台湾総統選挙 北海道新聞 コメント

  
「蔡氏の優位 台湾帰属意識の高まり背景」

小笠原 欣幸

 総統選は民進党候補の蔡英文氏が当選して政権交代する可能性が高い。背景に「台湾アイデンティティー」の高まりがある。
 台湾は国際的に「国」と認められず、中国は台湾を「中国の一部」と見なすことに、台湾の人たちは鬱屈した心情を抱いている。一方、映画や出版、旅行などで台湾の歴史や文化、景観を再認識する動きが出ている。この中で育まれた 「自分たちは台湾で生まれ育った台湾人。この台湾を守りたい」と思う気持ちが台湾アイデンティティーだ。
 李登輝元総統が1996年に始めた総統直接選挙も6回目。4年に1度、台湾のトップを投票で選び、台湾の人々は主権の行使を実感している。中国のトップが密室で決まるのと対照的に、直接選挙の参加は「台湾は中国と違う」と確認できる行為だ。民主化を進めただけでなく、台湾を中国と区別する「台湾化」を固める制度と言える。
 国民党の馬英九政権は経済失策、党内の権力闘争に加え、対中傾斜を強め、台湾社会の主流とずれてしまった。11月の中台首脳会談も台湾側に成果がなく、選挙戦への影響はない。
 民進党には追い風が吹く。台湾の地方は人口流出、高齢化、グローバル経済にさらされる農業など日本と同じ課題に直面しているが、民進党は地道に振興策を訴え、地方で支持を広げてきた。地盤の南部から中部へ勢力を広げ、国民党の地盤である北部もうかがう。
 台湾ナショナリズムをよりどころとする民進党だが、蔡氏は「中華民国体制下の現状維持」を主張している。かつて民進党政権を率いた陳水扁前総統は「台湾独立」をちらつかせて対中関係を緊張させ、米国も「トラブルメーカー」と批判した。蔡氏は注意深く中国との関係を考えて政権運営をするはずだ。穏健な対中政策は米国や日本も歓迎するだろう。
(聞き手・東京報道 佐々木学)

『北海道新聞』 2015年12月20日

OGASAWARA HOMEPAGE