走る師匠
実は当方には「師匠」と呼ばせていただいているセンセイが数名いるのだが、そのうちのお一人が、ワセダのパンキョー(=一般教養、死語?)ゼミ時代にお世話になったハラショーこと原章二先生である。当時の同ゼミはポスト・モダニズムと飲酒の香り高く、何年生なのかわからない諸先輩方が群れるなかにセンセイが埋もれていた。しかしセンセイは五〇歳の声をきくころ体調管理のためにマラソンを始め、今ではフルマラソンを通算百回以上こなし、トライアスロンとかもできるアスリート哲学者(=ご本人いわく、ただ走る哲学者)である!その師匠がこのたび『マラソン100回の知恵』(平凡社新書)という本を出した。
もちろんこの本、サブタイトルの「…市民ランナーのために」という看板が示す通り、きわめて具体的なアドヴァイスや小さな知恵に満ちている。しかしその極意はむしろ、それらの知恵を通じて示される「いのちの美学」の実践にある。それは原さんがずっと追い求めてきたテーマである。当方はこれまでもこれからも、きっとマラソン・ランナーにならないが、働いて暮らして生きるなかで、歩いたり身体を使ったりすることの楽しさや美しさを振り返るきっかけをもらった(思わず今日の帰りは、大学から20分以上かかる最寄り駅まで歩いてしまった)。走る哲学者である師匠が、みずからの体験をさらして清々しく示す「いのちの美学」。老若男女、いろんなひとにお勧めしたい。