フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪ 蔡英文総統2020年国慶演説

今年の演説の特徴
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小笠原 欣幸

1.コロナ対策成功の自信
コロナ対策の成功による台湾の自信をアピールした。それを,政権の成功としてではなく,台湾社会全体の努力の成果であると強調した。

2.経済の強調
台湾経済の課題は大きいとしつつも,よい方向に向かっているとアピールした。具体的事例として,台商の台湾回帰,産業政策,人材育成などをあげた。また,台米の経済協力関係の進展を強調したのも今年の特徴である。サプライチェーンの再編成に何度も言及したことも新たな特徴で,去年もその前もなかった。米中対立の中で,台湾が経済的にうまくかじ取りをしているという印象を与える。

3.「改革」は提起せず
2016年の最初の国慶演説では「改革」を何度も強調し蔡政権が改革政権であること印象付けた。しかし,今回は「改革」をまったく出さなかった。これは,年金改革など一連の制度改革をある程度成し遂げた自信の反映であり,国論を分断する改革に触れるより「団結」を前面に出す考慮であろう。おそらく同じ理由で,移行期正義に触れていない。重要課題と見なさる司法改革,憲政改革も一言も触れなかった。第2期では優先順位が下がったかもしれない。

4.国防の強調
国防の重視は毎年演説で述べている。程度は年により違いがあり,2017年と2018年はけっこう多く論じたが,昨年2019年は少なかった。これは,昨年は演説自体が短かったためと考えられる。今年はこれまでで最も詳しく台湾の安全・国軍について語った。過去の演説では国防産業の強化という蔡政権の経済戦略の文脈に置かれる傾向にあったが,今年は国軍の第一線の兵士らを持ち上げた。蔡総統は昨年来,国軍と民衆の距離を縮めようという発言・パフォーマンスを強めている。これは中華民国を掌握しようという蔡英文の政権戦略の現れといえるだろう。

5.中国向けは比較的マイルド
対中政策はこれまでと同じく「急進的にならず,挑発もしない」で,両岸の安定の維持を強調した。中国が対立を緩和したいと思うなら,対話を促進したいと述べた。このあたりはマイルドな表現法をとった。 そして,今年の演説では「一国二制度」に言及しなかった。昨年の演説では4回も「一国二制度」に言及し厳しく拒否をしたので,演説の主題となっていた。今年は,中国がいやがる用語なので刺激を避けるという考慮があったと思われる。そして,おそらくは,台湾では「一国二制度」の拒否がコンセンサスなのであえて触れなくてもよいという考慮もあったであろう。

まとめ
蔡総統が使い始めた「中華民国台湾」の用語は,2018年と19年の国慶演説,今年の就任演説に続いて登場した。今回は「慶賀中華民國台灣」と冒頭に持ってきた。演説のテーマの「団結」については,新たに団結を呼びかけるというより,コロナ対策で示された台湾社会の団結を基礎として,しだいに台湾のコンセンサスができつつあるという文脈であった。これが蔡総統のいう「中華民国台湾」の内実を作っていくのであろう。

全体として,台湾の自信を前面に出しながら台湾の安全に対する配慮もにじませた演説といえる。国論を分断する「改革」を出すのではなく,台湾が団結することで中国の強い圧力の中で生き残るという方向を示した。この演説の方向については,多くの支持を得られるであろう。政権の安定性を示したといえる。 (2020年10月11日)

  • 「朝日新聞」の国慶演説関連記事。筆者のコメントが掲載されている。
  • 台湾政治に詳しい小笠原教授は「台湾の自信を感じさせ、政権の安定を示す内容だ。防衛への配慮もにじみ、台湾の団結を訴えて、中国の強い圧力の中で生き残るという方向を打ち出している」と分析した。
  • 「対話で緊張解決を」 台湾総統、中国に呼びかけ」

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