子守唄
明日発売の 『新潮』2013年4月号に、タチヤーナ・トルスタヤの短編「霧の中から月が出た」の拙訳が掲載される。
短い「解説」でほんのわずか触れただけだが、トルスタヤのこの作品には、ユーリイ・ノルシュテインの代表的アニメ 『話の話』に通底するものがある。
そのひとつが子守唄。「霧の中から月が出た」の最初のほうに、子供時代の連想として「灰色オオカミたちがお行儀よく並んで、自分たちのまがまがしい出番を今か今かと待ちかまえている」というくだりがある。これは主人公が子供の頃に歌ってもらった子守唄の記憶を踏まえている。
ロシアのよく知られた子守唄にこういうのがある。
Баю-баюшки-баю,
Не ложися на краю:
Придет серенький волчок,
Тебя схватит за бочок
И тащит во лесок,
Под ракитовый кусок;
Там птички поют,
Тебе спать не дадут.
ねんねんころりよ、おころりよ。
ちゃんと寝ないと
灰色オオカミの子がやって来て
脇腹つかんで
森にさらって
ヤナギの草むらまで連れてっちゃうよ。
そこは鳥たちが囀り
眠たくたって寝られない。
ノルシュテインの 『話の話』でもこの子守唄が用いられているのだ。
どちらも、子守唄の歌詞が実体化し肉体を持ち、オオカミの子が現れる(比喩の実現!)。トルスタヤの短編ではあくまでも主人公の空想の中で思い描かれるだけだが、ノルシュテインのアニメでは大きな丸い目をした可愛いオオカミの子が赤ちゃんをさらって森に連れていってしまう。