本稿は、国家主権概念の変容という問題に対し、立憲主義という政治理論において語られる思想の伝統を用いて分析を試みるものである。立憲主義は国際思想においても無関係ではない。両大戦間期の英米圏であれば「法の支配」の思潮は国際関係を語る際に頻繁に依拠されたものであった。しかしそうした歴史は第二次世界大戦と現実主義の台頭によって忘れ去られた。今日の国際的立憲主義はかつてのそれとは内容において異なる。というのは国家の擬人化による国内類推は時代遅れとなったからである。今日では立憲主義は、国内と同様に、諸個人と公権力という単位を基本にして構成されている。もっとも本稿は立憲主義を単に賞賛することを意図しているわけではなく、強者の論理としてのその政治的背景に注意を促している。
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