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2010年5月 月次レポート(中田俊介 フランス)

                    ITP-EUROPA月次報告書5月

                               中田俊介(フランス、エクス=マルセイユ第一大学)

 ITP-EUROPAプログラムに支援をいただき、5月1日より3ヶ月の予定で、南フランスのエクス=アン=プロヴァンスに来ています。私は今年度がエクス=マルセイユ第一大学(通称プロヴァンス大学)と東京外国語大学とによる博士論文共同指導の最終年度にあたり、今回はこちらの指導教官の指導のもと、博士論文を完成に近づけるための滞在です。
 エクス=アン=プロヴァンス(よく略してエクスと呼ばれます)は、紀元前2世紀にローマ人によって建設され、中世にはプロヴァンス地方の首都ともなった古い町です。旧市街は横切るのに20分とかからないような小ささですが、かつて司教座があった市庁舎広場の近くには革命前からの貴族の邸宅も多く残り、南仏のうららかな気候の中でも、ゆったりと落ち着いたたたずまいのある街です。60年の歴史を誇るエクスの音楽祭には毎年世界有数の音楽家たちが訪れ、文化会館では世界各国の芸術家の展覧会や講演会が盛んに開催されています。アンジュラン・プレルジョカージュのバレエ団が本拠地とする都市でもあり、この街の多彩な文化活動は近隣の大都市マルセイユを凌ぐ水準です。
 雲のない青い空が特徴的な地方ですが、5月の半ばまでは曇りや雨で気温も低い日々が続き、ニュースでも「5月の冬」などと報道されるほどでした。2週間ほど前からようやくプロヴァンスらしい陽気が定着しています。先月のどんよりとした天気は室内にこもって作業をするには最適でしたが、今では外に出ると非常にさわやかで、一日一回は太陽の下に出て気分転換をはかるようにしています。
 私は2006年10月から1年間、プロヴァンス大学の修士課程2年次に編入留学し、翌年の修士課程修了時に東京外国語大学との共同指導による博士課程に入学しました。修士課程ではAlbert Di Cristo教授を指導教官に修士論文を執筆しましたが、同教授は退官され、博士課程ではその一番弟子であったYohann Meynadier准教授のもとで、修士論文を発展させた内容をテーマとして研究しています。対象はフランス語のイントネーションで、実際の発話においてそれがどのようなメカニズムにもとづいて形づくられるかを分析しています。
 今回の滞在ではまず、そのために立てている7つほどの仮説について、その問いの立て方の練り直し、およびその具体的な検証のための分析を進めると同時に、仮説の提示に到るまでの先行研究の総括の執筆を続けています。分析対象とする話しことばコーパスは、私が博士課程の学生として在籍するプロヴァンス大学付属の言語音声研究所(Laboratoire Parole et Langage、通称LPL)で構築されたもので、同コーパスはLPLの研究者や博士課程の学生の論文において分析対象となり、その成果が国際学会で発表されています。
 LPLは昨年まで、旧市街から南に下ったプロヴァンス大学の5階にありましたが、現在は旧市街北端の新たな敷地に移転しています。授業は大学と研究所の双方で行われ、教師も生徒も2つのキャンパスを行き来しています。LPLは、その図書館が言語学・音声学関連文献の充実度において国内随一の水準で、図書館の文献を参照するために訪れる研究者も少なくありません。私の研究に必要な文献についても、日本語になっている文献はほとんどないだけでなく、フランス語のものでも参照するのはほぼ学会誌掲載の論文になるため、主要学会誌がそろっている本図書館を利用できることは、研究を進める上での大きなメリットになっています。
 またLPLでは、国内外の研究者が訪れ、音声学のみならず、言語病理学、社会言語学、言語教育学など、言語の研究に携わる分野について、定期的にセミナーが開かれています。今月下旬には、先日亡くなられたクレール・ブランシュ=バンヴェニストの足跡を辿る特別セミナーが、彼女と共にエクス学派の話しことば研究を築いたフランス語言語学科のドゥロフ教授によって行われる予定です。研究に直接的間接的に刺激となる機会に多く恵まれています。

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         市庁舎(左)と時計台(中央)          エクスの目抜き通りミラボー通り

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