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Usami, Mayumi (2002)
Discourse Politeness in Japanese Conversation: Some Implications for a Universal Theory of Politeness”,
Hituzi Syobo.

概要

題目、目次の日本語訳

日本語会話におけるディスコース・ポライトネス:ポライトネスの普遍理論への示唆

第1章  序論: なぜ、「ディスコース・ポライトネス」を研究する必要があるのか?
第2章 方法論: 会話分析への言語社会心理学的アプローチ
第3章 データの妥当性の評価: 人は、いかに初対面の対話相手、及び、会話を認知しているのか?
第4章 全体的特徴:日本人社会人の初対面二者間会話の言語的特徴
第5章 初対面二者間会話の冒頭部の構造:人は、初対面の相手との会話で何を話し、また、どのように話題を展開していくのか? 
第6章

文/発話レベルの言語行動: 人は、初対面の相手との会話において、文レベルにおいては、いかなる言語形式をいかに選択するのか?

第7章 談話レベルの言語行動:人は、初対面の対話相手と、いかにやりとりするのか?
第8章 文/発話レベルと談話レベルの言語行動の相互作用: 人は、初対面の相手との会話において、言語形式や談話レベルの行動をいかに操作するのか?
第9章

結論: 語用論的機能のダイナミックな総体としてのディスコース・ポライトネス

資料集

本書の目的
@  語用論、社会言語学など関連ゥ領域で影響力を持つ「ポライトネスの普遍理論」研究の文脈に、実証的データが不足していた非印欧語である日本語のデータ分析の結果を提供する。また、その結果に基づいて、「ディスコース・ポライトネス」という新しい概念を導入する。このことによって、従来の理論のいくつかの問題点を解決するとともに、文化的偏りのないポライトネスの普遍性の追究には、ポライトネスの談話理論構築が必須であるという新しい方向性を提示する。
A 国際的学界に、日本語・日本文化、及び、それに関わる研究についての知識を広め、関心を促す。
B  日本語で言う「丁寧さ」とは異なる「ポライトネス」という概念を持ち込み、日本語の敬語使用を対人調節機能の観点から捉え直すことによって、国内における敬語研究に新たな視点と知見を提供する。また、そのことによって、日本語の敬語研究とポライトネス研究の橋渡しをし、相互の交流、発展を促す。
C 従来の敬語研究に不足していた自然会話データに基づいて、談話レベルからの分析を行い、話者間の「相互作用」やスピーチレベルのシフト操作など「動的」な言語行動のメカニズムを追究することによって、従来の質問紙調査からは得られなかった新しい知見を得た。それらを提供することによって、日本語の敬語研究にも貢献する。
D  方法論的には、自然会話分析という領域の発展のための一つの鍵となるデータの蓄積・共有化を念頭において、条件を統制して、統計処理が施せる一定量のデータを収集し、定量的分析を可能にした。また、質問紙調査も、データの妥当性の検証などに活用しており、自然会話分析、談話研究の領域で未発達の、定量的分析を基礎とした上で定性的分析も行うという「自然会話分析への言語社会心理学的アプローチ」を提唱する。
全体の概要

本書は、日本人社会人の初対面2者間会話72組を、言語社会心理学的アプローチを用いて、ポライトネス理論の観点から分析した実証的研究の集成である。社会科学における20世紀を代表する理論とも評されているBrown & Levinson (1987)の「ポライトネス普遍理論」の枠組みを検証する実験計画に基づいて収集された社会人の日本語の会話を分析することによって、対話相手の年齢・社会的地位・性別に応じた言語使用の実態を明らかにした。また、日本語における敬語使用の実態を「ディスコース・ポライトネス」というより広い観点から捉えることによって、その現代的使用の特徴を明らかにし、その上で、これらの結果が、ポライトネスの普遍理論に何を示唆するかについて論じた。また、非印欧言語である日本語のデータ分析結果を踏まえた上で、ポライトネスの「普遍理論」を追究するためには、個別言語の構造の違いに影響されやすい文レベルでポライトネスを捉え論じることは妥当ではなく、談話レベルでポライトネスを捉える「ディスコース・ポライトネス」という概念を導入することが必須であることを唱えた。本書では、実証的研究として、膨大なデータの分析・結果の提示を中心にし、理論的な考察はあまり含めなかったが、「ディスコース・ポライトネス」という概念、その体系化の構想、及び、その枠組みの骨格については、宇佐美(2001,2003)の論文に、より具体的にまとめた。

各章の概要

本書は、条件を統制して収集した大量の日本語の自然会話データを、文/発話行為レベルの言語行動、談話レベルの言語行動、及び、それらの相互作用という3つのレベルにおいて、ディスコース・ポライトネスという観点から総合的に分析した実証的研究の成果をまとめたものである。

第1章
(序論)

なぜ、「ディスコース・ポライトネス」を研究する必要があるのかを、これまでの欧米のポライトネス研究、日本における敬語研究、自身の一連の研究結果などを概観し、これまでのポライトネス理論研究の問題点を整理、吟味しながら論じた。また、Brown & Levinsonのポライトネス理論の枠組みの検証を目的の一つとして計画された本研究の目的、及び、仮説を提示するとともに、本書全体の構成を明示した。

第2章 自然会話分析という領域における定量的分析と定性的分析という方法論について、それぞれの長短を論じ、両者の有機的統合の必要性を論じた。また、自然会話分析研究においても、分析の妥当性・信頼性を高めるためには質問紙調査(フォローアップ・アンケート)を二次的に活用することが必須であることを論じた。その上で、本研究のデータ収集法、分析方法などの具体的な方法を提示した。
第3章

本研究で扱う自然会話データの妥当性を検証するために行われた質問紙調査の結果を分析し、データの妥当性を確認した上で、対話相手の年齢・社会的地位、及び、自然に話すことができたか否かなどの評定値を分析し、初対面の対人認知の傾向を考察した。さらに、本章で明らかになった結果は、実際の会話データの結果とも対照させ、相関係数を算出するなどして、後に総合的に考察した。

第4章
第5章
社会人の初対面二者間会話72会話の冒頭部について、各話者の発話文数や話者間の発話文数のバランス、発話の型などの基本的要素の分布と、話題の内容、展開の仕方などを記述し、定量的・定性的双方のアプローチによって、初対面二者間会話の構造、言語的特徴、及び、話題の展開パターンなどを明らかにした。また、これらの項目と、フォローアップ・アンケートで尋ねた相手の年齢・社会的地位、会話の自然さなどの評定値との相関関係を、統計処理を行って明らかにすることによって、話者間の力関係が、これらの言語項目・要素にいかに影響を及ぼしているかについて考察した。
第6章
第7章
第8章
話者間の力関係(年齢・社会的地位の違い)が、話者の言語行動に与える影響を、文/発話行為レベル、談話レベルの言語行動、及び、それらの相互作用という3つの観点から分析した。具体的には、いわゆる敬語使用の傾向、話題導入頻度とスピーチレベルのシフト操作(敬語使用から不使用へのシフト、及び、その逆のシフト)、及び、これらの文/発話行為レベルと談話レベルの言語行動の相互作用を定量的に分析し、統計処理を行った結果に基づいて考察した。
第9章
(結論)
第3章〜第8章で明らかになった結果について、日本語の敬語使用の原則、及び、Brown & Levinsonのポライトネス理論が、十分にそれを説明し得るか否かを総合的に検討・考察し、それぞれの問題点を明らかにした。その上で、Brown & Levinsonが主にデータとして扱った複雑な敬語体系を持たない英語のような言語と、日本語のような複雑な敬語体系を持つ言語双方のポライトネスを、文化的な偏りなく同一の枠組みで扱い、異なる言語の構造的特徴の違いを超えてあるポライトネスの普遍的特徴を明らかにするためには、「ディスコース・ポライトネス」という概念を導入して、ポライトネスを談話レベルから捉えるポライトネスの談話理論を構築することが必須であることを論じ、その構想を提示した。

また、最後には、本研究で明らかになった現代日本人の敬語使用の傾向、及び、談話レベルの言語行動に反映されたポライトネスに関する知見を、第二言語としての日本語教育に生かす必要性とその意義についても論じた。


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