2008年台湾総統選挙 選挙後のコメント

東京外国語大学
小笠原 欣幸

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 中国との統一でも独立でもなく、台湾の存在価値を高めていこうとする台湾アイデンティティを外省人の馬英九氏が尊重したことが勝因だ。その意味で、馬氏を単純に親中国と見るのは正しくない。大きなビジネスチャンスをもたらす隣人の中国とうまくつきあいたいという住民の期待もあった。
 これに対し民進党は、より急進的な台湾ナショナリズムに軸足を移したため、謝長廷氏が「自分は穏健路線」と言っても支持を広げられなかった。行政府と立法府のねじれや政権運営の失敗も、謝氏には逆風だった。
 国民党内では、統一意識の強い連戦名誉主席と馬氏との主導権争いがあったが、今回の勝利で馬氏の基盤は強化される。ただ、馬氏はチベット暴動をめぐり対中批判を強めており、中台対話にどう影響するかが注目される。
 台湾の民主政治は試行錯誤しながら成熟のプロセスを歩んでいる。期待に沿えなかった政党が選挙で交代させられるという民主主義の実践は、1党支配の中国に影響を与えていくだろう。
(毎日新聞掲載 2008年3月23日朝刊)
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 中国との統一を求めず、かといって独立を支持するわけでもない台湾アイデンティティが今の台湾政治の中心軸になっている。李登輝氏や陳水扁氏は総統選で、この台湾アイデンティティを立脚点として当選した。馬英九氏は外省人ながら、台湾アイデンティティを受け入れたことで当選できた。馬氏を親中派とみるのは正しくない。
 中国は巨大な独裁体制であるとともに、大きなビジネスチャンスをもたらす隣人でもある。中国とうまくつき合いたいという意識が台湾人にはある。馬氏が従来の国民党の統一路線を掲げていたなら、当選は難しかっただろう。世論は、過去の総統選に出馬した国民党の連戦氏と違って馬氏に台湾を託しても大丈夫と考えた。
 民主進歩党(民進党)は敗北したが、結党以来訴えてきた民主化と台湾化の考え方は多くが実現した。台湾の民主政治は試行錯誤しながら、成熟のプロセスを歩んでいる。国民の期待に沿えなかった政党が選挙で交代させられるという台湾の民主主義の実践は、独裁体制が続く中国にじわじわと影響を与えていくだろう。
(共同通信配信記事 2008年3月23日)
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※2008年総統選挙結果の分析は5月にUPする予定です。

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