1.
アンちゃんによると、和製英語というのは、最早、英語ではなくて日本語の中にあるのだから、それを正しい英語に直せなどというのはおこがましいし、それを並べて、愛でて見ればいいのだろう。
https://ameblo.jp/annechan521/entry-12287153132.html
他方「英語を教える」系のブログや動画などで間違ったことを教えている人がいたら、それは糾弾していいだろう。
米製日本語というのもあって、hibachi、futonなどは、日本人が思い浮かべるものとは違うし、ume musubi(梅干しのおにぎり)などは、ちょっと想像力を働かせないとわからないだろう。
単語レベルじゃなくて、文法レベルになると、最早英語からの類推で考えてもわからないものがある。
その1つは、商品名や、番組名などの「ザ」の用法である。
セブン・ザ・プライス
https://7premium.jp/product/search?item_tag_category_id=142
なぜそこに「ザ」があるんでしょうね。
ビリー・ザ・キッド
https://ja.wikipedia.org/wiki/ビリー・ザ・キッド
http://bit.ly/3j5c85i (上を短縮したもの)
なんていうのは英語でもあるんですけどね。キッドであるところのビリーですね。
日本語で「ザ」が含まれる「名称」は、そういう構造になっていないようです。
番組名でも、同様のものがあります。
ナイツ・ザ・ラジオショー
https://www.1242.com/radioshow/
ミッツ・ザ・コレクション
https://www.1242.com/mco/
ナイツ、ミッツに属格標示をして、「の」を使えばよさそうなものを、ちょっとカッコ良くするために「ザ」にしたのでしょうか。そういえば、英語の属格の「's」をカタカナ化するのは、結構難しいんですよね。和製英語で、「メンズ」の「ズ」は、元々は属格の'sだったんだけど、日本語の中では、複数のsに聞こえます(見えます)ね。
最近発見したことは、「ザ」を2つ使うことはないという傾向です。
ザ・クロマニヨンズ・ラジオショー
https://www.interfm.co.jp/crs
ザ・クロマニヨンズ・ザ・ラジオショーでは、うるさいというか、重たいのでしょうか。
2.
和製英語といえば、句動詞に見えて、英語に無いものがあります。
レンジアップ
https://dictionary.goo.ne.jp/word/レンジアップ/
http://bit.ly/3DccZIp (上を短縮したもの)
ティッシュオフ
https://kotowaka.com/cosme/texissyuoff/
もっと例を集めないと安易な一般化はできませんが、上の2例を見ると、「道具」+「方向」 という構造になっています。
和製英語だからかもしれないですが、この「道具」のスロットに英語だと感じられないものを入れることができないのかもしれません。「レンジアップ」を「チンアップ」とはいえません。(keep one's chin upは、全然違う意味の英語表現です。)
3.
「嘘とゴムはつけない男」という人がいます。
https://twitter.com/katsuking_50
「ウソとゴムはつけない男」というのもいます。
https://twitter.com/kt161216
ここで注意しないといえないのは、嘘/ウソがつけないというのと、ゴムをつけないという場合の「つけない」は、たまたま音形が同一になった、別個の動詞の派生形だということです。前者は、(嘘を)吐くの可能動詞の否定形、後者は付けるの非定型です。
(これを統語解析するときにはどうするんでしょう?)
類例を作例してみました。
「ピーマンと膝はいためない男」
「オリンピックと顔はイケてる男」
4.
先日、某局アナさんが、「オーガズム」のアクセントが、H]LLLLか、LHH]LLか迷っていました。「アクセントが違ったら意味も違うようになるよなぁ」のようなことも言っていました。アクセントの違いによって意味が違ってくる場合もあるだろうけど、ほとんど変わらない場合もあるでしょう。
これは、単に外来語へのアクセント付与のメカニズムの違いによるものだと思われます。
英語では、アクセントが第1音節にありますので、それを尊重すれば、H]LLLLになるだろうし、他方、日本語の(ほぼ)4モーラ以上の名詞で、デフォールトのアクセントを付与しようとすれば、後ろから3番めにアクセント核のあるLHH]LLになるのでしょう。
パラダイムも英語のアクセントに従えば、H]LLLLになるだろうが、デフォールトのアクセントを付与すればLHH]LLになるでしょうか。
LGBTのアライというときの「アライ」では、3つのアクセントパターンを観測しています。
アライ (H]LL)というのは英語のアクセントを尊重した形でしょう。
アライ (LH]L)というのを、「これはアライアンスから短くしてできた名称です」と嘘の語源で説明している人がいました。でも、その語源に従うとこの形になりそうです。
最近多いのは、いわゆる専門家アクセントの
アライ (LHH=)です。
最後の専門家アクセントの平板型は、専門家アクセントだけにニュアンスが違ってくるでしょうね。意味が違ってくるとまで言えるかどうかはわかりませんが。
5.
radikoのCMで、
「あなたの人生に素敵な偶々を」
https://kotobayasan.com/radiko-radiocm/
というのがありました。
偶々(たまたま LHHH=)をたまたま(H]LLL)と発音したら別な意味になっちゃいますね。OBS夜のイチスタ☆御用達のアレになっちゃいます。
6.
「敬語〜待遇表現の変化」
私がやっているのは、あくまでも記述であって、規範の浸透ではないので、規範と違うことがあっても、それを糾弾するのは、「立場を変えて」やらないといけません。
ということで、今回は記述的立場で。
最近「おられる」という尊敬語をよく耳にします。「いらっしゃる」「おいでになる」だと、「いる/いく/くる」の3つに対応してしまうし、「いる」だけに特化したいということで、これを誰かが使って、広まったのでしょうかね。
あと、補充法による尊敬語よりは、(ら)れるによる尊敬語の方が好まれるという最近の傾向とも関係があるかもしれません。(それこそ歴史的コーパスの経年変化を見ないと、「実証」したことにはなりませんが。)
「召し上がってください」「お召し上がりください」の代わりに、「いただいてください」というのも最近よく耳にします。「いただく」が謙譲語だという感覚が薄れてきているのでしょうか。それとも、食物の生産者に敬意を払っているのか。
7.
ちょっと前に私の指導院生が、会話の中で、「〜は」とか、「〜が」とかの助詞で始めて応答することに興味を持っていたのですが、
先日(先週ではないです)、J-WaveのFree Slideの中で、
「が [ŋa]」
で始めている人がいました。
本来なら、その人の言語的生育歴まで調べないといけないですが。
東北のある部分のご出身、あるいは他の[ŋ]を使う地域のご出身だったとしたら、母語の特性として、[ŋ]を使っているのでしょう。
母語として獲得しなかった人でも、アナウンサーになる養成校に通ったりして、かなり長じてから[ŋ]を習得した人とか、合唱の指導の中で指導されて[ŋ]を習得した人もいるでしょう。
でも後者の場合、服部が言うように「大烏」と、「大ガラス」で、前者を鼻音、後者を非鼻音(例えば摩擦音)で発音し分ける人はいないでしょう。
あとは、会話の中であるとはいえ、その当人の発話の初頭に[ŋ]を発音したということは、何かを示唆しているかもしれないし、説明されなくてはいけません。
8.
バンド名再び。
シリケッツというバンドがあります。
https://shirikettsu.jimdofree.com
シリケッツ(H]LLLL)と頭高型なので、バンド名として無標のアクセント型になっています。
シリとケッツ(ケツ)は両方とも尻で、「ッ」を入れることで、擬似的に複数形のバンド名にも聴こえるようにしているでしょう。
他に、頭高型にならないバンド名を見つけました。
ハシビロコウズ (LHHH]LLL)
ザ・クロマニヨンズ (H LHH]LLLL)
ファーストサマー・ウイカが、オチャノミズ (H]LLLL)だったらバンド名になると書いていますし、オカモトズ (H]LLLL)も同様の頭高型です。もしかして、頭高型になるのは、5モーラが上限だったりします?
9.
2023.1.9 J-Wave Special Sapporo Beer at Age 20, the Beginningで、シシドカフカさんが
「色々と私たちは関係が深いでございますけれども」
以前にも書きましたが、謂わゆるウ音便を使った
「深こうございます」
というのは、使用頻度がものすごく減っているのかもしれません。
「ございます」の前のウ穏便は、大学院の時の恩師、田中利光先生から、「東京共通語には、関西の方言から借用されて入り込んだ」と教わりました。
でも、大阪府出身の西畑大吾くんも「嬉しいでございます」って言いますし、東京だけでなく、関西でも、守旧的な方言を使う人以外では廃れてきているのかもしれません。
何が起きているかというと、そもそも
深い → 深こう
嬉しい → 嬉しゅう
というウ音便形は頻度が少ない。そこで、引用形式の「深い」「嬉しい」に、助詞「で」を継ぐことで、「連用」させているのかも知れません。