第2回「世界の多言語・多文化社会研究」シンポジウムを開催しました。(研究活動)

ゆらぐ境界、交わる人びと:「日本人」を再考する

多言語・多文化教育研究センター主催の「世界の多言語・多文化社会研究」シンポジウムが、2010年2月21日に本学で開催されました。第2回目となる今回は、「ゆらぐ境界、交わる人びと:『日本人』を再考する」と題し、多言語・多文化化が進行する現場の課題をふまえながら、「日本人」概念が変容を迫られている現状について議論をおこないました。会場には158名の参加があり、昨年に続いてテーマへの関心の高さをうかがわせた。

まず冒頭にスティーブン・マーフィ重松氏(スタンフォード大学)による基調講演があり、アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた「アメラジアン」としてのアイデンティティについて、家族の歴史を紐解きながら、さまざまな思いが語られました。続いてオーストラリアを拠点とする森巣博氏(作家)とマーフィ重松氏との対談では、両氏の体験的思想を通じて「ハーフ/ダブル」「アイデンティティ」「寛容」といった言葉をめぐるやりとりがされ、フロアからも多くの質問・コメントが寄せられました。

午後の研究報告セッションでは、武田里子氏が、結婚移住女性を通じてみた「多文化家族」の可能性について、藤田美佳氏が、母親の再婚によって来日した子どもの国籍取得とアイデンティティについて論じるなかで、日本社会の多言語・多文化化のリアリティから「日本人」概念再考の論点を提出したのに対し、金戸幸子氏は、近年増加をみせている台湾在住日本人のシティズンシップ獲得をめぐる状況を通じて、日本国内の現状のみならず、海外に越境していった人びとを含み込んだ「日本人」概念の再考の必要性を指摘しました。

これらの議論を引き継ぎながら、シンポジウムの最後では全体討論を行いました。岩崎稔氏(本学教員)からは、戦後の「日本人」をめぐる議論の概観と、日本社会の「変容」に拒否反応を示す論調への危惧が、北脇保之氏(本センター長)からは、さまざまな批判をふまえながらも「多文化共生」という言葉を鍛えていく必要性と、外国人の地方参政権獲得にむけての積極的指示が、藤井毅氏(本学教員)からは、なぜ「日本人」を再考するのかをめぐって、多言語・多文化性を人びとが背負っていくことについての歴史的な考察と自身の研究との関わりが、尹慧瑛氏(本センター長補佐)からは、在日コリアン3世という立場から考えた「名乗り」と「名指し」の問題や、アカデミックな理論と現場での実践とのある種の乖離が、それぞれコメントとして出されました(なお、マーフィ重松氏、武田里子氏、藤田美佳氏、金戸幸子氏の報告の詳細については、それぞれのお名前をクリックしていただければごらんになれます)。

---------------------------------------------
日時:2010年2月21日(日)10:00~17:45
会場:東京外国語大学 研究講義棟 227教室
主催:東京外国語大学多言語・多文化教育研究センター
---------------------------------------------
【総合司会】尹慧瑛 (東京外国語大学)
10:00 開会挨拶        
 北脇保之(東京外国語大学多言語多文化教育研究センター長)
10:10 -10:40 基調講演
 スティーブン・マーフィ重松(スタンフォード大学)
 「越境するアイデンティティ―われわれ/かれら意識の壁を乗り越える」

10:40-12:00 対談      
 森巣博(作家) × スティーブン・マーフィ重松(スタンフォード大学)
 【司会】尹慧瑛(東京外国語大学)
taidan.jpgkeynote.jpg
12:00-13:30 昼食休憩
13:30-15:30 研究報告   
 武田里子(多言語・多文化教育研究センターフェロー)
 「多文化家族」の可能性―結婚移住女性の受容・適応過程と農村社会の変容

 藤田美佳(神奈川大学非常勤講師・法政大学兼任講師)
 帰化しても僕は「日本人」になるんじゃないよ
 ―母親の再婚によって来日した子どもの国籍取得とアイデンティティをめぐって

 金戸幸子(多言語・多文化教育研究センターフェロー)
 「社会移民」?―台湾在住日本人のシティズンシップ獲得をめぐる複合的な戦略

15:30-16:00 休憩
16:00-17:45 全体討論   
【司会】  青山亨(東京外国語大学)
【パネリスト】  
岩崎稔(東京外国語大学)
北脇保之(東京外国語大学)
藤井毅(東京外国語大学)
尹慧瑛(東京外国語大学)
18:00-20:00 懇親会 (会場:特別食堂)
※以下より画像をクリックしていただくと、チラシをご覧になれます。

flyer%20front.JPGflyer%20back.jpg

日時: 2010年03月29日