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2011年11月 月次レポート(佐藤 貴之 ロシア)

活動報告書(11月)


佐藤貴之
派遣先:ロシア国立人文大学

 今月上旬から派遣先大学の外国語センターではロシア語非母語話者の大学院生用(受講者は執筆者を含めわずか四名)にセミナーが開催されることとなった。このセミナーでは、論文を執筆するためのロシア語、学会等の場で研究報告するためのロシア語を学ぶことができる。セミナーに参加しているのは、ロシア語非母語話者とはいえ、学部時代からロシアで暮らしている院生が多く、レベルの高い授業が展開されている。このセミナーの最終目的は、来年の5月に派遣先大学で開催される研究会で報告する論文執筆の準備にある。また、ロシアの人文系大学院では博士論文を提出するためには大学側が課す外国語、専門領域、哲学の試験をパスする必要があるが、哲学の試験対策が来月から開催される。哲学の知識が博士論文審査の必須条件にあるというのは、日本の大学院からすると異様な感覚を覚えるが、哲学を人文学研究の基礎に置くというのは一つ驚きである。
 また、上智大学付属ヨーロッパ研究所に投稿した論文「ピリニャーク創作における日本の表象―西と東の狭間で―」(ロシア語、査読付き)が審査を通過し、今年度刊行される論集「上智ヨーロッパ研究」に掲載されることが決定した。現在は査読結果と指摘を踏まえ、最終稿の完成に取り組んでいる。
 上記の作業と並行する形で、来年の2月にエストニアのターリン大学付属スラヴ言語文化研究所で開催される「若手人文学者国際会議」Международная Конференция Молодых Филологовで報告予定の論文に取り掛かっている。創設以来、今年度で13回を数えるこの国際会議は、言語学研究と文学研究の2部門からなっており、毎年40人近くの若手研究者がバルト三国をはじめ、ロシアの各地域から集っている。ターリン大学は、この会議における報告をもとに論集「スラヴ研究」Studia Slavicaをほぼ毎年刊行している。参加申し込み締め切りは12月中旬、開催は来年の2月16日から18日。詳細は以下のリンクから。http://mkmftallinn.blogspot.com/
 今回、報告する論文の内容としては、執筆者が取り扱っているボリス・ピリニャークと同時代を生きた作家アンドレイ・プラトーノフの共作関係を取り上げる予定である。年輩のピリニャークとプラトーノフは1920年代末、一種の師弟関係にあり、共作でいくつかの作品を執筆していた。プラトーノフは日本でも研究、翻訳作業が進んでいるとはいえ、ピリニャーク研究の立ち遅れがあるせいか、ピリニャークとの関連で論じている研究は見られない。ロシア本国となると、両作家の一次資料が刊行されるにつれて俯瞰的比較研究が次第に試みられるようになっている。今回の報告では、作家間の境界にある作品の分析を通し、「個人」としての作家から「我ら」としての作家へ移行していく過程を記述し、1920年代末に社会主義リアリズムへと次第に移行していった文壇の思潮に連結させて論じたい。
 来月の報告でも詳述する予定だが、年明けからは別件の国際会議申し込みが予定されており、読み込む資料が山積しており、寝不足の日々が続いている。いずれにせよ、学会は冬から春にかけて開催されることが多く、夏を迎えるとぱたりとやんでしまうようだ。したがって、冬に学会報告論文を執筆し、春以降はそれらをいかに博士論文に組み込んでいくかといった作業を行うことになるのではないかと予想している。

以上

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