スィンディー語は、2種類の文字を使って表記されています。パーキスターンでは、アラビア語を表記するアラビア文字に改良を加えた文字を用います。インドでは、そのアラビア文字に加えて、アラビア文字に接する機会が少ないヒンドゥー教徒のことを考慮して、ヒンディー語を表記するデーヴァナーガリー文字も用いられています。このデーヴァナーガリー文字は、インド政府がその使用を推奨していますが、それほど普及しているとは言えません。
本サイトでは、使用者人口が多いアラビア文字を中心に説明をします。また本講座では、スィンディー語を表記するアラビア文字を「スィンディー文字」と呼ぶことにします。アラビア語を表記するアラビア文字が
また、パーキスターンの国語であるウルドゥー語や、ペルシャ語がナスターリークという書体で書かれるのに対して、スィンディー語は、アラビア語と同じナスフという書体で書かれます。
ここでは、
文字 | 文字の名称 | カタカナ | 発音要領 |
ا | alif | 語頭では、別の文字をともなって、「イー ī 」「ウー ū 」「エー e 」「アェー ai 」「アォー au 」という長母音を表します。また、語頭の長母音「アー ā 」は、この文字単独で表記しますが、マッダという省略できない記号を加えます。 |
|
ب | be | ||
ٻ | b̄e | ||
ڀ | bʰe | ||
ت | te | ||
ٿ | tʰe | ||
ٽ | ṭe | ||
ٺ | ṭʰe | ||
ث | s̤e | ||
پ | pe | ||
ج | jīm | ||
ڄ | j̄e | ||
جھ | jʰe | ||
ڃ | ňe | ||
چ | ce | 硬口蓋無声無気破擦音。日本語の「チャ」行から母音を除いた音です。本サイトでは c と表します。 | |
ڇ | cʰe | ||
ح | ḥe | ||
خ | xe | 口蓋垂無声摩擦音。 ḥe よりも奥で出す音です。うがいをするときにでる音が、比較的近い音です。また、インドのスィンディー語話者には kʰ と発音する人がいます。本サイトでは x と表します。 | |
د | dālu | ||
ڌ | dʰe | ||
ڏ | ḍ̄e | ||
ڊ | ḍe | ||
ڍ | ḍʰe | ||
ذ | z̠ālu | ||
ر | re | ||
ڙ | ṛe | ||
ز | ze | ||
س | sīnu | ||
ش | šīnu | ||
ص | ṣwād | ||
ض | ẓwād | ||
ط | t̤oe | ||
ظ | z̤oe | ||
ع | `ain | ||
غ | ǧain | ||
ف | fe | ||
ڦ | pʰe | ||
ق | qāfu | ||
ڪ | kāfu | ||
ک | kʰe | ||
گ | gāfu | ||
ڳ | ḡe | ||
گھ | gʰe | ||
ڱ | ṅe | ||
ل | lāmu | ||
م | mīmu | ||
ن | nū̃ | ||
ڻ | ṇūṇu | ||
و | wāo | ||
ھ | he | ||
؟ | ? | ||
ي | ye |
有気音(帯気音)の発音要領
有気音は、肺からの強い呼気をともなって出される音です。帯気音とも呼ばれます。 ڦ (pʰ) を例に取ると、日本語の「パ」行の音を、口の前に置いたハンカチが、口から出る空気で揺れるように発音するようにします。「パハ」とならないように注意してください。同じ要領で、 k や j 、 t などを発音すると有気音になります。スィンディー語には有気音がたくさんあるので、よく練習してください。
入破音(implosive sounds)の発音要領
入破音は、声門閉鎖音と呼ばれる音の1種です。日本語に用いられるすべての言語音やスィンディー語の多くの言語音は、肺から出る空気が鼻や口を通るときに何らかの邪魔が入ることにより、つくられます。それに対して入破音は、口から入った空気が肺に行かずにそのまま、また口から出るときにつくられます。このように説明すると、非常に難しく感じられると思いますが、次の要領で練習してみてください。
日本語では、驚いたときに「あっ!」という声が思わず出ます。その声が出た瞬間には声門という喉の奥にある部分が一瞬閉じられます。その閉じた状態を維持しながら ب (b) や ج (j) 、 ڊ (ḍ) 、 گ (g) を発音すると、入破音になります。本サイトで扱うスィンディー語中央方言にはここで挙げた4つの入破音があります。
母音の発音要領
スィンディー語には長母音が7つ、短母音が3つあります。また、それぞれの母音に対して、鼻音化された母音があります。
短母音3つは、日本語の「ア (a) 」「イ (i) 」「ウ (u) 」と同じだと考えて差し支えありません。ただ、「ウ (u) 」については日本語の「ウ」よりも唇を丸めるように心がけてください。「エ (e) 」「オ (o) 」については、それぞれ「イ」「ウ」の異音として考えますので、転写記号では短長の区別をしていません。
長母音7つのうち3つは、短母音3つが長く発音されると考えてください。すなわち、日本語の「アー (ā) 」「イー (ī) 」「ウー (ū) 」とほぼ同じ音です。「ウー」については、短母音の「ウ」と同様唇を丸めるようにして発音します。「エー (e) 」「オー (o) 」についても、日本語とほぼ同じです。
残りの2つの長母音は、本サイトではそれぞれ転写記号では ai 、 au と、書かれています。 ai は英語のcatに見られる
鼻音化母音については、それぞれの母音の発音のあとに鼻から抜けるように発音します。たとえば、「ア」に対して「アン ã 」、「エー」に対して「エーン ẽ 」という具合です。
発音上のそのほかの注意
スィンディー語は、原則としてすべての語が母音で終わります。英語やウルドゥー語の単語が子音で終わることが多いのとは異なります。ただ、実際にスィンディー語を耳にすると、語尾の短母音は非常に軽く発音され、聞き取れないこともあるほどです。語末の母音は、スィンディー語では、文法上重要な働きをするので、正確に発音し、聞き取るように心がけてください。
なお、アラビア語、ペルシャ語からの外来語、英語からの外来語については、もとの発音どおりに、子音で終わることがあります。このような語彙も年月が経って、スィンディー語の語彙として認識されるとともに、発音が変化していきます。
スィンディー文字の書き方
様々な記号と母音の表し方
(1)語頭の長母音
語頭の長母音は、次のようにして表します。
長母音「アー (ā) 」 آ :アリフの上に(マッド)という記号をつけて表します。この記号がついたアリフは必ず「アー ā 」という発音になります。語頭にのみ現れる記号です。
長母音「イー (ī) 」・「エー (e) 」・「アェー (ai) 」:語頭に来る場合は アリフ ا に イェー ي をつけて表します。
長母音「ウー (ū) 」・「オー (o) 」・「アォー (au) 」:語頭に来る場合は アリフ ا に ワーオ و をつけて表します。
なお、 アリフ ا の代わりに、 アイン ع が用いられることもあります。
(2)語中、語末の長母音
アリフ ا は、語中や語末に来ると、すべて長母音「アー (ā) 」を表します。
(3)語頭の短母音
スィンディー文字では、語頭の短母音を表す文字はアリフ ا とアイン ع の2つがあります。ただ、文字の性格上、どの短母音になるかは、発音補助記号なしにはわかりません。つづりとともに、正確な発音を覚える必要があります。発音補助記号については、別の項目でまとめて説明してあります。
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