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文字と発音

 スィンディー語は、2種類の文字を使って表記されています。パーキスターンでは、アラビア語を表記するアラビア文字に改良を加えた文字を用います。インドでは、そのアラビア文字に加えて、アラビア文字に接する機会が少ないヒンドゥー教徒のことを考慮して、ヒンディー語を表記するデーヴァナーガリー文字も用いられています。このデーヴァナーガリー文字は、インド政府がその使用を推奨していますが、それほど普及しているとは言えません。
本サイトでは、使用者人口が多いアラビア文字を中心に説明をします。また本講座では、スィンディー語を表記するアラビア文字を「スィンディー文字」と呼ぶことにします。アラビア語を表記するアラビア文字が28文字からなっているのに比べ、スィンディー文字は、その倍近い52文字からなっています。アラビア語にはない、スィンディー語の音を表記するために文字数が増えているためです。
 また、パーキスターンの国語であるウルドゥー語や、ペルシャ語がナスターリークという書体で書かれるのに対して、スィンディー語は、アラビア語と同じナスフという書体で書かれます。
 ここでは、52の文字がそれぞれどのような形をしていて、どのような音を表すのかをみていくことにします。実際に書かれる場合には、文字はつながった形で書かれますが、まず単独で書かれる場合の形(独立形)とその発音要領を挙げます。
 ( )で囲まれたローマ字は、発音の手助けのために本サイトで用いる転写記号です。スィンディー文字では、原則として語中や語尾の短母音を表記できません。ですから、こうした補助記号がないと正確な発音がわからない場合が少なからずあります。本サイトでは、スィンディー文字とともに原則としてこの転写記号を示すことにします。

文字 文字の名称 カタカナ 発音要領
ا alif アリフ 語頭では、短母音「ア(a)」、「イ(i)」、「ウ(u)」のうち、どれか1つを表します。語中や語尾に用いられた場合は、常に「アー ā 」という長母音を表します。
語頭では、別の文字をともなって、「イー ī 」「ウー ū 」「エー e 」「アェー ai 」「アォー au 」という長母音を表します。また、語頭の長母音「アー ā 」は、この文字単独で表記しますが、マッダという省略できない記号を加えます。
ب be ベー 両唇有声無気閉鎖音。日本語の「バ」行から母音を除いた音です。本サイトでは b と表します。
ٻ b̄e ベー 両唇有声入破音。日本語にはない音です。最初は日本語の「バ」行で代用してもかまいません。あとで解説する、「入破音の発音要領」を参照してください。本サイトでは b̄ と表します。
ڀ bʰe ベー 両唇有声有気閉鎖音。日本語では「バ」行に聞こえる、普段区別されていない音です。最初は日本語の「バ」行で代用してもかまいません。あとで解説する「有気音の発音要領」を参照してください。本サイトでは bʰ と表します。
ت te テー 歯無声無気閉鎖音。日本語の「タ」、「テ」、「ト」から母音を除いた音に近い音です。本サイトでは t と表します。
ٿ tʰe テー 歯無声有気閉鎖音。日本語では「タ」行に聞こえる、普段区別されていない音です。最初は「タ」、「テ」、「ト」で代用してもかまいません。あとで解説する「有気音の発音要領」を参照してください。本サイトでは tʰ と表します。
ٽ ṭe テー 反舌無声無気閉鎖音。上歯の後ろ側に広がる硬い部分(硬口蓋といいます)に舌の裏側をつけた状態で、「タ」、「テ」、「ト」を発音します。これも最初は「タ」、「テ」、「ト」で代用してもかまいません。本サイトでは ṭ と表します。
ٺ ṭʰe テー 反舌無声有気閉鎖音。 ṭe と同じ要領で発音する有気音です。あとで解説する「有気音の発音要領」を参照してください。本サイトでは ṭʰ と表します。
ث s̤e セー 歯茎無声摩擦音。日本語の「サ」、「セ」、「ソ」から母音を除いた音と同じ音です。本サイトでは s̤ と表します。
پ pe ペー 両唇無声無気閉鎖音。日本語の「パ」行から母音を除いた音に相当します。本サイトでは p で表します。
ج jīm ジーム 硬口蓋有声無気破擦音。日本語の「ジャ」行から母音を除いた音に相当します。本サイトでは j と表します。
ڄ j̄e ジェー 硬口蓋有声入破音。日本語にはない音です。最初は「ジャ」行で代用してもかまいません。あとで解説する「入破音の発音要領」を参照してください。本サイトでは j̄ と表します。
جھ jʰe ジェー 硬口蓋有声有気破擦音。 jīm と同じ要領で発音する有気音です。最初は「ジャ」行で代用してもかまいません。あとで解説する「有気音の発音要領」を参照してください。本サイトでは jʰ と表します。
ڃ ňe ニェー 硬口蓋有声鼻音。日本語の「ニャ」行から母音を除いた音です。本サイトでは ň と表します。
چ ce チェー 硬口蓋無声無気破擦音。日本語の「チャ」行から母音を除いた音です。本サイトでは c と表します。
ڇ cʰe チェー 硬口蓋無声有気破擦音。 ce と同じ要領で発音する有気音です。あとで解説する「有気音の発音要領」を参照してください。本サイトでは cʰ と表します。
ح ḥe ヘー 咽頭無声摩擦音。日本語の「ハ」、「ヘ」、「ホ」から母音を除いた音です。本サイトでは ḥ と表します。
خ xe ヘー 口蓋垂無声摩擦音。 ḥe よりも奥で出す音です。うがいをするときにでる音が、比較的近い音です。また、インドのスィンディー語話者には kʰ と発音する人がいます。本サイトでは x と表します。
د dālu ダール 歯有声無気閉鎖音。日本語の「ダ」、「デ」、「ド」から母音を除いた音に近い音です。本サイトでは d と表します。
ڌ dʰe デー 歯有声有気閉鎖音。 dālu と同じ要領で発音する有気音です。あとで解説する「有気音の発音要領」を参照してください。本サイトでは dʰ と表します。
ڏ ḍ̄e デー 反舌有声入破音。日本語にはない音です。あとで解説する「入破音の発音要領」を参照してください。本サイトでは ḍ̄ と表します。
ڊ ḍe デー 反舌有声無気閉鎖音。 ṭe と同じ要領で「ダ」、「デ」、「ド」を発音します。本サイトでは ḍ と表します。
ڍ ḍʰe デー 反舌有声有気閉鎖音。 ḍe と同じ要領で発音する有気音です。あとで解説する「有気音の発音要領」を参照してください。
ذ z̠ālu ザール 歯茎有声摩擦音。日本語の「ザ」、「ゼ」、「ゾ」から母音を除いた音です。本サイトでは z̠ と表します。
ر re レー 歯茎有声流音。日本語の「ラ」行に近い音です。本サイトでは r と表します。
ڙ ṛe レー 反舌有声流音。 ṭ や ḍ を発音する要領で、「ラ」行を発音します。本サイトでは ṛ と表します。
ز ze ゼー 歯茎有声摩擦音。 z̠ālu と同じ音を表します。本サイトでは z と表します。
س sīnu スィーン 歯茎無声摩擦音。 s̤e と同じ音です。本サイトでは s と表します。
ش šīnu シーン 硬口蓋無声摩擦音。日本語の「シャ」行と同じ音です。本サイトでは š と表します。
ص ṣwād スワード 歯茎無声摩擦音。 s̤e や sīnu と同じ音です。本サイトでは ṣ と表します。
ض ẓwād ズワード 歯茎有声摩擦音。 ẓālu や ze と同じ音です。本サイトでは ẓ と表します。
ط t̤oe トーエ 歯無声無気閉鎖音。 te と同じ音です。本サイトでは t̤ と表します。
ظ z̤oe ゾーエ 歯茎有声摩擦音。 z̠ālu や ze 、 ẓwād と同じ音です。本サイトでは z̤ と表します。
ع `ain アイン スィンディー語では、 alif と同様に、さまざまな母音を表します。単語ごとに発音は異なるので、それぞれ覚える必要があります。
غ ǧain ガイン 口蓋垂有声摩擦音。 xe と同じ場所から出す有声音です。日本語にはない音です。最初は「ガ」行で代用してもかまいません。本サイトでは ǧ と表します。
ف fe フェー 唇歯無声摩擦音。英語の単語fineの語頭に来る音と同じです。本サイトでは f と表します。
ڦ pʰe ぺー 両唇有声無気閉鎖音。 pe と同じ要領で発音する有気音です。あとで解説する「有気音の発音要領」を参照してください。本サイトでは pʰ と表します。
ق qāfu カーフ 軟口蓋無声無気閉鎖音。日本語の「カ」行から母音を除いた音です。次の kāfu と同じ音を表しますが、文字上の差を示すため、本サイトでは q と表します。
ڪ kāfu カーフ 軟口蓋無声無気閉鎖音。 qāfu と同じ音です。本サイトでは k と表します。
ک kʰe ケー 軟口蓋無声有気閉鎖音。 qāfu や kāfu と同じ調音点で発音する有気音です。最初は「カ」行で代用してもかまいません。あとで解説する「有気音の発音要領」を参照してください。本サイトでは kʰ と表します。
گ gāfu ガーフ 軟口蓋有声無気閉鎖音。日本語の「ガ」行から母音を除いた音です。本サイトでは g と表します。
ڳ ḡe ゲー 軟口蓋有声入破音。日本語にはない音です。最初は「ガ」行で代用してもかまいません。あとで解説する「入破音の発音要領」を参照してください。本サイトでは ḡ と表します。
گھ gʰe ゲー 軟口蓋有声有気閉鎖音。 gāfu と同じ要領で発音する有声音です。最初は「ガ」行で代用してもかまいません。あとで解説する「有気音の発音要領」を参照してください。本サイトでは gʰ と表します。
ڱ ṅe ゲー 軟口蓋有声鼻音。日本語の「カンガエル(考える)」や「サンガイ(三階)」に現れる「ガ」から母音を除いた音です。本サイトでは ṅ と表します。
ل lāmu ラーム 歯茎有声側音。本サイトでは l と表します。
م mīmu ミーム 両唇有声鼻音。日本語の「マ」行から母音を除いた音です。本サイトでは m と表します。
ن nū̃ ヌーン 歯有声鼻音。日本語の「ナ」行から母音を除いた音です。本サイトでは n と表します。
ڻ ṇūṇu ヌーン 反舌有声鼻音。 ṛ の鼻音化した音です。日本語にはない音です。最初は「ナ」行で代用してもかまいません。本サイトでは ṇ と表します。
و wāo ワーオ 母音、半母音、唇歯有声摩擦音。本サイトではwまたはvと表します。また、語中や語尾で母音を表す場合、 ū 、 o 、 au と転写します。語頭では alif とともに現れて、「ウー ū 」「オー o 」「アォー au 」を表します。
ھ he ヘー 咽頭無声摩擦音。 ḥe と同じ音です。本サイトでは h と表します。
؟ ? ハムゾー 特定の音を表す文字ではありません。この文字の働きは大きく分けて2つあります。まず、連続する2つの母音を示す記号としての働きがあります。2つめとして、語末に母音連続が現れた場合、あとの母音が短母音であれば、この記号を用います。具体的には、 ءَ -a や、 ءِ -i 、 ءُ -u と表記、発音されます。一人称単数人称代名詞主格「私」についても、この文字を用いて、 آءُ‍ٗ āū̃ と表記、発音します。
ي ye イェー 母音、半母音。本サイトでは半母音を表す場合には、 y と表します。また、語中、語尾で母音を表す場合、 ī 、 e 、 ai と転写します。語頭では、 alif とともに現れて、「イー ī 」「エー e 」「アェー ai 」を表します。

有気音(帯気音)の発音要領
 有気音は、肺からの強い呼気をともなって出される音です。帯気音とも呼ばれます。 ڦ (pʰ) を例に取ると、日本語の「パ」行の音を、口の前に置いたハンカチが、口から出る空気で揺れるように発音するようにします。「パハ」とならないように注意してください。同じ要領で、 k や j 、 t などを発音すると有気音になります。スィンディー語には有気音がたくさんあるので、よく練習してください。  

 

入破音(implosive sounds)の発音要領
 入破音は、声門閉鎖音と呼ばれる音の1種です。日本語に用いられるすべての言語音やスィンディー語の多くの言語音は、肺から出る空気が鼻や口を通るときに何らかの邪魔が入ることにより、つくられます。それに対して入破音は、口から入った空気が肺に行かずにそのまま、また口から出るときにつくられます。このように説明すると、非常に難しく感じられると思いますが、次の要領で練習してみてください。
 日本語では、驚いたときに「あっ!」という声が思わず出ます。その声が出た瞬間には声門という喉の奥にある部分が一瞬閉じられます。その閉じた状態を維持しながら ب (b) や ج (j) 、 ڊ (ḍ) 、 گ (g) を発音すると、入破音になります。本サイトで扱うスィンディー語中央方言にはここで挙げた4つの入破音があります。  

 

母音の発音要領
 スィンディー語には長母音が7つ、短母音が3つあります。また、それぞれの母音に対して、鼻音化された母音があります。
 短母音3つは、日本語の「ア (a) 」「イ (i) 」「ウ (u) 」と同じだと考えて差し支えありません。ただ、「ウ (u) 」については日本語の「ウ」よりも唇を丸めるように心がけてください。「エ (e) 」「オ (o) 」については、それぞれ「イ」「ウ」の異音として考えますので、転写記号では短長の区別をしていません。
 長母音7つのうち3つは、短母音3つが長く発音されると考えてください。すなわち、日本語の「アー (ā) 」「イー (ī) 」「ウー (ū) 」とほぼ同じ音です。「ウー」については、短母音の「ウ」と同様唇を丸めるようにして発音します。「エー (e) 」「オー (o) 」についても、日本語とほぼ同じです。
 残りの2つの長母音は、本サイトではそれぞれ転写記号では ai 、 au と、書かれています。 ai は英語のcatに見られる/a/の発音が、 au は、英語のcoat/oa/の発音が相当します。 ai は「エ」の口の形で「ア」を発音し、 au は「ア」の口の形で「オ」を発音すると、近くなります。
 鼻音化母音については、それぞれの母音の発音のあとに鼻から抜けるように発音します。たとえば、「ア」に対して「アン ã 」、「エー」に対して「エーン ẽ 」という具合です。  

発音上のそのほかの注意
 スィンディー語は、原則としてすべての語が母音で終わります。英語やウルドゥー語の単語が子音で終わることが多いのとは異なります。ただ、実際にスィンディー語を耳にすると、語尾の短母音は非常に軽く発音され、聞き取れないこともあるほどです。語末の母音は、スィンディー語では、文法上重要な働きをするので、正確に発音し、聞き取るように心がけてください。
 なお、アラビア語、ペルシャ語からの外来語、英語からの外来語については、もとの発音どおりに、子音で終わることがあります。このような語彙も年月が経って、スィンディー語の語彙として認識されるとともに、発音が変化していきます。

スィンディー文字の書き方
様々な記号と母音の表し方
(1)語頭の長母音
 語頭の長母音は、次のようにして表します。
      長母音「アー (ā) 」  آ :アリフの上に(マッド)という記号をつけて表します。この記号がついたアリフは必ず「アー ā 」という発音になります。語頭にのみ現れる記号です。
      長母音「イー (ī) 」・「エー (e) 」・「アェー (ai) 」:語頭に来る場合は アリフ  ا に イェー  ي をつけて表します。
      長母音「ウー (ū) 」・「オー (o) 」・「アォー (au) 」:語頭に来る場合は アリフ  ا に ワーオ  و をつけて表します。
      なお、 アリフ  ا の代わりに、 アイン  ع が用いられることもあります。

(2)語中、語末の長母音
アリフ  ا は、語中や語末に来ると、すべて長母音「アー (ā) 」を表します。

(3)語頭の短母音
スィンディー文字では、語頭の短母音を表す文字はアリフ  ا とアイン  ع の2つがあります。ただ、文字の性格上、どの短母音になるかは、発音補助記号なしにはわかりません。つづりとともに、正確な発音を覚える必要があります。発音補助記号については、別の項目でまとめて説明してあります。

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