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ことば6題

1. ださせていただいたり

これは割と最近よく聞きます。巷で大きな話題になっている「させていただく」が、「出る」についています。2022.7.8のJ-Wave, Sapporo Beer Otoajitoで、東京出身の20代前半のゲストAile The Shotaが、「こういうラジオとかに出(だ)させていただいたり」と言っています。「させていただく」を取り除くと、「出(で)る」が残る筈なので、正しくは「出(で)させていただいたり」あるいは、「出(だ)していただいたり」が、従来からの正解かな?とは思うのですが、「させ」という使役の接尾辞があることもあり、その前が「出る」か「出す」かという、自動詞か他動詞かというのは、曖昧にしていても通じてしまうということなのでしょうか。

同様のことですが、2022.9.6、TBSラジオふわっち presents らじおっつで、カカロニ
の栗谷が「ロンドンハーツに出(だ)さしてもらいましたね」と言っています。

これは、「他動詞を使役派生しても、結合価が増えないことがある」っていう現象なのか、それとも、いわゆる「サ入れ言葉(読まさせていただきます)」に連なるものなのか。もっと観察して、例を集めなければなりません。というか、なんだか定着していますね。

2. 愛媛のを(wo)

ちょっと前に、愛媛の人は、助詞の「を」をwoと発音するというのが話題になっていました。

https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2208/17/news157.html

それより数ヶ月前に、言語学徒の間でも、古文のoとwoの区別を保っているというわけではないが、「ワ行」で、wを発音するのが、「ワ」だけで、母音がaではないときには発音しないというのが、長いこと東京共通語の規範となってきていた。しかし最近だと外来語でウォーターなど、wôtâと発音する個人も増えてきて、外来語じゃなくても、woを発音する個人が出てくることは、驚くべきことではないという話になっていました。

言語学徒がもっと喜びがちなのは、古文で「お」、「を」と書き分けられていたものが、現代でも発音しわけられている!なんてことがあった場合です。因みに、沖縄の諸言語の中にはその区別を(別な形にはなっているかもしれないが)保っている言語があります。

話題になった愛媛のそれは、現代仮名遣いで「を」と書かれる助詞の「を」だけに限った現象で、「いとをかし」の「を」もwoと発音するわけではないので、そこまでは面白く無いのです。研究者って、つまらなくてすんません。

3. J-Wave, Musix Asia

J-WaveのMusix Asiaという番組で、番組のオープニングのところで、アジア諸国の名前を英語風に並べていくのですが、なんか変なのです。何が変かというと、英語での国名と違うものを、もっというと日本語のカタカナで書いた国名を、英語風に発音しているのです。(国際音声記号ではなく、日本の英語教育で使われている発音記号風に書きます。)

韓国 [kɔ́ːriə] (英語では[kəríːə])
モンゴル [mɔŋǵoul](英語では[mɑŋǵouliə])
タイ [tái](英語では[táilænd])

特に、韓国なのですが、私の推測は、カタカナで「コリア」と書いたときに、後ろから3番目の拍に自然とアクセント核が付与されて、「コリア H]LL」となるのが、日本語の外来語のアクセント規則の合致しているのではないかと思うのです。それが、アクセントごと英語に「逆輸出」されると、[kɔ́ːriə]という発音になるのでは無いかと推測しています。

ただ、形容詞形は、カタカナ語では、「コリアン LH]LL」と、やっぱり後ろからあ3番目にアクセント核が付与されることが多いように思いますが、「コリア H]LL」のバリエーション、「コーリア HH]LL」から、「コーリアン HH]LLL」とし、和式英語の中で、[kɔ́ːriən]と発音する人も耳にすることがあります。

4. 復帰っ子

沖縄が、本土に復帰した1972年に生まれた子供を、沖縄では「復帰っ子」と呼ぶらしいのですが、これが、なかなかエキゾチックに響くなあ、とちょっと感じました。促音を持つ音節が2つ続くということが、結構すくないからなのではないか?というのがひとまずの推測です。

横浜中華街の萬珍樓に、以前お粥の専門店、薬粥舗(よっちょっぽ)というのがあったのだそうです。そのテレビCMを見て聞いて、「よっちょっぽ」という名前がエキゾチックだなあと、確か子供の時の私は思ったことを覚えています。音素配列論的に、何か不規則なことをしているわけでは無いんだけれど、日本語の中では、促音を含んだ音節は2つ並んだりは、あんまりしないということなのかと、今では考えています。

韓国料理に、トッポッキという食べ物がありますが、これも、日本語内ではよくトッポギと呼ばれています。

https://chongul.com/korean-food-toppogi/

これはまさに、促音を含む音節が2つ並ぶことを回避したのではないかと思うのです。(韓国、北朝鮮、延辺の方言形にあるというのなら、私の憶測は間違っていることになりますが。)

5. ミノキシジル

男性型脱毛症(AGA)の治療薬の1つにミノキシジルという成分があります。複合語と認識されない外来語としては、後ろから3つ目の拍にアクセント核が付与される、ミノキシジル (LHHH]LL)となりそうなのですが、ミノキシジルを含有した某治療薬あるいは医薬部外品のラジオCMで、ナレーターがミノキシジル (LHHHH]L)と発音しています。これは、ジルを汁と同定しちゃったのでは無いか?と訝しんでいます。ステーションがステン所になるのと同じようなプロセスを経た感じですね。

6. gråtrunka

英語ベースのネット界隈で、1、2ヶ月前に、スウェーデン語にはgråtrunka (to cry while masturbating、自慰中に泣く)という単語があると話題になっていました。

https://www.dictionary.com/e/translations/gratrunka/

それだったら、日本語の(実際に起こるかどうかも疑わしい)テクノブレイクの方が数段斜め上を行っている感じがしますけどねw

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2022年9月 9日 23:01に投稿されたエントリーのページです。

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