フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪
2020年台湾総統・立法委員選挙コメント

小笠原 欣幸

台湾の人々が民主的
手続きで新総統を選
出したことをお慶び
申し上げます。

大差で再選された蔡英文総統
2019年12月29日 蔡総統の選挙
キャンペーンの合間に撮影

1月11日,台湾の総統選挙が無事に終了した。1996年に総統直接選挙が導入されてから今回が7回目にあたる。
投票率は74.9%で,4年前と比べて8.6ポイント上昇した。即日開票の結果は,与党民進党の現職の蔡英文総統が57.2%の得票率で再選を果たした。最大野党の国民党の韓國瑜候補(高雄市長)は38.6%の得票率で敗れた。両者の差は,得票率で18.5ポイント,票数で約270万票であった。小政党の親民党の宋楚瑜候補は4.3%の得票率に終わった。
4年前の選挙と比べると,国民党の得票率は前回の朱立倫の31.0%から7.6ポイント上昇した。4年前も出馬した宋楚瑜の得票率は8.5ポイント減少した。前回56.1%であった蔡英文の得票率は1.1ポイント増えた。
選挙戦の流れでいうと,夏以降蔡英文の優勢が固まり,そのままほとんど変化がなくゴールとなった。韓國瑜は大きく引き離されていたが,最後の段階で宋楚瑜の票を取って一部盛り返した。
4年前の総統選挙は台湾の政党政治の地殻変動をもたらした歴史的選挙であった。国民党は確かにその歴史的大敗から一定の回復を見せたが,民進党優位の構造を揺さぶることはできなかった。
一方,同時に行なわれた立法委員選挙は,民進党が61議席を獲得し,過半数を維持した。国民党は38議席に終わった。他に柯文哲台北市長が立ち上げた新政党台湾民衆党が5議席,時代力量が3議席,無党籍・諸派が6議席獲得した。
民進党は前回の歴史的大勝利から7議席減らしたが,国民党は3議席増やしただけで,前回の大敗とほぼ同じであった。無党籍・諸派のうち4名は民進党の支援を受けて当選した候補なので,民進党は61議席プラス4議席とカウントできる。
この結果,大統領・行政院と国会にあたる立法院を民進党が掌握する「完全執政」がさらに4年続くことになった。2つの選挙を総合すると,やはり民進党の大きな勝利,国民党の大きな敗北となる。

蔡英文総統の勝利という選挙結果は,多数派の選挙民が韓國瑜候補との比較で蔡総統の実績と安定感を再評価したことにある。その判断の背後にあるのが香港情勢と国民党の立ち位置の問題であった。
蔡総統は,内政において改革の進め方に批判が集まり支持率が低迷し,2018年の地方選挙で大敗した。再選を目指す蔡英文にとって非常に厳しい状況でのスタートであったが,身近な生活関連の政策が争点となる地方選挙と異なり,総統選挙は台湾のあり方が問われる。
台湾政治のイデオロギー構造は中国ナショナリズム(統一派)と台湾ナショナリズム(独立派)の二極構造であるが,選挙政治においては,両者の中間にゆるやかな台湾アイデンティティの支持層がある。この支持層は経済的な繁栄と台湾の自立の両方を求める中間派である。総統選挙ではこの支持層の票を多く取った者が当選する。過去6回すべてそうであったし,そして今回もそうであった。
国民党は蒋介石以来反共親米路線であったが,2005年からの10年間に共産党と協調する路線へと転換した。「両岸関係の平和的発展」をスローガンとした胡錦濤時代は,国民党が,中華民国の自立を維持しながら共産党と対話し中国の経済成長の恩恵に与るという夢を語ることができた。しかし,それは習近平時代には通用しなくなった。
習近平は昨年(2019年)1月の包括的対台湾政策の演説で,中華民国の存在空間を一切認めず,「一国二制度」方式による台湾統一への強い決意を表明した。そして,6月以降,その制度の下にある香港で,多くの人が悲痛な叫び声をあげた。香港の状況を見た人は,習氏のいう一国二制度を台湾が受け入れたら大変なことになると直感した。韓國瑜はこの状況に対応できず,香港の若者への連帯を示した蔡英文が中間派の支持を集めることになった。
米中対立時代に入ったことも,その間(はざま)にある台湾の選択に影響を与えた。この状況は,中国と距離をおき米日との連携を主張する蔡英文の追い風となり,「蔡政権は反中・親米」だと批判してきた韓國瑜に逆風となった。総統選挙の基本的な構図はこれで決まった。
「繁栄と自立」のジレンマでいうと,前回の2016年総統選挙では「自立」が強く出て,2018年の地方選挙では「繁栄」に傾いたが,2020年総統選挙でまた「自立」に戻ったことになる。

さらに,候補者の個別条件,キャラクターの違いも選挙民の選択に影響した。韓國瑜は非常にダイナミックで異色の政治家で,特定の支持層から熱狂的に支持されているが,失言も多く,安定性と信頼感に欠けると感じた人も多かった。蔡英文は面白みのない政治家と言われるが, 4年間の地味ながらも堅実な蔡総統の姿勢が一定の評価を得たことも勝利の要因である。
4回目の出馬となった親民党の宋楚瑜主席は,第三勢力の結集を訴えたが,蔡と韓の争いの中で埋没した。第三の候補が柯文哲あるいは郭台銘であれば選挙の展開は違っていたが,今回蔡英文に勝つことはできなかったであろう。

ただし,民進党も手放しでは喜べない。立法委員選挙の比例区の政党得票率を見ると,民進党は前回の44%から34%へと10ポイントも低下した。これは,一つには前回は民進党と連携していた柯文哲と決裂した影響による。柯が立ち上げた台湾民衆党は11.2%の得票を獲得した。また,他方で,2018年地方選挙で見られたように,主として民進党の体質や改革の進め方に対する不満が反映されたと見ることができる。
蔡政権第二期も内政では難しい局面が続くことが予想される。若者の雇用対策など経済政策で成果が出せないと不満の声は簡単に広がる。二大政党に不満な選挙民の声が広がる可能性は常に存在する。(2020年1月12日)


 OGASAWARA HOMEPAGE