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ことばのよしなしごと

ことばに関するメモ

「日本語で開いた体系な疑問詞」

日本語の疑問詞は、「なに」、「だれ」、「どこ」といった
レベルでは、閉じた体系を成していますが、
「(単)語レベル」では、厳密に言うと、開いた体系を成しています。

理由は、合成(compounding)という手法で、どんどん新たな
疑問「詞」を作れてしまうからです。

某SNSのとあるコミュニティーのトピックに
「みんな、どこ住み?」というのがあります。

答えは、「東京住み」だったり、「大阪住み」だったり
するのですが、こうした、合成による、
新たな疑問「詞」の語形成が、日本語では
結構盛んなように思われます。

干支を訊く「なにどし?」なんていう表現や、
「あの人、なに山さんっていう名前だったっけ?」なんていう表現が
合成によりどんどん作れます。

動詞の形態論は膠着的であり、名詞の形態論は
(合成、助詞使用も含めて)孤立的とは、
夙に故河野六郎先生が生前書いていらっしゃいました。

日本語は、また最近、合成を含めた「孤立性」を
豊かに使用するようになっている感があります。

動詞の「膠着性」(接辞による語彙素形成)
にはそれと同等の自由度・生産性は
無いように思われます。

「限定語句後置」

ウイークリーマンション東京に似た、
新銀行東京、首都大学東京といった、
某知事による「限定語句(=修飾語句)後置」による
命名は、非常に不評でしたが、
それは置いておいて、「限定語句を主要部の後ろに置くこと」に
ついて、ちょっと考察しようと思います。

コーヒーショップで聞かれる「アイスコーヒーM」
なんていう表現において、この「M」は、
後置された限定語だと思われます。
主要部にはなっていません。

同様にコーヒーショップで、
「ドリップコーヒーのアイスをグランデでください」
において、「XのY」の部分は、
統語論的には、「Xの」が「Y」を限定する形に
なっていますが、でも、意味的には、
「X」に含まれる「コーヒー」を「アイス」が
限定しているようにも思われます。

また、「グランデで」というものは、
「ドリップコーヒーのアイス」という名詞句の外にあって、
「~で」はコピュラ「~だ」の言わば「~テ形」であり、
同格(appositional)句的に働いています。

意味的には、「グランデで」が、「コーヒー」を
統語論的にはかなり離れたところから限定している
ようにも見えます。

閑話休題。

また、京料理の名称に出て来る
「大根の炊いたん」の様な表現においては、
「炊いた」が、形式名詞「ん」を限定していて、
その前に「大根の」を置くことで、「大根」は
「ん」と同定され、炊かれているのは、大根だという
ことになります。

これも、統語論的には、「大根の」が「炊いたん」を
限定する形になっていますが、意味の上では、
「炊いた」が、「大根」を限定しています。

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2010年5月14日 21:28に投稿されたエントリーのページです。

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