キシュワル・ナーヒードの詩
 このページでは講演会のため来日されるキシュワル・ナーヒード女史の詩を公開しています。
(左はウルドゥー語の原文、右は星野裕子と麻田による日本語訳です。)
数ある話のうちのひとつ / 神々に伝えよ! / 蝋の宮殿
 
数ある話のうちのひとつ

 数ある話のうちのひとつ

 食卓には埃が積もっていた

 私はそれを食べたのではなく

 その代わりに 指で

 埃の上に書いた

 勇気がなくてあなたには言えなかったことを

[Japanese translation (c) Kahkashaan + ASADA Yutaka 2002]
 
神々に伝えよ!


神々に伝えよ!

私に死が訪れようとする日

止むことを知らぬような

雨がずっと降り続いてほしい

人々に雨か涙かの

区別がつかぬよう


私に死が訪れようとする日

ほかの物に目を奪われることがないほどの

花が大地に咲き誇ってほしい

幾本もの灯火の炎が明かりを放ち

私と共に歩んでほしい

話をしながら

笑みを浮かべながら


私に死が訪れようとする日

すべての鳥の巣の

すべての雛鳥に羽が生えてほしい

すべてのささやきがジャルタラングの音楽に

そしてすべてのすすり泣きが
銀鈴の調べに変わるように


私に死が訪れようとする日

次の条件をのんでから死が訪れるように

まず 生きているうちに会いにきて

私の家の中庭で 私とともに戯れ

生きることの意味を知ること

そのあと 勝手にするがいい



私に死が訪れようとする日

太陽は沈むのを忘れてほしい

光は私とともに埋められてはならないから


[Japanese translation (c) Kahkashaan + ASADA Yutaka 2002]
 
蝋の宮殿


蝋の宮殿

私が結婚する前 母は

よく悪夢にうなされていた

母の恐ろしげな悲鳴で 私は目を覚ました

私は母を起こし どうしたのかと尋ねる

母はうつろな目で見つめ続ける

母はどんな夢だったか思い出せずにいた

ある夜 悪夢にうなされたが

母は悲鳴をあげなかった

恐怖におののきながら 私を抱き寄せた

私はどうしたのかと尋ねた

すると母は目を開け神に感謝しながら言った

「夢の中で

あなたが溺れていたので

助けようと川に飛び込んだの」

そしてその夜 落雷のため

うちの水牛と 私の婚約者が焼け死んだ


ある夜 母は眠っていて 私は起きていた

母は何度もこぶしを握っては開いている

まるで何かを掴もうとして疲れ果て
また勇気を奮い起こそうと
こぶしを握るようだった


私は母を起こした
だが母はどんな夢を見たのか
私に教えてはくれなかった

その夜から 私は眠れなくなった

私は別の家の中庭に入り込んでしまった

そして今 私と母は夢の中で悲鳴をあげる

そして誰かに尋ねられたら

こう答える

「どんな夢だったか思い出せない」と

[Japanese translation (c) Kahkashaan + ASADA Yutaka 2002]