Security Sector Reform(SSR)は、現代平和構築活動の中核的活動の一つとして認識されている。平和を構築する作業には、紛争後社会を安全なものにしていくことが根本的な命題となるため、治安に関する部門の改革は、平和構築の命運を決する重要事項と認識されるのである。  本章では、SSRの必要性について、安全保障分野での視点と、開発援助分野での視点の対比を意識しつつ、平和構築の短期的戦略と長期的戦略の見通しの中で、SSRがどのように位置づけられるのかについて、一つの視点を提示する。
 本書は、全体として「SSRという包括的・多面的な活動における『安全保障』と『開発』の交錯と相克を探る」ことを目指している。本章は、こうした問題設定の大枠を意識しつつ、SSRをめぐる言説の中に、どのような異質な方向性が混在していると言えるのかについて考察を加える。SSRがどのような異質な問題意識によって発展させられてきたのかを、政策思想の面に着目して描き出すことを試みる。
 いわば本章は、技術的問題に集約されがちなSSRを、SSRを導入して実施する政策者の側の政治的関心の観点から、描き直そうとするものである。その過程において本章は、安全保障上の関心から国際社会が設定する傾向にあるSSRの意義に関する議論の性格を、「消極的(negative)」なものとして描写する。そして、現地社会側からの視点に立って開発援助の分野で見られるSSRの意義に関する議論の性格を、「積極的(positive)」なものとして論じる。国連におけるPKOをめぐる議論、米国におけるイラクへの関与をめぐる議論、開発援助機関等における議論、さらにはシエラレオネの真実和解委員会の議論などを題材にしながら、両者の異なった傾向を見ていく。
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