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2010年11月 月次レポート(石田聖子 イタリア)

月次レポート
                           (2010年11月、博士後期課程 石田聖子)(派遣先:ボローニャ大学 [イタリア])

  例年より早い初雪の舞い降りたボローニャにおける今月の作業としては、来月に参加をひかえたシンポジウムでの発表のための準備を主として行った。発表は、「Da Perelà a Totò ―Sulle forme del comico nella cultura italiana del Novecento/ペレラからトトへ ―20世紀イタリア文化における笑いの諸相」という表題のもと、パラッツェスキ(Aldo Palazzeschi: 1885-1974)とザヴァッティーニ(Cesare Zavattini: 1902-1989)という20世紀イタリアを代表する笑いの作家の生んだ表象(ペレラとトト)のあいだにみられる類似点、相違点の検討を通じて、二人の作家に特徴的な笑いを明確に区分するための予備的考察を行うものである。論点は、1976年に開催されたパラッツェスキをめぐるシンポジウム「Palazzeschi oggi」にて、映画批評家マリオ・ヴェルドーネが行った、パラッツェスキの小説『ペレラの法典』(Il Codice di Perelà, 1911) とザヴァッティーニの小説『善人トト』(Totò il buono, 1943)(後に映画『ミラノの奇蹟』[Miracolo a Milano, 1951])の親近性を指摘する発言に想を得たものである。事実、パラッツェスキとザヴァッティーニ作品を支える動機、表象はいずれも大変似通っており、表象レベルから作家レベルに至るまで、共通点は枚挙にいとまがない。しかしながら、この発言以降現在に至るまで、パラッツェスキとザヴァッティーニを同列に語ることは、ふたりの活躍した年代とフィールドの違いからか学術レベルではほとんど行われてこなかったという事実があり、また、そうしたふたりの生みだした表象を笑いの精神のもとに明確に区別して示すことは派遣者が現在準備中の博士論文においても大きな課題のひとつであることから、今回のテーマを選択するに至った。今月中旬の発表原稿完成後には、シンポジウムで派遣者のコメンテーターを務めてくださるボローニャ大学側指導教員のもとに持参して指導を受けた上で原稿に適宜修正を加え、その後、電子メールを通じて、本学側指導教員に指導を仰いだ。発表原稿作成の傍らではまた、発表時に聴衆に配布するレジュメ、及び、パワーポイント資料の作成も行った。
  ところで、今回の発表準備には通常の博士論文作業を中断するかたちで携わった。複数の作業を並行してこなすよりひとつの作業に集中してあたるほうが成果を得やすい派遣者の性分のためには仕方がないとはいえ、論文作業を一旦脇に置くことは、それまでの思考とリズムを失うことになるために、論文作業の遅延が気に懸っていた派遣者にとって発表準備へと気持ちを切り替えることには当初若干の勇気を要した。しかしながら、発表原稿完成後に論文作業を再開してみると、発表準備の際に培った視点が論文作業の現状に思わぬ刺激を与えるものであることが判明した。発表テーマが博士論文最終章に関わるものであるために、現在執筆中の章とは直接に関係するわけではないものの、論文全体の方向性がより具体的なかたちでたちあらわれてきたという印象がある。現在に至るまで、進めども先行きがおぼろげな論文作業を前に途方に暮れることは一度ならずあったが、今回の件が、今後の論文作業において強力な動機として作用することになるには間違いないと思われる。
  さて、今月中旬にはまた、派遣者の属する演劇映画専攻博士課程の学生の成果発表会が開催された。連絡ミスがあり、派遣者には開催数時間前にようやく知らされたことから、事前準備がほとんどできないままにこの博士課程プログラムきっての大イベントに臨むという事態に陥った。ずらっと居並ぶ教授陣と同課程に所属する博士課程の学生全員を前に、この一年間の成果とその重要性、今後の展望をほぼ即興で訴え、教授陣の指導と批判を仰ぐこととなったわけである。イタリア人学生であっても緊張した面持ちで入念に準備した原稿をもとに発表に臨む場であり、派遣者自身、前回の開催時には大変耳に痛いご意見を頂戴した場でもあることから緊張感は最高潮に達した。結果としては、必要な事項を漏れなく無事に伝えることができ、また、委員会からも有益な意見をもらえ、事無きを得たものの、こうした即興の口頭表現をより的確に行う必要性をはじめとした派遣者にとっての諸課題の重さを身をもって実感させられる機会となったのは確かである。
  最後に、今月末にはまた、『笑いと創造(第六集)』(ハワード・ヒベット、文学と笑い研究会編、勉誠出版)が完成し、実物を逸早く手にした日本の家族にテレビ電話を通じて現物を見せてもらった。ちょうど一年前の同時期に執筆を行った拙著論文「笑う<わたし> ―チェーザレ・ザヴァッティーニの初期文学作品における<わたし>」を収める大部の論文集である。実際に冊子のかたちで結実した自らの研究成果を目にするのはそれだけでも充分に喜ばしいものであるが、なにより、この論文は、独立行政法人日本学術振興会「若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラム(ITP)」による支援があってこそ出来した成果であることを思うと、改めて、支えてくださった方々への感謝の思いがこみあげてくる。関係者の皆さまには、この場を借りて、完成のご報告をさせていただくとともに、改めて、今回の研究にご支援をくださったことに心からのお礼を申し上げます。

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