本稿は平和に関する国際規範の問題を、秩序と正義といった価値、そして国家主権の問題とからめて論じるものである。そして21世紀の平和学が直面する問題を理論的かつ歴史的に考察する。まず本稿は理想主義と現実主義の対比を見たうえで、イギリス学派によって代表されるグロチウス的立場を方法論的視座として採用する。それは秩序と正義の間の緊張関係を認識した上で、両者のバランスをとろうとする立場である。次に中世から近代初期に至るまでの時代、そして19世紀の平和と戦争をめぐる国際規範の推移について概観する。近代になると、主権国家に秩序と正義の内容を決定する絶対的な権威が与えられた。さらに本稿は20世紀の国際規範の変化を特徴づけ、戦争違法化と例外的な武力行使容認をめぐる規範について確認する。そしてそれらが新しい国際的な秩序と正義の観念を生み出したことを指摘する。 加えて本稿はポスト冷戦時代の国際事件を検討し、国際規範の新しい動向について考察する。特筆すべきは国際人権法と国際人道法の役割である。また人道的介入の場面などで、秩序と正義のバランス感覚が問われるということも本稿は指摘する。
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