フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪ フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪
2019年7月10日 22:25-22:45放送
BSテレビ東京「日経プラス10」


揺れる台湾 対中関係と総統選
フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪ 東京外国語大学
小笠原 欣幸

2019年7月10日 BSテレビ東京「日経プラス10」の特集「揺れる台湾 対中関係と総統選」に出演し台湾総統選挙情勢について解説しました。番組の事前質問と私の書面回答を編集し「小笠原解説」の簡略版を作りました。番組では飛ばした部分も含んでいます。(2019年7月11日作成)


Q:国民党の党内予備選は、韓国瑜氏と郭台銘氏の争いといわれますが、どちらが勝利すると予想されますか?またそうなった場合の選挙戦の展開は?

A:韓國瑜氏が勝つと予想しています。
韓氏が国民党候補になった場合,現職の蔡英文氏との間で非常に激しい戦いになると思います。昨年の高雄市長選挙で,韓氏は弁舌鋭く民進党を攻撃して,事前の予測を覆して当選しました。韓氏・国民党はその再来を狙うでしょう。韓氏は中国共産党との協調路線を打ち出しています。中国と距離を置こうとする蔡英文総統との間で対中政策が最大の争点となります。
郭台銘氏が国民党候補になった場合,従来にない異色の候補なので,選挙戦の展開がどうなるのか予想するのは難しいです。郭台銘氏は,トランプ大統領の例を出して,グルーバル企業の経営者がトップダウンで効率よく政治を動かしていくというイメージを作っています。そうしたアピールが既成政治に失望した人たちを引き付ける一方で,郭氏の鴻海での経営・労務管理のやり方は非常に厳しいということは台湾でよく知られていて,そういう人物がトップになるのは御免だという感覚もあります。郭氏の支持率は伸び悩んでいますが,そういう感覚を反映していると言えます。

Q:国民党は対中融和路線のはずですが、韓氏も郭氏も「対中強硬」的な発言をしているようです。どういう意図があるのでしょうか?

A:今年に入って習近平の対台湾演説があり,台湾社会で中国に対する警戒感が高まってきました。昨年とは雰囲気が変わってきて,あまりにも中国寄りと受け取られると支持が伸びない状況です。それで,両者とも選挙を考えて軌道修正をしています。
郭台銘氏は中国で巨額の事業を展開していて,一般の人から見ても中国の圧力を受けやすいと見られますので,余計に強く,中国の言いなりにはならないという趣旨の発言をしています。

Q:「香港デモの台湾への影響」が再三報道されていますが、具体的には?

A:台湾では一国二制度への支持というのはほとんどありません。国民党も反対しています。蔡政権登場後,中国は台湾への圧力を強めていて,台湾では徐々に追い込まれているという認識になってきました。それでも,一国二制度というのはいま差し迫った脅威というより,かなり遠い先の話という印象でした。それが,まず1月の習近平の演説で,いやでも意識されられました。蔡英文総統が一国二制度は断固拒否すると強い姿勢を示し,ネット上で若者らの支持を集めましたが,支持率にはすぐには出ませんでした。
それが,6月初めに立て続けに香港で大規模デモが発生し,香港の中心部を香港市民が埋め尽くす映像は台湾でもネットやテレビで繰り返し流れました。香港の人たちの必死の様子を見て,台湾の人たちも強い危機感を共有したという状況です。それが蔡英文総統の支持率に反映されました。
また,香港で最初の大規模デモが発生した時,韓國瑜氏は台湾メディアのぶら下がりの取材に対し「詳しく知らない」と逃げをうちました。韓氏の支持率はその前から下がり始めていましたが,この逃げ腰の対応も影響しました。こうして台湾の選挙情勢が激変することになったわけです。

Q:中国の習近平主席の1月の台湾向け演説はどのような思惑があるのでしょうか?

A:中国は馬英九政権の時に統一に向けて話し合いを進めたかったのですが,結果として進んでいません。胡錦濤時代の中国は,台湾の民意を引き寄せるという狙いで,台湾に配慮しながら時間をかけて進めるという政策でした。それで,馬英九時代の国民党は,中国共産党と協調しながらものらりくらりと統一協議を先延ばしにすることができたわけです。ところが習近平は,今後は国民党に対してものらりくらりはゆるさないという厳しい方針を示しました。それが1月の演説だったわけです。これで,国民党の立場は苦しくなりました。
国民党は2016年の前回選挙で大敗し,今後は,台湾の中で二大政党として生き残るのが難しくなりました。その時国民党が頼ることができたのは,中国の影響力だったわけです。
国民党は,以前は中国共産党に対抗して台湾の中華民国を守るという立場できたが,中国共産党との協力関係を使って,国民党政権であれば中国とうまくやって様々な恩恵を台湾に取ってくることができるというイメージで選挙を戦う党へと変化しました。共産党は,そういう国民党のねらいをわかっていて,釘を刺しました。次に登場する国民党政権は,2008年の馬英九政権とは違う,別のものだと認識しておくことが必要です。
民進党政権を4年で終わらせるというのが中国の狙いです。蔡氏が再選されたのでは習近平の政策も演説も効果がなかったということになるので,だまってはいないと思います。習指導部がどんな手を出してくるのか,要注意です。

Q:蔡英文・韓国瑜・柯文哲の支持率のデータから見えてくるものとは?

A:昨年の地方選挙での大敗によって,蔡英文氏が勝つ可能性は消えたというのが大方の判断でした。蔡氏の支持率はどの調査を見ても一番低いという状況でした。それが,今年になって,先ほども触れたように習近平の1月演説から,まずネットで支持が高まります。つまり若者の支持が蔡氏に戻り始めました。そして,香港情勢によって,蔡氏の支持率が急上昇しトップに来たというのがいまの情勢です。
選挙は来年1月11日ですので,あとちょうど半年です。選挙情勢はこの先も変化していくと思いますが,少なくとも,昨年の年末から今年の初めの「蔡氏の再選の可能性はもうない」から「蔡氏再選の可能性も十分でてきた」という状況に変化したと言えます。


出所:TVBS,美麗島,聯合報の民意調査を参照し筆者作成

Q:トランプ米大統領の台湾政策について、台湾の民衆はどう考えているのでしょうか?

A:アメリカは台湾の後ろ盾というのは共通認識です。しかし,蔡政権・民進党が米日と連携して中国と対抗するという政策なのに対し,国民党は米中対立の中で台湾は等距離の方がよいという考え方です。「トランプ大統領がもっと台湾に肩入れしてくれることを期待」している人が3分の1,そうなると「中国からさらに敵視されるので不安だ」という人が3分の1,そして,「正直わからない」という人が3分の1ではないかと思います。
2020年総統選挙は,米中対立という外部環境で迎える初めての選挙です。米政権はこれまでは民進党でも国民党でもよかったのですが,国民党が親中政党に転じたいま,本音では民進党支持だと思います。これから半年の間にトランプ政権が国民党ではなく明確に蔡総統を支持するというメッセージを出すかどうかも選挙に影響します。
昨日,アメリカの新型戦車を台湾に売却するという発表がありました。それもトランプ政権のサポートであることは間違いないです。日本メディアは「中国が戦車の売却に強硬に反対する」と書いていますが,中国の抗議は演技ですね。本当の問題は,中国が本気で反対する戦闘機を台湾に提供するかどうかなんです。中国は戦闘機売却を阻止するために戦車で強硬に反対をアピールするのです。
現在,台湾がF-16vを66機購入するという大型の購入申請をアメリカ側に出しています。交渉はかなり煮詰まっていて,あとはトランプ大統領の決済だけだとも言われています。トランプ大統領がGOといえば,中国が強硬に反発して米中関係に影響を与えるのは避けられません。つまり,そこまですれば,台湾を守るというトランプ政権の本気度が伝わりますし,蔡政権を支持するという非常に力強いメッセージとして選挙にも影響すると思います。アメリカがそこまでするかどうか,それも注目点です。

Q:来年1月の総統選挙はどんな選挙になりますか?

A:これから半年の選挙戦は台湾の将来をかけて非常に激烈な選挙になります。
蔡英文氏再選の場合は,中台関係は基本的に今と同じで,中国側が対話を拒否し,台湾への嫌がらせや圧力を続け,台湾がそれに耐えていくという展開になります。韓氏が総統に当選した場合は,「一つの中国」を認めて中国との対話が再開され,中国から様々なビジネスチャンスをもらえるでしょう。しかし,台湾の自立は今より弱まることは確実です。習近平は統一に向けてこの際しっかりとレールを敷こうとします。
中国経済の成長は減速したといっても市場規模がとてつもなく大きいし,一帯一路もあるので,そのビジネスチャンスに入り込みたいというのは台湾側の多くの人の希望です。しかし,中国ビジネスで台湾経済が利益を得たとしても,中国共産党に取り込まれ,統一を受け入れざるを得ない局面に追い込まれます。
一方,蔡英文氏を再び選べば台湾人の意地を示すことはできますが,中国から締め上げられることを覚悟しなければなりません。これは台湾の「自立と繁栄のジレンマ」なのです。台湾の有権者はこれを選択しなければなりません。来年1月の選挙で非常に重たい1票を投じることになります。


2019年7月10日 BSテレビ東京スタジオ

フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪  フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪   フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪   フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪  フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪  フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪ 
OGASAWARA HOMEPAGE