米国の対イラク戦争には数々の危険が伴っている。この戦争は、大量破壊兵器開発阻止、テロリストとの関係、人道的救援などを理由にしているが、政権交代と占領統治を狙う米国の実際の態度は、これらの理由との乖離を示している。戦略的には、抑止が効かないという事情が論証されていない。かえって戦争はフセイン政権による大量破壊兵器の使用を促すという点で、危険である。軍事的には、米国の精密誘導兵器が、イラクの占領という目標を迅速に行うためにどれだけ有効であるかに疑問がある。イラク国内の離反に期待して戦争に踏み出すことは、確証のない見込み発車に見える。フセイン政権の除去が、中東に権力の真空状態を生み出す地政学的危険もある。複雑な民族・宗派構成を持つイラク国内が戦後に安定するかどうかも疑わしい。さらに戦争による人道的被害は、フセイン政権の圧政を考慮しても、深刻に憂慮すべき問題である。
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