卒論を執筆して

1999年度
長谷川聡   藤野(三橋)紀子   岩崎理恵   塩出真澄   佐藤織枝   須藤総世  菅野綾子   寺西桂子
2000年度
小川理恵  福島聡子  伊藤隆志  渋田善之  田村剛  大橋牧人  花見吉美
2001年度
樋口統子  髭晃子  根本京子  野田俊平  鳥井里紗  我妻由紀子  山口倫恵子
 
2002年度
鈴木愛 青木 高橋有紀 冨重 博之
2003年度
2004年度

 

 

1999年度

 

長谷川聡 卒論演習を終えて

私が卒論を執筆しようと決めたのは3年生向けのオリエンテーションの時でした。 その時は単に「卒論を書く」ということに興味があって参加したのですが、高橋 先生が熱く語っている様子をみると、実際に卒論を書いてみたいと思い始めまし た。

□ 卒論テーマ

私の卒論テーマは「ラテンアメリカと合衆国の相互イメージ」です。合衆国と ラテンアメリカ諸国は、これまでお互いをどのように認識し、表象してきたのか。 このことを探るために、私は今回卒論を執筆するにあたって著者の異なる2冊の本 を選びました。そしてそれら2冊の著書に書評を加えていくという形をとりました。

□ なぜこのテーマを選んだのか

合衆国とメキシコの国境地帯は、合衆国のアングロサクソン文化とメキシコの ラテン文化とが衝突する境界線でもあります。その境界線を挟んで合衆国からみ たラテンアメリカとは一体どのように映り、そしてどのように認識されているの か。また反対に、ラテンアメリカ側から合衆国を見た場合にはどうなのか。私は 実際にエルパソを訪れたことによりこのような疑問、すなわち南北アメリカが互 いをどのように認識しているのかということに興味を持ちました。そのことは同 時に、四方を海で囲まれて陸続きの国境を有しない日本に住む私にとっての新た な問題意識でもありました。

□ 困難(どうやって乗り越えたか)

論文を作成する上で、難しい内容をいかに平易な文章でわかりやすく表現する かということに苦労しました。高橋先生からは「ひたすらわかりやすい日本語」と 口が酸っぱくなるほどアドバイスをして頂きました。実際に私は、完成した日本 語にもう1度手を加えて誰が読んでも理解できる日本語にするという作業を行いま したが、予想以上に時間をとられてしまいました。

□ 得たもの

ゼミに入るまではスペイン語の読解力があまりなかったのですが、 スペイン語の文献を読んだことによってずいぶん鍛えられたと思います。また他のゼミ生の存在は良き発奮材料であり、また素晴らしい相談相手でもありました。 この場を借りて感謝します。そしてなにより、ラテンアメリカ地域に対する強い 関心を持つに至ったことが、私自身最大の収穫だったと思います。

□ アドバイス

高橋先生の熱い口調に誘われて漠然と卒論を書き始めた私ですが、なんと大学院に進学することになりました。上智大学大学院外国語学研究科地域 研究専攻です。上智の大学院に興味を持っている方がいれば、できる限りで質問にお答えします。メールアドレスはshine@broadway.or.jpです。

最後にアドバイスですが、2年間、特に卒論演習での1年はあっという間に過ぎてしまうので、どんどん文献を読み進めていくのが良いと思います。その際、気 が付いたり新たな疑問が浮かんだ時など、その都度メモして論文の材料にしていくことを勧めます。そう言っておきながら私自身、あまり実践できてなかったのですけど…。でもこれはとても大切なことであり、論文を作成する上で重要なことだと思います。なにはともあれ、がんばってくださいね!

 

 

塩出真澄

1.論文のテーマ

「メキシコ革命の見解についての再検討」

2.なぜこのテーマを選んだか

メキシコへ一年間留学するにあたって、メキシコ近現代史を勉強したいともともと思っていました。そして、メキシコの大学UNAMで近現代史の授業に出て、長年のメキシコ与党の支配的存在などから、メキシコの現代政治にメキシコ革命が与えた大きな影響を感じたことが、、革命に興味を持つことになりました。また、実際行われている選挙が、実はまったく民主的ではなく、巧みに選挙操作されているのを目の当たりにしたときの受けたインパクトがかなり大きかったこともあります。そして、その経験がメキシコでの民主主義とはなにか、を考えさせられるきっかけになり、革命と民主主義の関係に注目したことも、結果的に卒論には役立ちました。

メキシコにいる間は革命自体の経過について学ぶのが精一杯でしたが、そのなかで革命で活躍した農民勢力にもっとも興味が湧き、卒論では革命での農民の要求やその活動について書こうかと考えていました。

そして日本に帰国して、卒論を書こうとしましたが、3年のときにとっていたゼミ担当の安村先生がメキシコに研究へ行ってしまっていたので、高橋先生にお願いし、4年からゼミにいれていただくことになりました。そして、先生からゼミの進め方やアドバイスをうかがった結果、自分の興味をもった本を一冊取り上げて、その本の書評を書く形にするのがよい、ということになり、革命での農民について書くのは、それについて自分の頭でも整理できていなかったし、やめることにしました。そこで、UNAMのメキシコ近現代史の授業で、これまでのメキシコ革命観を覆す画期的な本だと紹介された本を読むことにしました。

3.苦労したこと、それをどう乗り越えたか。

苦労したのは、書評とはなんぞや、という疑問を自分のなかでなかなか解決できなかったことです。一冊の本を読み、その本がどのような本なのかを自分なりに整理し、その本を自分なりに評価するという作業は非常に難しかったです。まず何よりも、その本を読破するのが難しいのに、さらにその本を第三者として徹底的に分析するというのは今までにしたことのない作業だったので、本を読み終わってからは、試行錯誤の連続でした。

結局は、一冊を本を徹底的に分析する、という姿勢を崩さない、という先生のアドバイスがとても役に立ったと思います。その本に何が書かれ、それを筆者はどんな意図で書いているのかを把握するのが、簡単なようで難しいものでした。

4.後輩へのアドバイス

卒論を書いて本当によかったと今思います。4年になってすぐのころは、就職活動もあり、なかなかまとまった時間が取れずにかなり苦労したし、こんなペースでは書き終わらない、という思いだけが先走り、焦ったけれど、受験勉強と同じで、人生でこれほど勉強に集中することはなかなかないと思います。私の場合は、巡り会った本がとても面白い本で、勢いも手伝って頑張ってなんとか読めたが、本当に粘り強く本と向かい合う姿勢が大切だと思います。先生が一番最初におっしゃっていたことですが、卒論を書こう、そのテーマについての知識を深めよう、という強い意志、熱意、気合が必要だと思います。

 

 

藤野(旧姓 三橋)紀

● 卒論のテーマとこのテーマを選んだ理由

テーマ:「ラテンアメリカ」を作り出すまなざし

ラテンアメリカに旅行をする中で、自分は何を見るために旅行しているのだろう、 先進国における「語り」として存在するラテンアメリカの貧困や大自然を確認するた めに旅行しているのではないか、という疑問が湧いたため、改めてラテンアメリカに ついての語りがどのようなものであるかを勉強したいと思った。 近年、フーコーの言説という概念からサイードのオリエンタリズムを経て、社会の表象をめぐる議論がさかんである。このような流れの中で、ラテンアメリカ=発展途 上国という図式も先進国によって作り出されたものなのではないか、ということを欧人によるテキスト、現地の人々によるテキスト、観光する側とされる側といったこ とを通じて考察してみた。

● 執筆上の困難

テーマが大きく漠然としていたので、どのような切り口から卒論を書くかに大変苦労した。当初、ラテンアメリカにおける観光、特にエコ・ツーリズムに焦点を当てよ うとしたが、うまく思っていたような文献が見つからず、結局文学や人類学、観光学などを取り混ぜた雑多な薄い内容になってしまった。「ラテンアメリカ」がどのよう に表象されているのか、というつながりでどうにかまとめてみたが、それぞれもう少し掘り下げて書きたかった。

● 卒論を執筆して得たもの

本を読んで得た知識や理論。そしてそれに加えて、その得た知識や理論をどのように自分の卒論の文章内で生かしていくか、と比較・検討しながら読むテクニックが身につけられた。

● アドバイス

執筆するからには徹底的に関連の文献を読み、選んだテーマについての最近までの研究史を勉強しておくと、自分の意見を述べやすい。また、そこに卒論の意味があると 思う。あと、テーマを決めたらできるだけ早くから取り組むこと。どうせ最後は時間切れになるのだから…。

 

岩崎理恵

こんにちは。私は99年度の卒業論文演習で高橋先生にお世話になった岩崎りえと言います。私は卒業論文を失敗したので、役に立つようなことは何も言えませんが、感じたことなどを思いつくまま書いてみました。  

皆さんはもちろん、ラテンアメリカに関して何か興味や関心のある題材があるから、高橋先生の演習を選択されたのでしょう。けれど、卒論や書評論文を書くためには、興味や関心がある、だからそれについて知りたい、という気持ちだけでは駄目なのです。そんな事は当たり前のことかもしれませんが、私は最後までそのレベルから上がることが出来ませんでした。自分の研究対象について知る(本の要約)段階から、更に、その研究対象について筆者はどんな考えを持っているか、他の研究者たちはどんな考えを持ち、どんな批評をしているか、そして、自分は研究対象についてどのように考えているかを常に認識していなければいけないのです。感想文では駄目なのです。この事は高橋先生も常におっしゃられていることですが、私は最後まですることが出来ませんでした。  

年生からもう卒論は始まっています。おどすわけではありません。けれど、この2年間、常に自分がどのような批評を持っているかを念頭に置いていれば、とても充実した論文が書けるはずです。自分の興味を突き詰めるのは非常に楽しい事だと思います。  

最後に、少しでも分からないことがあったら、高橋先生にすぐ質問してください。質問攻めにしてください。高橋先生の素晴らしいところを沢山吸収してください。  

あまり参考にならなくてすみません。みなさんが素晴らしい論文を書けることを、影ながら応援しています。

 

須藤総世

1.卒論のテーマ

卒論では「開発」と「社会運動」について考えてみました。この卒論テーマを決定するまでずいぶん時間がかかりました。ゼミに入った当初(三年次)、はっきりとした問題意識を持たないまま、ただ漠然と「開発」を考えていくことにした私は、本を読みながらの卒論テーマ探しでした。途中、いろんな方向に関心は広がり、テーマが二転三転したこともありました。けれども、三年生の春休みに旅行した南米での経験が私のテーマを絞り込み、書く意欲も与えてくれたのではなかったかと思います。

2.なぜこのテーマを選んだか

これまで盛んに行われてきた「開発援助」にもかかわらず、なぜ「貧しい国」はなくならないのだろうか。「ラテンアメリカ=第三世界=貧しい」というイメージを変えることは可能なのだろうか。「第三世界」といわれる地域の人々は何を変革しようとし、どのような努力をしているのか。これらを主な問題意識として、Encountering Development : The Making and Unmaking of the Third World(プリンストン、プリンストン大学出版、1995年)とCulture of Politics, Politics of Culture : Revisioning Latin American Social Movement(編者:Sonia E. Alvarez, Evelina Dagnino, Arturo Escobar、アメリカ/イギリス、ウェストヴュー出版、1998年)の二冊を手がかりに卒論を書きました。

3.苦労したこと。それをどう乗り越えたか

卒論に取り組む中で苦労したのは、参考文献の内容をきちんと理解し、それを自分の言葉で説明するという作業です。卒論で初めて知るところとなったことも多く、基礎知識のなかった私にとっては、読み進めるのにも時間がかかりました。また、「書く」ことに慣れていなかった私には、文章を書き出すことも大変でした。自分の頭の中も整理できてないままに書き出した文章は「日本語に問題あり」との指摘をしばしば受けてきました。なかなかうまく書けず、書くことに自信をなくしたり、また、あまりにも慎重になりすぎたため書けなくなったこともありました。結局、読んだ内容を咀嚼し整理する作業が十分にできなかったため、私の卒論は小難しい言葉を多用(借用)して議論をごまかした、わかりにくいものです。

今から思えば、反省すべき点は限りなくあります。しかし、私は卒論を書くことでいろんな勉強をさせてもらい、考え、そして、自分の関心を広げることができました。また、書くことの難しさを実感できた分、それをこれから克服していくためのいいきっかけにもなったと思います。

4.後輩へのアドバイス

卒論を書く中で、私はしばしば「もっと早くに〜していれば…」などと思ったものです。もっと早くに読む力をつけていれば…。もっと早くに文章を書く習慣を身につけていれば…。普段からものを考えていれば…。読むことも書くことも一朝一夕に身につく能力ではありません。また、問題意識がはっきりしなければなかなか卒論に取り掛かることはできません。これから卒論を書こうと思っていらっしゃる方には、普段からものを考え、読む力や書く習慣をつけておくことをおすすめしたいです。卒論を書く意義はそれぞれ違うでしょうが、きっといい機会だと思います。大学生活の締めくくりとして、あるいは記念として書いてみるのもいいんじゃないでしょうか。書き上げた時の満足感は、書く中での苦しさを差し引いても余りあるものでした。

 

寺西桂子

1.卒論のテーマ

メキシコの民間企業〜アルファー・グループにみる企業と政府の関係〜

2.なぜこのテーマを選んだか

メキシコは、1940年代から数十年にわたって、国家指導型の高度経済成長を達成しま した。その発展の担い手として活躍した民族資本企業が、累積債務危機以降の「失わ れた10年」、また1980年代後半からの市場経済型経済モデルへの転換に直面してどの ように変化したか、に興味を持ったのがこのテーマを選んだきっかけです。文献や資 料を読み進めていくうちに、メキシコの民族系大企業は、資本・純利益・雇用者数の 面において民族系企業全体の過半数以上を占めていることがわかり、このような大企 業の巨大な経済力は、国家に対してどのような政治的影響力を持ち、特に1980年代の 経済危機にあたって政府とどのような関係を保ったかに焦点を絞ることにしました。 考察対象には、国家の経済発展期に成長し、今なおトップ企業の一つであるアル ファー・グループを選び、1980年代とそれ以前の政府とアルファー・グループの関係 を明らかにし、一般的なメキシコの企業―国家関係と比較することで結論としまし た。

3.苦労したこと。それをどう乗り越えたか

資料の少なさに一番苦労しました。経済統計や企業の収支決算など経済面の数字は、 雑誌やインターネットを通して意外と簡単に手に入れられます。しかし、数字に表れ ない企業の政治力については、とにかく注意深く文献を読むことでしか対処できず、 一次資料には殆ど触れることができませんでした。

4.後輩へのアドバイス

卒業論文は、自分でテーマを決め、そこで掲げた問題を自分で深く考えて、自分の意 見を文書として残す初めての大きな機会です。そこでの努力によってきっと何か得ら れるものがあると思います。私は実質一年半をかけて卒業論文を仕上げ、それが大学 院に進学するきっかけになりました。卒論を書かずに卒業してしまう人も多いです が、私はみなさんに「書く」ことをお勧めします。がんばってください。

 

2000年度

小川理恵

1.卒論のテーマ

ラテンアメリカにおける先住民と国家の関係について

2.なぜこのテーマを選んだか

メキシコを旅行した時に目にした先住民の姿が印象に残った。華やかな民族衣装を身につけて踊りを披露し、喝采を浴びている人々と、路上で物乞いをする貧しい人々との落差に驚きながらも、どちらもメキシコ市民の日常生活から隔離されていることに気付き、彼らが現在をどのように生きているのかを知りたいと思った。

3.苦労したこと。それをどう乗り越えたか

今年度の文献は専門用語や他文献の引用が多く、辞書を引いてもよく分からない表現などがあったこと。何度も読み返し、細かいことにとらわれるのではなくまず文章全体の意味をつかむように心がけた。

4.後輩へのアドバイス

去年も書いたことで結局自分は実行できなかったことですが、少しずつこつこつと文献を読み進めていくこと。できることなら2度3度と読み返すこと。それが出来れば苦労しないという気もしますが・・・

2001年度

野田俊平

1.卒論のテーマ

ラテンアメリカの開発と援助

2.なぜこのテーマを選んだか

以前から開発に関心を持っていて、テレビの特集を見てなぜ先進国が援助しても途上国の状況はあまり改善しないのかという疑問を持ち、さらにそれは開発に経済以外の要因が関係しているのではないかという疑問を持ったから。

3.苦労したこと。それをどう乗り越えたか

就職活動をしていた為、時間がありませんでした。最後までそれを乗り越えることは出来なかったけど、あえて言うなら時間を有効に使うことでしょうか。

4.卒論を書いて得たもの

大学の勉強というのは卒論が中心だと思います。それによって他の授業を取ったり、興味のある本を読んだりしました。つまりそれらから得たのは勉強に対する動機であり、達成感であったと思います。もっとも勉強というのは卒業してからも続いていくものですが。また大学生になって今更ですが、文章の書き方、資料の探し方・読み方も改めて勉強しました。

5.後輩へのアドバイス

先生に何度も言われたことですが、早め早めに取り掛かること、出来ることは出来るうちにやっておくことです。単純かもしれませんが大事なことです。

 

2002年度

鈴木愛

1. 卒論テーマ

プエブラ・パナマ計画:市民参加型開発計画の実現を巡って

2. なぜこのテーマを選んだのか

2001年〜2002年にかけてメキシコに滞在していた際、卒論のテーマとしてふたつ選択肢がありました。ひとつは先住民問題で、もうひとつは石油などを含めた資源開発でした。

先住民問題は連日新聞で取り上げられる話題であり、またリゴベルタ・メンチュウの本などを自分で読んでみて、この地域の先住民問題が今日のような注目を集めるに至るのにどんな経緯があったのだろうかと思ったからです。そして資源開発に関しては、滞在中メキシコ各地を回って資源の豊かさを実感し、また石油を国営企業が独占している状況と、そのような恵まれた資源に米国が注目していることを知り、これからメキシコは資源開発についてどのような戦略を立てているのか知りたいと思ったからです。

これらはどちらも自分にとって興味深くどちらにしようか決めかねていたのですが、そんな時プエブラ・パナマ計画(PPP)を耳にしました。メキシコと中米7カ国の巨大開発計画ということで、まだ実行段階には至っていなかったものの、日本ではまだ知られていないという点と、先述の2つの選択肢を含めて研究していけるという点で、この計画をテーマにしようと思いました。

3. どのような困難にぶつかったのか。それをどのようにして乗り越えたのか

2000年末から俄に動き出した計画なので、文献を探し始めた 2002年初頭の時点で、PPPに関する研究書というものは見つかりませんでした。そこでPPPへの援助を表明していた米州開発銀行の駐日事務所に出向き、話を聞くとともにPPPに関する資料の入手方法を教わり、中米投資に関するセミナーなどがある時には連絡をしてもらえるように頼みました。

実際そこで入手した資料はあくまでも政府側の公式発表用のものなので、それに沿って進めた夏までの研究はとても偏った見方になっていました。そこでPPPに反対するNGOの声をホームページや在日NGOの情報から集めるようにしました。2002年後半になると、文献もいろいろ出てきて、バランスが取れるようになりました。 自分が持っている疑問を常に心に留めていなければ、文献からの情報を鵜呑みにしてしまうので、そうならないよう注意しました。

4. 卒論を書いて得たものは何か

研究のためにいろいろな場所へ出向いて話を聞くことで、様々な専門家と知り合うことができ、交際の範囲が広がり、また研究を進めることで自分の専門分野が出来ていくのを感じられるのが楽しかったです。

そしてゼミに参加して先生のコメントを聞くことで、研究の進め方には一定のルールがあることがわかりました。そのルールに沿わないことには読者に納得のいく論文はできません。今後も何かを調べる際に、卒論で取った方法は生かせると思いました。

5.後輩へのアドバイス

ここまで偉そうに書きましたが、私の卒論の出来は満足にはほど遠いものです。自分への反省も含めて後輩の皆さんにお伝えしたいことは、論文執筆の方法や構成を考える前に、どんどん自分の興味に沿って文章化してみることが論文の「完成」につながるのでは、ということです。とにかく書くことで自分の頭の中がまとまり、自然と構成も見えてきます。

また、中南米の経済や国際情勢に関する論文を執筆予定の方には、久松佳彰講師の授業を取ることをお薦めします。私が2002年度に取った先生の授業では、中南米経済についての英語文献の読み方を学び、後期は4年生を対象に各自の卒論発表をして専門家としてのコメントをいただけたので、大変参考になりました。

 

青木

1.卒論のテーマ

私の卒論題目は「ラテンアメリカの移民とナショナリティ・エスニシティ・人種」でした。 私自身が抱えているテーマはもっと具体的で、題目の形を借りると「20世紀における中南米の日本人移民とナショナリティ、そして差別」です。

2.なぜこのテーマを選んだのか  

私が最初に不思議に感じたのは「日系人って何人なんだろう?」ということです。 我々が「日系人」と言うとき、無意識ではあるけども「彼らは日本人ではない」という意味を含めてこの言葉を言っています。 少なくとも私はそうでした。おそらく今でもそうでしょう。 その一方で「日系人」という言葉は、純粋な「外人」よりも日本人に近い人という意味も含めて使われているとも思います。 また、「日本人」との関係だけではなく、中南米においても日系人はいろんな問題を抱えているようです。

人間が皆どこかの国の国民であることが当たり前である時代に、彼らはナショナリティという面ではとてもあやふやな立場に立っているように見えたのです。そして、彼らは世間一般に広く知られていない苦労をしているのじゃないだろうか、その苦労はどんな苦労なんだろうと思ったわけです。 これらの疑問がこのテーマを選んだ一番最初の動機です。 卒論の本文にはもうちょっと細かいことも挙げましたが、元々はこういう漠然とした疑問でした。 でも漠然とした疑問が興味に変わり、いろいろ調べていくうちに「20世紀における中南米の日本人移民とナショナリティ、そして差別」というテーマが自然に形作られていったのです。

3.困難と対処法

私は困難にぶつかりっぱなしでした。いざ書こうと思っても全然書けません。 書けないと言うことは読み込みが足らないということです。 読み込みが足らないからといって読もうと思っても、私は人一倍読むのが遅く、しかも勘が鈍いので筆者の主張をつかむのに他人より時間がかかります。 そして、そうこう言っている間に卒論の提出期限まで後一ヶ月… 対処法としては、常に平常心でいることです。 どんなにスケジュールがおしてきても一歩一歩着実にゴールを目指すこと。近道はあきらめることです。 ・・・・あたりまえですね。しかも対処法と呼べないような気が・・・ でも、締め切りが近いからといって焦って無理をすると余計作業が遅くなるんです。本当に。

4.得たもの

卒論を書いて得たものはたくさんあると思います。 一番重要なのは文献に相対するという姿勢をまがいなりにも身につけたことです。 つまり、文献を通して著者と真剣勝負をするつもりで読んでいくということです。 また、考えるためにとにかく書くという行為も卒論執筆を通して身に付いたと思います。 そして、早めの対策が重要と実感したことも、卒論執筆の隠れた効果でしょうか。 締め切り間際にあわててばかりいましたから。 どれもこれも基本中の基本ですが、この歳(24歳)にして未だに身に付いていないんだなと思うことばかりでした。 いかに今までの自分が自堕落だったかということでもありますが。

5.アドバイス

とにかく読む、そして書く。そして、これは僕があまり出来なかったことですが、どんどん周りの人に聞きまくる。 早い話が正攻法が一番ということです。これが王道なんです。でも王道は時間がかかります。 だから早めに手をつけて、早めに書き始めましょう。 …ひょっとしたら、それでも締め切りには遅すぎるかもしれません。

 

高橋有紀

1.卒論テーマ

異文化間における他者へのイメージ

2.なぜこのテーマを選んだのか

昨年私はたくさんの韓国人と知り合う機会に恵まれたが、彼らが日本人に対して持っている感情とはどのようなものなのか、ということが最初は非常に気がかりであった。アジア諸国、特に日本の占領下に置かれた国々では、私達日本人はそうした国の人から良い印象を持たれていないという認識のもとに過ごしてきたからである。このようにして常に「イメージ」に対する関心は持っていたように思う。 この体験だけでなく、大学に入学しスペイン語圏の歴史や社会を勉強し始めた頃からずっと一つの疑問を持っていた。私が常に抱いていたアジア諸国のイメージに関する認識や、彼等が今でも持っているかもしれない日本人のネガティブなイメージというものは、スペイン人とラテンアメリカ人の間にも共通して存在するのだろうか、という疑問である。もしそのようなものが存在するなら、スペインとラテンアメリカがお互いをどのようにとらえてきたのか、両者の間にはどのようなイメージが存在したのか、また現在においてはどうなのか、ということについて知りたいと考えるようになった。このような経緯で、他者の「イメージ」をテーマにすることにした。

3.どのような困難にぶつかったのか。それをどのようにして乗り越えたのか。

文献の著者が文学や哲学に精通しており、それにかんする用語や概念を知っているという前提で書かれているため、全く知らなかった私にとってはわからないことが多かった。読むべき文献の量はとてつもなく多かったとは思うのだが、どのようなものを読んだら良いのかということも良くわからないまま、とりあえず文献を読む、という結果になってしまった。もっと早い時期に自分が選んだ文献がどのような内容であるのかをつかんで、関連のありそうな文献を読みあさる、ということができなかったことを反省している。

4.卒論を書いて得たものは何か。

人にわかりやすく説明する、また自分の考えていることを整理して書く、ということがこれほど難しいことだと体感できたことは、卒論を書かなければわからなかったことだと思う。自分でそれが達成できたとは全く思っていないが、非常に良い体験だったと思っている。

5.後輩へのアドバイス

文献を決定するのは時間がかかるけれども、4年生はとても忙しい時期だと思うので、なるべくはやく文献を決めて読み始めることを心がけた方が良いと思う。どのような文献であるのかを早めに理解しておくと、参考にすべき文献を探して読む時間が十分とれるのではないか、と自分の反省からつくづく思う。    

 

富重博之

1. 卒論テーマ

日本国内における「日系」南米人の就労状況に関して

2. なぜこのテーマを選んだのか  

単位互換制度を利用して留学していたため、4年生からゼミに参加しました。受講 開始後、南米都市インフォーマルセクター→東京・山谷の日雇・野宿労働者→日本国 内の日系南米人という具合にテーマが変わりました。最終的にテーマが滞日日系人関 係に落ち着いたのは、初めの発表で日雇労働者を取り扱った図書が、「都市下層」と いう枠組みを使いつつ日系人等をも分析対象にしており、発表の際先生に勧められた のが直接のきっかけです。ただ、(旧)スペイン語科に所属しているのだから、卒業 までに日本国内の滞日日系人に関して知識を得たいと以前から思っていたことや、国 内であればスペインや中南米のように地理的制約が比較的少ないので、フットワーク を活かして参与観察や聞き取り調査などもできると思ったことも大きな理由です。さ らに、活動していたNGOでできた中南米国籍の方との個人的な繋がりや、滞日外国人 支援団体との接触があったりしたことも動機となりました。  

3.どのような困難にぶつかったのか。それをどのようにして乗り越えたのか。  

結論から言って、困難だらけでどれもうまく乗り越えられませんでした。初めは、 書くものが実社会に影響をもたらさなければ書く意味がない、などと大きく考えてい たのですが、最後には自己満足をいかに達成するかの域に納まってしまいました。た だ、幸い楽観的性格も手伝って卒論自体には楽しんで取り組めたので、悩むことはあ りましたが「苦しい」困難は感じませんでした。既存の論文や事例研究を読み、新た な「発見」があるたびに面白くて、更なる情報を求めました。しかし、結果的には全 て中途半端に終わってしまいました―書評としても、サーベイとしても、スペイン語 も、フィールドワークも。提出後の現在も、このようなものが卒論として登録されて いると考えると恥ずかしい限りです。敢えて挙げれば、自分の力量のなさが失敗の原 因9割9分を占めているとすれば、残りは読んだ文献の多くが現状報告的・地域事例 的な内容だったので、「問い」を連続的に立てていく過程が踏みにくかったことで しょうか。NGOsでの活動、夜勤等の仕事、就職活動、他の講義等による時間の制約 はもちろんありましたが、ある程度の制約は逆に効果的だと思いました。  

4.論を書いて得たものは何か。  

日系人の移住・生活状況、就労環境、それぞれの場面で生じる様々な問題をより理 解するための足がかりを得たこと。遠く南米で起こっている「彼らの」問題としてで はなく、身近に起こっている「自分たちの」問題として、南米人の存在や彼らが抱え る/させられている問題を意識して日常生活を送ることができるようになったこと。 外大に教えに来てくださっていた2人の「移民」研究者と接点を持ち、多くを学んだ こと。多くの人と知り会い、話を伺えたこと。論文を執筆するに至るまでの過程―文 献・資料の収集・読解・編集・作成・構成、等―とその難しさを知ることができたこ と。書き終えた後の充実感は、人に言われる程ありませんでしたが、取り組む過程 に、今後も機会があれば再度挑戦したいと思える楽しみはありました。  

5. 後輩へのアドバイス  

自分自身の反省・経験を挙げると:

・半強制的にでもテーマは早めに決める

・書評図書とは別に関連文献をできるだけ多く読む

・できれば関心のある分野・対象に机上のみではなく直接接する機会を持つ

・(ゼミ/学内/他大学で)卒論執筆の「ライバル」兼「いい友達」を作る

・書いたものに対して複数の教官、学生に意見を乞う

・高橋教官の熱意や説得力、迫力はものすごいので、その分意識して批判的にアドバ イスに耳を傾ける(→なかなか難しいことと思いますが(笑))  

などでしょうか。ただ、当然ぶつかる壁は各人異なるでしょうから、困った時はそ の都度先生に(アポイントを取って)相談に乗っていただくのが最良だと思います。

 

 

2003年度

 

2004年度