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2010年1月 月次レポート(石田聖子 イタリア)

月次レポート
                          (2010年1月、博士後期課程 石田聖子)(派遣先:ボローニャ大学 [イタリア])

 イタリアの諺「Paese che vai, usanza che trovi(訪れた地に風習あり [郷に入っては郷に従え])」に従い、2010年は、爆竹とシャンパンで、例年になく賑やかに新しい年を迎えた。新年が近付くに従い、あちらこちらで耳をつんざかんばかりの爆発音が鳴り響き、空が真っ赤に染まり、一面に煙がたちこめる様は、除夜の鐘の音を聞きながら静かに年越しをするのを習慣としている派遣者にとり、イタリア文化の魅力の本源となっている(と派遣者が考える)イタリア特有のダイナミズムを全身全霊で経験する喜ばしい機会となった。また、新しい年を迎え、研究に精進する決意を新たにした。
 さて、試験期間にあたる今月は、講義もなく、自身の研究に専念した。
 月前半は、11月より作業を続けている『笑いと創造(第六集)』(ハワード・ヒベット、文学と笑い研究会編、勉誠出版)に投稿するための論文作成を行った。執筆は先月末には終了していたため、推敲が主な作業内容となった。推敲には予想以上の困難と時間を要したが、月半ばには、東京外国語大学側指導教員の和田忠彦教授に原稿を送付し、電子メールを通じて指導を受けた。指導教員の指導をもとに更なる推敲を加えた原稿を、続いては、本書に掲載する論文を取りまとめてくださる成蹊大学名誉教授羽鳥徹哉教授に郵送し、丁寧なコメントつきの原稿を返送していただいた。現在は、本提出に備え、最終推敲に取り組んでいる。
 上記の論文作成作業がひと息ついた今月中旬以降は、講義がなく、時間を気にする必要がないという今月の利点を生かし、博士論文に必要な映画の鑑賞を集中的に行った。主に鑑賞したのは1905~1915年に製作されたイタリア喜劇映画である。より具体的には、早変わりの芸で知られるレオポルド・フレーゴリ(Leopoldo Fregoli)、クレティネッティ(Cretinetti)との芸名のもと活躍したアンドレ・デード(André Deed)、トントリーニ(Tontolini)、及び、ポリドール(Polidor)との異名をとったフェルディナンド・ギョーム(Ferdinand Guillaume)、フリコット(Fricot)、クリクリ(Kri-Kri)、ロビネット(Robinet)らによるスケッチであり、フィルムは、ボローニャ大学派遣者所属学科映像資料館、及び、市内シネマテークの所蔵によるものである。20世紀初頭の笑いの身体表現の例として、いずれも大変に興味深く、来月にかけても、上記の作家を扱う批評の収集、精読とも並行して、鑑賞と分析を続けていく予定である。
 また、先月に引き続き、今月も、ザヴァッティーニ没後20周年を記念する催しが行われた。概要は以下の通りである。
―――「Macroradici del contemporaneo: Cesare Zavattini inedito(現代の起源を求めて:知られざるザヴァッティーニ)」(会場:Museo D'arte Contemporanea Roma [ローマ]):ザヴァッティーニによる未発表絵画作品200点を中心に、絵画、映画関連資料を展示する企画である。ザヴァッティーニにより日記さながらに折々にメモ帳に描きつけられた小さな作品にみる主題の多彩さがまず派遣者の目を引いた。終始、同じモチーフを描きつづけたザヴァッティーニであるが、そこには、いつものそれとは違うモチーフも数多く登場していた。とりわけ、猫の絵が印象的であった。次いで、本展覧会で興味深かったのが、1943年にヴェネツィアの画廊Galleria del Cavallinoにより企画された絵画コンクール「Il gioco del Paradiso(天国の遊び)」関連の展示物である。同コンクールは、同時代のイタリア人作家の絵の腕前を競うという史上稀な企画であり、また、ザヴァッティーニが最優秀賞を受賞し、画家ザヴァッティーニの才能発見の契機となった点でも重要なイベントである。同コンクールに参加したルイージ・ピランデッロ、アルベルト・モラヴィア、エルサ・モランテ、ディーノ・ブッツァーティ、エウジェーニオ・モンターレ他、錚々たるメンバーによる出品作品も同時に展示されており、それまで、専ら、ことばを通じて知っていたはずの作家たちの別の表情を垣間見ることができたという点でも派遣者にとり意義ある機会となった。さらに、来場者の多さもこの展覧会において目を引く要素のひとつであった。これまでに訪れたどのザヴァッティーニ関連展覧会においても、来場者は派遣者ただひとりというのが通例で、ザヴァッティーニの認知度の低さをうかがわせたが、本展覧会には次々とひとが訪れ、ザヴァッティーニへの関心の高まりを期待させた。
―――「Zavattini e la tv: un'apertura alla realtà e alla democrazia(ザヴァッティーニとテレビ:現実と民主主義に向けて」(2010年1月21日、会場:Cineteca del Comune di Bologna [ボローニャ]):"Zavattini ha le antenna. Pensieri sulla televisione(アンテナ人間ザヴァッティーニ ―テレビをめぐる思索)"(A.C. Maccari, Bulzoni, 2010)刊行を記念する、ザヴァッティーニの多様な活動のうちでもテレビというメディアを中心とした活動とその思想をテーマとしたシンポジウムで、ザヴァッティーニ没後20周年に関連した一連の催しを締め括る催しとして企画された。ザヴァッティーニのテレビへの関わりは、これまでにテーマ化されたことがなく、ザヴァッティーニの新たな側面を照射する史上初の試みとなった。本シンポジウムは、イタリア映画史研究の泰斗であるパドヴァ大学のGian Piero Brunetta(ジャン・ピエロ・ブルネッタ)教授をはじめ、イタリアにおいても決して数多くないザヴァッティーニ研究者が一堂に会する機会でもあった。文学、映画、演劇、ジャーナリズムと、論者の専門領域こそそれぞれ異なるものの、ザヴァッティーニの功績理解には包括的な視点が必要であるという点で意見が一致し、今後のザヴァッティーニ研究に向けての意思を確認してシンポジウムは幕を閉じた。
 
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     展覧会                          シンポジウム
「Macroradici del contemporaneo:        「Zavattini e la tv: un'apertura alla realtà 
 Cesare Zavattini inedito」(ローマ)会場      e alla democrazia」(ボローニャ)会場

 

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