2004年台湾立法委員選挙情勢


候補者が出揃った10月17日時点での選挙情勢

東京外国語大学
小笠原 欣幸

立候補締め切り

 2004年12月11日投票の立法委員選挙は,10月12日に立候補の受け付けが終了し候補者が確定した。選挙の焦点は,3月の総統選挙で再選を果した陳水扁陣営が立法院において過半数を制することができるかどうかである。このグループは,民進党のシンボルカラーが緑であることから緑色陣営と呼ばれる。緑色陣営は,陳水扁与党の民進党および陳水扁を支持している台湾団結聯盟(台聯)の2党で構成される。陳水扁に反対しているグループは,野党の中国国民党,親民党,新党の3党で構成される。こちらは,中国国民党のシンボルカラーである藍色をとって藍色陣営と呼ばれる。親民党も新党も中国国民党から分裂してできた政党であり,現在合併話が進行しているが,選挙前に正式な合併が実現するのは難しい状況にある。新党は合併の動きを推進するため,擁立した8名の候補のうち7名を中国国民党の名義で立候補登録をした。そのため,中央選挙委員会の公式資料では新党の候補者は1名となっている。  

過去4年間の立法院

 2000年3月に陳水扁が初めて総統に当選した時,立法院内で陳水扁を支持する与党勢力は225議席の3分の1にも満たない70議席にすぎなかった。全民政府を志向した唐飛行政院長,民進党政権に移行した張俊雄行政院長の時期には,政府が提出する法案(重要法案,対決型法案)は,国民党を中心とする野党陣営によってことごとく妨害された。台湾の政治制度は,大統領制と議院内閣制を併用する半大統領制であるため,議会での過半数を掌握できないと自前の政策の展開は非常に難しい。
 2001年12月の立法委員選挙で新たに陳水扁を支持する台聯が登場し,民進党も議席を大幅に伸ばしたが,緑色陣営の合計は100議席で,藍色陣営の115議席に及ばなかった。民進党は当初,国民党内の本土派および無所属で当選した10名の抱き込みに期待をかけていたが,本土派は動かず,無所属の10名の多くは藍色系であったため過半数確保の試みは失敗に終った。この選挙後に就任した游行政院長は立法院でしばしば立ち往生したが,与野党の議席数が接近していたので,地方建設予算や人事同意投票などで可決に持ち込むことができる回数は増えた。    

2004年選挙の争点

 最大の争点は,緑色陣営が過半数を確保するか否かの数の争いである。過去4年間の移行期を経て大統領と議会を掌握する本格的な民進党政権(緑色政権)が登場するのか,それともこれまでの移行期が続くのか。台湾の国内政治の観点からは,過去4年間で議論は煮詰まり,台湾アイデンティティをより強固にしていくのか,ブレーキをかけるのかに争点を集約することができる。
 台湾の政治構造の変化という視点からは,台湾の政党政治が2大政党体制に移行する流れを確認する選挙となるであろう。今年8月の憲法改正発議により,立法委員の選挙制度を現行の中選挙区制(比例区は選挙区での得票率で議席が配分される1票制)から日本のような小選挙区2票制に移行することが事実上決まった。大統領選挙が緑色と藍色の2大陣営の対決であることに加えて,議会選挙も小選挙区制が採用されたことで,親民党と台聯が独自勢力として生き残ることは難しくなると考えられる。両党とも今回の選挙でできるだけ議席を確保し,将来の合併ないし選挙協定の交渉を有利にしたいという思惑を持っているが,選挙民の方が一足先に2大政党制の感覚で今回の投票を行なうかもしれない。
 90年代の台湾政治を特徴づけてきた地方派閥がどうなるのかも今回の選挙の興味深い争点である。1998年選挙が国民党系地方派閥の絶頂期であったとすると,2001年選挙はその退潮を記すものであった。2004年総統選挙では,雲林県で見られたように地方派閥の集票能力は大きく低下したことが示された。2004年立法委員選挙は,台湾政治における従来型地方派閥が別の形態に脱皮していくプロセスを浮き彫りにする選挙となるのではないか。指標的人物として,雲林県の張麗善(汚職容疑で指名手配を受け逃亡中の張榮味県長の妹),嘉義県の翁重鈞(嘉義県で一世を風靡した黄派の継承者),台中県の劉銓忠(台中県紅派,劉松藩没落後の地方派閥的人物),苗栗県の何智輝(苗栗県の山線出身,前県長,汚職で起訴,裁判中)らを挙げておきたい。  

選挙情勢の推移

 3月総統選挙では緑色陣営と藍色陣営とが互角であることが示されたが,緑色陣営は4年間で10%得票率を上昇させたこと,および,陳水扁の在任期間が8年になることで緑色が有利と判断できた。また,選挙後の藍色陣営の混乱した対応により,国民党でも親民党でも支持者離れの現象が報じられていた。しかし,危機感を深めた藍色陣営は,国民党を中心に候補者数の抑制を行ない,議席数の激減という事態は回避しつつある。国民党は党内の反発を押さえ込んで公認候補を大幅に削減したため,各候補者の当選の見通しは当初よりは明るくなっている。国民党の得票率は全体として低下すること間違いないが(比例区の当選者は減少),個々の選挙区では健闘し,総統選挙敗北のダメージを最小限に押さえ微減に留まる可能性がある。親民党は総統選挙後の強硬姿勢による支持者離れと,国民党との合併話で議席の減少は避けられないが,選挙区で知名度の高い候補を擁しているので一定のところで踏み留まるであろう。
 民進党は前回非常に効率的な議席獲得をしたので,まず選挙区で前回議席を維持すること自体が簡単なことではない。今回勝負をかけて候補者を増やした台北県第2,桃園県,台中県で議席増に結びつけることができるかどうかが指標となるであろう。台中以南では,苦しみながらも前回議席を守り,若干の上乗せをするであろう。台聯は躍進の可能性があると見られていたが,夏以降の民意調査では浮上の兆候は現れていない。選挙の終盤戦で,台湾の正名,制憲を唱える李登輝の神通力がどの程度影響力を持つのかがカギとなるであろう。
 10月17日時点で筆者が考えている各党の議席獲得見通しは次の表のようなものである。これは,台湾各紙の報道,年代テレビの選挙区別民意調査,過去の選挙データをもとに筆者の主観でまとめたものである。台湾の選挙情勢は1週間で激変するので,この種の予想はあてにならないものであることを強調しておきたい。このデータは11月に更新する予定である。

数字はあくまで可能性を示しているにすぎません。
-議席数の予想範囲現時点で可能性のある議席数前回獲得議席数
民進党 90〜96 94 87
台聯 16〜22 18 13
国民党 61〜68 65 68
親民党 33〜40 34 46
新党 2〜4 4 1
無所属 8〜13 10 10
合計 - 225225

この情勢分析に依拠すると民進党と台聯を合わせて112議席前後で,可半数113議席の確保は微妙な状況にある。無所属で当選が有力視されるのはほとんどが藍系で,緑系では台中市の張温鷹しかいない。選挙の帰趨は最後までもつれ込むのではないだろうか。(2004.10.17記)


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