一橋新聞インタビュー(2004年10月)


教授が斬る「台湾」‐中台関係について
『一橋新聞』1113号(2004年10月8日)

東京外国語大学大学院助教授 小笠原 欣幸



― 中国は広大な国土を有しているのになぜ台湾にこだわるのでしょうか?

 一番大きな要因は中国共産党の正当性にかかわるからでしょう。中国国内では、経済成長に伴う様々な問題や少数民族の独立問題があります。それらを抑え込む一党支配の正当性というのは、「祖国統一」が残っているからというものです。台湾の分離を認めたら共産党支配の根拠を失って、それらの問題が一気に噴き出てしまうでしょう。 また、台湾は中国にとって軍事的に重要な拠点になります。台湾が独立して、アメリカと安保条約を結んだら、沖縄・台湾によって中国は米軍基地に囲まれることになります。

― アメリカにとって台湾とはどういう存在でしょうか?

 アメリカからすると、民主化と経済成長を実現している台湾を悪く思う理由はありません。一方、中国という新しい大国に対してアメリカのスタンスはまだ固まっていません。台湾というのは中国に対する重要な駒になります。アメリカが望むのは「現状維持」で、中国と台湾がそれを動かそうとするとどちらに対しても非常に強い態度に出ます。

― 2008年には北京五輪がありますが、中台双方に動きはあるでしょうか?

 中国が警戒しているのは、近年の「台湾アイデンティティー」の高まりによって台湾が政治的に中国との統一から離れた方向に行くことです。だからといって、五輪前に荒っぽい手段に出れば国際社会の反発は必至だし、各国の北京五輪ボイコットも充分にありえます。    一方、台湾の独立派の中には「今のうちだ」と考える人もいます。そういう人たちは経済的な面から中国にのみこまれてしまうことへの危機感がとてもあるので、台湾の存在を固める動きに出るでしょう。2008年前は要注意ですね。

― 中台関係の緊張は日本にどのような影響を与えますか?

 中台関係の緊張により中国経済が不安定になるのは、日本経済にとっても望ましくないでしょう。 各種のメディアを通じて中台日の民衆同士の反発も考えられます。20世紀からの流れでは、大国が主権をふりまわして住民の多数派の要望を無視していいことにはなりません。中台関係緊張の報道の中で、おそらく日本では台湾に同情的な世論が『突然』ボンと出てくると思います。そうすると中国の反日感情を刺激しますし、それをうけて、今度は中国に対する反感が日本にも出てきてしまう。

― 台湾問題に求められる日本の姿勢はどのようなものでしょうか?

 今まで中台日の関係について全然議論されていないのが怖いですね。日米関係のように議論されているなら、ある程度見通しはつくのですが。 まず、経済や観光だけでなく文化・学術などでも日本と台湾のパイプを太くしていくべきでしょう。日本全体がもっと台湾を正面から見ていくことは大切だし、それは中国にもプラスになるはずです。台湾と交流するのが日本の中の反中国勢力だというのは非常に不幸な構図ですから。 中国側からすると、台湾がこうなったのは日本の植民地支配のせいだ、となりますから日本は発言するにしても慎重さが求められます。「日本が仲介します」というのは中国にしてみれば「ふざけるな」となってしまいます。けれども、結果として日本という場で、あるいは日本が介在しているパイプで台湾と中国が出会える、そういう場を少しでも増やしていくことが日本の貢献できる道ではないでしょうか。

【インタビュー by 小島啓】

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