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ハイブリッド借用語について

ハイブリッド借用語(hybrid loanwords)という用語は、
少なくとも、2つのそれぞれ独立した場面で
使われています。

1)Ghil'ad Zuckermannが、
http://www.zuckermann.org/
言語Aから言語Bへ借用が起こる際に、
その借用語の能記(=音形)が
言語Bの音韻体系、音素配列論に合わせるように
変形するというのは、通常の借用だけれども、
それだけでなく、言語Bに存在し
意味的に関係のある
他の(単)語や形態素の能記の
影響を受けてさらに変形することを
hybrid loanwordsとして指摘しました。

例えば、日本語の「背広」は、
ロンドンで、紳士服屋の多かった
Seville Rowという通りの名前からついたが、
(他に、civil clothesからという説もあり)
日本語の「背」、「広い」という2語の
影響を受けて、「背広(せびろ)」という
音形におちつきました。

また、英語のstationは、現在では
ステーションという形の借用語で
定着していますが、ある時期には、
ステン所(ステンショ)と
呼ばれた時期もありました。

また、これは、私の説です。
グミ・キャンディーのグミというのは、
Gummiから入ったということに
なっていますが、英語っぽいガミーにならずに
グミとして定着することには
日本の植物グミの影響があったと
考えるのです。

2)カン・ユンジョン(Yoonjung Kang)などが、
http://www.springerlink.com/content/t8077m0322627607/
英語から韓国語への借用の際、
現在では、直接英語から、韓国語の
音韻体系、音素配列論に合わせて変形された
借用語になることがほとんどになってきているが、
以前には、英語から日本語経由で、韓国語に
入った借用語があり、それをハイブリッド借用語と
呼んでいます。

私が思いつくのは例えば、
shirt → シャツ → ??(シャッス)
があります。今英語から直接借用されるとしたら、
shirt → *??(ショトゥ)
となりそうです。

--

ところで、Zuckermannの説に関する、
既存の他の語による変形は、
なにも借用に限る現象ではなく、
1言語の内部でも起こっています。

「あかぎれ」という語は、
もともと足を表わす「あ」と「かがり」の
合成語で「あかがり」だったものが、
後に、「赤」と「切れ」の合成語だと
最解釈されて、「あかぎれ」という形に
変形したというような例がそれにあたります。

asparagusが、方言形でsparrowgrassとも
呼ばれるというのは、asparagusが元々
ラテン語からの借用語ですから、
Zuckermannのハイブリッド借用語に
相当するのでしょうが、でも、
「あかぎれ」と近い現象のようにも
見えます。というか、両者は連なった
現象であり、截然と分けなければいけない
ものではないのかも知れません。

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2009年8月 8日 16:17に投稿されたエントリーのページです。

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