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2014年2月 アーカイブ

2014年2月11日

サブリナ先生の最終授業

長きにわたり東京外国語大学で教鞭を執っていただいたエレオノーラ・サブリナ先生の大学院の最終授業に行き、長年の労をねぎらうとともに本学のロシア語教育に貢献してくださったことに感謝して、前田先生と花束を贈呈する。
学部生や院生たちをとてもエネルギッシュに根気よく暖かく指導してくださった。
おおらかで人懐こく、お洒落でいらっしゃる。

サブリナ先生はモスクワ大学卒業、歴史学博士。本学の他、横浜国立大学、東京音楽大学でも講師を務めている。豊田菜穂子さんとの共訳書に 『プロコフィエフ短編集』(群像社、2009年)。2012年、日露関係の発展に寄与したとして「外務大臣表彰」を受けた。

サブリナ先生、学生や院生たちをご指導いただき、本当にありがとうございました!

院生たちとサブリナ先生
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2014年2月13日

『ロシア語圏留学ハンドブック』 完成!

お待たせしました!
ゼミ制作 『ロシア語圏留学ハンドブック』 が完成した。
ロシア語圏への留学を考えている人、必見!
ビザの取り方や延長のし方、各大学の手続き、留学前に準備するもの、到着初日の行動、学費、授業、住居、生活、お勧めスポット etc. etc. 情報満載だ。

原稿やアンケートを書いてくれた皆さん、ご協力ありがとう!
企画・編集・制作をこなしてくれた田中翔子さん、鶴田さおりさん、ご苦労様!


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表紙デザインは鶴田さん。
アヴァンギャルドな感じで「前へ、前へ、前へ!!!」というのがいかにも沼野ゼミらしいともっぱらの評判だ(ほんと?)。

留学体験談よりほんの一部抜粋しよう。
「国際郵便は Чистые пруды の中央郵便局に行く必要があります。(...)割り込みがあったり、突然キレ始めるおばちゃんがいたり、ハプニング大目です」(モスクワ大学)
「こんなに自分をゆっくり見つめる時間は後にも先にも、この留学期間だけだと思います」(サンクトペテルブルク大学)
「良くも悪くも授業数が少なくゆるーい大学」(モスクワ・ロシア国立人文大学)
「なんでもできます。むしろ何もしないこともできます。可能性はプラスにもマイナスにも無限大です」(モスクワ・国際関係大学)
「マイナス20、30°Cの空気のキンと張りつめた世界を歩くのは寒いけどすがすがしい」(イルクーツク・国際経済言語大学)
「(...ウラジオストクは)もはや私にとっては第二の故郷です」(ウラジオストク・極東連邦大学)
「ほとんどのベラルーシ人が日常的にロシア語を話しており、ベラルーシ語で会話する人はまずいません」(ベラルーシ・ミンスク国立言語大学)


2014年2月17日

シンポジウム 「ロシア文化の悲劇」

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来る3月8日(土)11:00-19:00 名古屋ガーデンパレスにて
「ロシア文化の悲劇 国家崩壊期の芸術」と題するシンポジウムが開かれる。

入場無料
問い合わせ: 名古屋外国語大学 グローバルシンポジウム「文化の悲劇」開催事務局
メール:mtada@nufs.ac.jp
ファックス:0561-75-1750


プログラムは以下のとおり。

第1セッション (司会:沼野恭子)
■基調報告1
コンスタンチン・ボグダーノフ (ロシア科学アカデミーロシア文学研究所上級員)
「真実、歓喜と "ロシアのシャンソン"-現代ロシアの一つ音楽的伝統の歴史」
■基調報告2
ヴャチェスラフ・ V・イワノフ (カリフォルニア大学ロサンジェス校)
「文化の悲劇――ペレストロイカ再考」

第2セッション (司会:鴻野わか菜 千葉大学准教授)
■基調報告3
エカチェリーナ・ジョーガチ (ロトチェンコ記念モスクワ写真大学教授)
「ペレストロイカから現代までの美術と政治」
■基調報告4
亀山郁夫 (名古屋外国語大学学長)
「国家崩壊後のロシアにおけるドストエフキー文学とその表象化」

第3セッション
■分科会討論A
岩本和久 (稚内北星学 園大稚内北星学園大教授)
「ヴィクトル・ペレーヴィンと現代ロシア」
■分科会討論B
鴻野わか菜
「イリヤ・カバコフ/ソ連文化/グローバル・アート・ワールド」

第4 セッション(司会進行 沼野充義 東京大学院教授)
■ラウンドテーブル「ロシア文化の悲劇をめぐって」
《パネリスト》
コンスタンチン・ボグダーノフ
エカチェリーナ・ジョーガチ
鴻野わか菜
亀山郁夫

2014年2月21日

小笠原豊樹 『マヤコフスキー事件』

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ウラジーミル・マヤコフスキーの死(1930年)は自殺だったのか他殺だったのか。
以前から「謎」とされていたこの問題を新しく出てきた証言や資料をもとに解こうというのが、小笠原豊樹 『マヤコフスキー事件』(河出書房新社、2013年)だ。マヤコフスキーの最期はもちろん痛ましいのだが、この本の謎解きの過程はミステリー仕立てでじつに面白かった。

証人の中でも中心となっているのは、マヤコフスキーの最後の恋人ヴェロニカ・ポロンスカヤ。マヤコフスキーの死について彼女が証言したり書いたりした文章が3つ紹介され、中味が劇的に変化していることが明かされる。

1930年の供述調書。
1938年の回想記。
1964年の原稿。

最初の調書では「マヤコフスキーの自殺の理由は私にはよくわかりませんが」としつつ自分(ポロンスカヤ)に振られたことや戯曲『風呂』の失敗をあげていた。ところが最後の証言では、秘密警察の関係者と思われる人物によってマヤコフスキーは謀殺されたのではないかと仄めかしている。つまり、雪解けの時代になってからようやく本当のことを書いて発表しようと決心したらしい(しかしこの原稿は行方不明になってしまった)。
今となっては真相を最終的に確認することは難しそうだが、彼の人生の最後の1年を共有したポロンスカヤの回想記は詳細でたいへん興味深い。

「きらきらと光り輝き、陽気で、驚くほど魅惑的で、絶えず自作の詩句を呟き、自分で作ったメロディにのせて、それらの詩句を歌ったりするかと思えば、一転して陰気になると、何時間も押し黙り、ちょっとしたことで苛々したり、気難しく辛辣になったりする」(p.45)―こんな人がいたら愛さずにはいられないだろう。
あのユーリイ・オレーシャが「私はマヤコフスキーに恋をしていた」(p.244)というのも頷ける。

2014年2月23日

ヴォドラスキンの現代的聖者伝 『ラヴル』

いま 『文藝年鑑 2014』 のために「ロシア文学の概観」を書いているのだが、昨年のロシア文学界における最大の収穫は、エヴゲーニイ・ヴォドラスキンの長編 『ラヴル』(AST、モスクワ、2014年) だったと言っていいと思う。
この作品でヴォドラスキンは「ボリシャヤ・クニーガ(大きな本)」賞と「ヤースナヤ・ポリャーナ」賞をダブル受賞。ロシア・ブッカー賞の最終候補にもノミネートされた。

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ヴォドラスキンは1964年キエフ生まれ(どうかウクライナの騒乱がこれ以上犠牲者を出しませんように。変わり果てたキエフにヴォドラスキンもさぞ胸を痛めていることだろう)。
キエフ大学を卒業し、1990年よりサンクト・ペテルブルグのロシア科学アカデミーのロシア文学研究所(通称プーシキン館)に勤めている。2000年、中世ロシア文学で博士号を取得。現代ロシアを代表する「知識人」である中世文学の泰斗ドミートリイ・リハチョフの門下生だという。

『ラヴル』の舞台もやはり15世紀から16世紀にかけての中世ロシアだ。
主人公は最初アルセーニイという名前の優れた医師だった。ところが、自分の過ちで愛する女をお産のときに死なせてしまい、その罪を償うため独身の誓いをたて、ルーシをさまよい歩く。その過程で「聖愚者(ユロージヴイ)」となってウスチンと名のり、その後、修道士アムヴローシイとなり、最後に聖者ラヴルとなる。つまり彼は4つも名前を持っているのだ。
「聖者伝」の体裁をとっているが物語は一元的には語られず、時代が錯綜したり、意図的に古風な文体が用いられたり、ポストモダン的引用があったりと重層的だ。そう言えば「非歴史小説」と銘打たれている。ヴォドラスキン自身あるインタビューで「聖者伝という古い形式をとっているが現代的な文学手法を用いた」と語っている。
「時」を超越すること。その試みにおいてミハイル・シーシキンを思わせるところがある。また自分のせいで人を死なせてしまった男がユロージヴイのようになり神の赦しを求めるその形象においてはパーヴェル・ルンギンの映画 『島』 を思い出させられた。

2014年2月26日

『クリトゥーラ』 第3号刊行

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ついに完成! 『クリトゥーラ』 第3号。
表紙はきれいなパステルグリーンだ。

「序文」から1節引こう。

「今回表紙に選んだのは、『天国の鳥』と考えられている『シーリン』のルボーク(木版画)だ。タチヤーナ・トルスタヤの忘れがたい短編 ≪Свидание с птицей≫(鳥と会ったとき)では、主人公の少年が謎めいた美女の家でたまたま開いた本の中にこのシーリンを見つける。『そこにいるのは鳥のようでいて鳥ではなく、女のようでいて女ではないものだった』。少年の想像力の中でシーリンは、病気のおじいちゃんを絞め殺す「死の鳥」として描かれている。さて私たちのシーリンはいったいどんな鳥として現れるだろう。そして私たちをいったいどこへ連れていってくれるだろうか」

目次は以下のとおり。読み応えのある翻訳小特集になった。

【文化の紹介】
ゲンナージイ/アイギ/ハイブリッド/工藤なお
現代ロシアのベストセラー「宗教説話」/長江聡
二葉亭四迷の一生/市川透夫
【翻訳】
リュドミラ・ウリツカヤ「紙の勝利」/合田沙矢加 訳
ファジリ・イスカンデル「少年と戦争」/甲斐まどか 訳
セルゲイ・ルキヤネンコ「自由の味」/豊田宏 訳
ヴィクトリヤ・トーカレワ「日本製の傘」/水谷麻優子 訳
リュドミラ・ペトルシェフスカヤ「幸福な猫たち」/梶山志織
マックス・フライ「クラクフの悪魔」/田中翔子 訳
ワレーリヤ・ナルビコワ「時計」/太田千暁 訳
ボリス・アクーニン「死蜘蛛」(抄訳) /加藤悠・渡辺麻貴 訳
【報告】
メイキング・オブ・文芸フェス/豊田宏

著者および訳者の皆さん、ご苦労様でした。
研究室に受け取りに来てください。


2014年2月27日

『大学のロシア語』 重版決定!

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おかげさまで 『大学のロシア語Ⅰ 基礎力養成テキスト』(東京外国語大学出版会) が重版されることになった。
この機に改訂を進めたので2刷は完成度が高まっていると思う。もうまもなくお目見えする。

また、姉妹編の 前田和泉、イリーナ・ダフコワ 『大学のロシア語Ⅱ 実力が身につくワークブック』(東京外国語大学出版会)も同時に刊行される。こちらは、Ⅰ巻と完全に連動した練習問題・発展問題集で、会話や読み物も盛り込まれている。2冊合わせて用いると、文法知識とコミュニケーション力をバランスよく向上させることができる(はずだ)。

どなたにでも使っていただけるよう工夫してあり市販されるが、同時に本学のロシア語初年度の授業で用いることを念頭に置いている。
パイロット版を含めこれまで2年間にわたり日本人教師とロシア語ネイティヴ教師全員が参加するリレー方式の授業でこの教科書を実際に使ってきた。その間に気づいたこと、授業で得た感触、ご指摘いただいたこと等を生かして加筆修正した。こんなふうに教科書を作成・改訂していけるのは大学出版会ならではの利点である。

本学出版会のアラビア語教科書も本格的、画期的で話題になっている。
八木久美子、青山弘之、イハーブ・アハマド・エベード 『大学のアラビア語 詳解文法』(東京外国語大学出版会、2013年)。
青山弘之、イハーブ・アハマド・エベード 『大学のアラビア語 表現実践』(東京外国語大学出版会、2013年)。

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