録音した大規模コーパスであるため、あらゆる段階で処理の自動化をどこまで進められるかが大きな課題になっています。
 データの分析においては、具体的には、音節の長さを測り、高さの変化の変曲点の時間的位置を測り、ついでそれらの時間的・音調的変化のイベントがどのような種類のアクセントに分類されるのか、というグループ化を行います。これらの作業の自動化は、先のポスドクの方も去年提出された自身の博士論文の執筆課程で直面された課題であったので、音声分析ソフト上の処理におけるプログラミングについて、彼女から貴重なご協力が得られました。
 LPLには常にこのようなポスドクの方が数人在籍されていますが、その中に私と同じくフランス語のプロソディー(アクセント、リズム、イントネーション等の韻律的特徴)を専門とする方が他にもおられ、折にふれて共通の論点について議論をする機会を得ました。文のフォーカス(焦点)が示される意味構造とイントネーションの関係を研究テーマとされていて、より基本的なイントネーションの構造をテーマとしている私とは、対象が全く重なるわけではありませんが、乗り越えるべき先行研究の多くが重なっており、何がなされていて何がこれからなされなければならないか、といったことについて、互いの見解を戦わせることができたのは、自国では同じフランス語音声学・音韻論を専門とする学生との議論の機会をもつことがお互いに困難なだけに、きわめて有意義な経験でした。また彼からは、私自身の作業仮説についても積極的な批判を得ることができました。
 データ分析の最終段階である統計処理については、修士論文でもお世話になったロベール・エスペッサー教官にアドバイスをいただいています。データの抽出・分析の前半部分(時間情報・韻律情報のラベリング)の自動化という課題の克服に多くの時間を費やしてしまったため、統計処理の手法については、今回の滞在中に残念ながら最終的な段階にまで至ることができませんでしたが、今後の打ち合わせはスカイプやメールを通じて継続することになりました。
 今回、ITP-EUROPAの派遣プログラムによって、LPLに3ヶ月滞在する機会を与えていただいたことにより、博士論文執筆上の主要な課題について、フランス側指導教官ヨアン・メナディエ氏をはじめ、多くの研究者の方々から貴重なアドバイス・ご助力をいただくことができました。このような貴重な機会をあたえてくださった本派遣プログラム、および派遣にあたってサポートしていただいた方々に厚く御礼申し上げます。今後は、執筆上の遅れをとりもどし、無事博士論文を仕上げることがこれまでのご助力にお答えする最善の方法と心得ております。どうもありがとうございました。

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