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授業で次の和文西訳をやってみました: 「昨夜テレビを見ていたら、突然彼から電話があってね」(日本スペイン協会『西検問題集VII』p.21)。
まず、前半は軽く anoche, cuando estaba viendo la televisión ぐらいにしておきましょう。 「彼から電話があった」にはいくつかの可能性が考えられますが、 西作文のテクニックのひとつとして覚えておいて損のない、 「彼」を主語にした形で作ってみます。 そうすると él me llamó por teléfono みたいになるでしょうか。 これをつなぎ合わせると Él me llamó por teléfono anoche cuando estaba viendo la televisión となり、めでたく出来上がりです。 はい、じゃ次。
と、ここで質問の手が上がりました:「先生、『突然』は?」 あっ、そうか、どっかに「突然」を入れなきゃ。 たとえば de repente を・・・、 と思ったのですが、どうもしっくり来ないので、 その場では、とりあえずそのままにしておいて、 授業の後、スペイン人 (2人) に聞いてみました。 すると、彼らからは *de repente él me llamó は「ダメ」という反応が返ってきたのです。 もし de repente を入れるのなら、
みたいになるだろうということでした。 面白いのは、同じ llamar でも、 3人称複数にして
なら悪くないという話。 これらの、de repente と一緒に使える3つの表現にある共通点は、 「彼」がいないということです。 つまり、電話があったという、「私」がその場で経験したことだけを語っているという点です。 それに対して él me llamó por teléfono は、 あくまで「彼」の行為ですから、どこか見えないところから彼が電話をかける様子は、 私には当然見えていないわけです。 ですから de repente の特徴は「直接経験性」 というふうに捉えることができます。 もし、私と彼が一緒にテレビを見ていて、 突然彼が携帯電話を取り出し、私の携帯に電話をかけてきたのなら、もしかしたら de repente me llamó も OK なのかもしれません (未確認)。
さて、ここまでの話で de repente の使い方に 「直接経験性」という興味深い特徴があることが分かりました。 もう一つ確認しておきたいことは、 él me llamó por teléfono は 「彼から電話があった」の訳として使うことは出来るけれど、 あくまで él という主語の行為を述べた表現だということです。 その点で、日本語原文とスペイン語訳の間には微妙な差が存在するわけです。 おそらく、日本語の「突然」も de repente と似たような特徴を持っています。 「彼から電話があった」というのは直接経験できることですが、 それをスペイン語にするときに別の表現に変えてしまったため、 この問題が起きたと考えることができます。
なお、和文西訳の例を借りた『西検問題集』の解答例は de repente él me llamó por teléfono となっています。 ネイティブによってはこれで大丈夫な人がいるのかも知れません。
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2002/11/04
KAWAKAMI Shigenobu