台湾学生立法院占拠事件 産経新聞 識者談話

  
手柄を焦った馬総統

東京外国語大学
小笠原 欣幸


 台湾の学生らの行動に多くの同情・共感が集まった背景には、馬英九総統が就任以来維持してきた「経済では中台の緊密化、政治では一定の距離」の微妙なバランスが怪しくなったことへの警戒がある。台湾メディアで馬氏のAPEC出席や中国の最高指導者習近平氏との首脳会談の憶測報道が増えるにつれ、馬氏が個人的な手柄のために何かを犠牲にするのではないかという危惧が広がった。
 サービス貿易協定自体は、利害が複雑に入り組み台湾側に有利な要素もあるので、簡単に「これで台湾がおしまいになる」と概括できるものではない。だが、関連業界への説明など準備工作が最初から足らなかった上、焦って協定の批准に突き進んだことが疑念を一層かきたてた。学生らは、強烈なパフォーマンスによって、中国に呑み込まれたくないという台湾人の感情を表出させることに成功した。
 今回の事件によって、馬氏のAPEC出席の可能性は完全に消え、馬習会談の可能性もほぼゼロになった。今後、中台間の実務協議は続くが、そのペースはスローダウンする可能性が高い。ただ、中国が統一工作の手を緩めるわけではないので、台湾内部では揺れが続くであろう。

『産経新聞』2014年4月11日


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