朝鮮語のるつぼ
辞書にない朝鮮語
あんな言葉、こんな言葉

ハングルは画像貼り付けなので、読み込みに時間のかかることがあります。本文の朝鮮語はYale方式のローマ字で表記してあります。

 
  辞書にない朝鮮語  
 
韓国で生活していると、いくら辞書で探しても出てこない単語がままある。多くの場合は流行語だけれど、日常的によく聞く流行語でない表現が意外と辞書に出ていなかったりすることがある。私が韓国で生活していて出くわしたそんな単語をここで紹介しよう。
ホッパン  ho-ppang ホッパン
 「kwu-meng-ka-key クモンガゲ」とも呼ばれるスーパーの店先に冬になるとお目見えするのが、日本でもお馴染みの「ホッパン」、いわゆる中華まんだ。ふつうtan-phath タンパッ(小豆)と ya-chay ヤチェ(野菜)の2種類が売られている。ホッパンの「ホ」が何なのかは、よく分からない。韓国人に聞くと、「熱くてホーホーとするからホッパンだ」なんて言うけど、どうも嘘くさい。最近は kim-chi-ho-ppang キチホッパン(キムチまん)や phi-ca-ho-ppang ピジャホッパン(ピザまん)などもあるようだが、種類は日本に比べてまだまだ少ないようだ。

ケランパン  kyey-lan-ppang ケランパン
 大判焼きが韓国に入って o-pang-ttek オバントと呼ばれているが、IMF以降砂糖と小豆の値段が上がって、大判焼きの代用として作られたという。小豆の代わりに中に卵が入っている。ケランとは朝鮮語で「鶏卵」のこと。代用品とはいえ、今や大判焼きをはるかに上回る人気だ。

マシ カダ  mas-i ka-ta マシ カダ
 主格語尾の -i を省略して mas-ka-ta マッカダとも言う。直訳をすれば「味が行く」ということだが、もとは食品の鮮度が落ちて悪くなることを指したらしい。若者の間では機械や人が「いかれる」ことを表わす。「ma-wu-su-ka mas-i kass-e. マウスガ マシ カッソ(マウスがいかれたよ)」、「ce nom-un mas-kan um-ak-man tut-ko iss-e. チョ ノムン マッカン ウマンマン トゥッコ イッソ(あいつはいかれた音楽ばかり聞いている)」のように使う。日本語の「いかれた」同様に過去形で使うようだ。「行く」という動詞を用いた点でも日本語の「いかれる」と似ていて面白い。

サルサルマッタ  ssal-ssal-mac-ta サマッタ
 性格や態度が冷ややかでよそよそしいことを「ssal-ssal-mac-ta サマッタ」という。辞書を開くと「ssal-ssal-ha-ta ササラダ」が載っているが、こちらのほうは実際にはあまり使われないようだ。連体形のときは「ssal-ssal-mac-un seng-kyek サマジュン ソーンキョク(冷ややかな性格)」のように過去形で用いられる。

ボル  po-lwu ボル
 kol-cho コチョ(ヘビースモーカー)の人なら必ずやこの言葉を言ったことがあるだろう。タバコをまとめ買いするときに店の人に「han po-lwu cwu-sey-yo ハンボル チュセヨ」と言えば、1カートンくれる。つまり「po-lwu ボル」はカートンのことだ。しかし、この語源は何だろう?一説によれば日本語の「ボール箱」だというが、真相は定かでない。私も一箱200ウォンの sol ソをよくボルで買ったものだ。やっぱタバコは sol がいちばん。

ポボッコリダ  pe-pek-ke-li-ta ポボッコリダ
 ふいに何か言葉をふられて応答にこまり、モゴモゴと口ごもりながらしゃべった記憶は誰でもあるだろう。そんな様子を朝鮮語では「pe-pek-ke-li-da ポボッコリダ」という。この単語、おそらくはもとは流行語だったのが、若い人を中心に広がったらしく、今ではふつうに聞くことができる。ただ、40代以上の人には通じにくい単語だ。

メーロン  mey-long メーロン
 「クレヨンしんちゃん」の朝鮮語バージョン「ccang-kwu-nun mot mal-lye チャングヌン モーンマリョ」を読んでいると、時折しんちゃんが「メーロン」と叫んでいる。これは「あかんべ」に当たる朝鮮語。「あかんべ」はふつう「あっかんべー」と発音するが、mey-long は mey を思いきり長く「メ――ロン」と発音する。これが結構しゃくに障る。

カルチャン  kkal-chang カチャン
 街の路頭にある靴修理の露店をのぞくと、さまざまな靴の修理器具などとともに、靴の中敷が売られている。これを「kkal-chang カチャン」と呼ぶ。「chang チャン」とはもともと靴底を指す語だが、その前に「敷く」という意味の動詞「kkal-ta カダ」の連体形がくっついてできた語が「kkal-chang」である。日本語に直訳すると、さしずめ「敷き底」とでもいおうか。確かに靴の中に敷くのだから「敷き底」というネーミングは的を射ている。この単語、日本にある辞典には載っていないが、韓国の国語辞典である『国語大辞典』には載っている。

イテリタオル  i-thay-li-tha-ol イテリタオ
 そのまま訳せば「イタリアタオル」だが、だからといってイタリア製のタオルという意味ではない。今や日本でもはやりの韓国式エステ「垢すり」に使うタオルを「i-thay-li-tha-ol イテリタオ」という。垢すりは「ttay-mil-i テミリ(直訳すれば「垢押し」)」というが、この語を使って「ttay-mil-i-tha-ol テミリタオ」ともいう。日本語では「垢」は「する」ものだが、朝鮮語では「押す」ものだという違いが面白い。ところで、日本に住んでいる人々は毎日毎日風呂に入って体をゴシゴシ洗っているので、垢すりをしてもあまり垢が出ない。韓国では多くの場合、日々の生活はシャワーで済まし、風呂は週に1度くらいしか入らないので、垢すりをすると見事なまでに垢が出る。韓国式垢すりの醍醐味を味わいたければ、1週間は風呂に入らずにこらえよう。黒々とした垢がボロボロと落ちる感動と快感を味わうことこそ、韓国式垢すりの真骨頂である。

チャモン  ca-mong チャモン
 韓国の果物屋に入ったとき、あるいは喫茶店でジュースを頼むとき、「ca-mong チャモン」とあって慌てて辞書を広げた人はいないだろうか。「グレープフルーツ」を表すこの単語が日本の朝鮮語―日本語辞典に載っていないのが不思議である。韓国の『国語大辞典』には俗語として、わずか1行「グレープフルーツ」と書かれているだけだ。『国語大辞典』によると、語源は日本語の「ザボン」もしくはポルトガル語の「zamboa」であると書かれている。

プリム  phu-lim プリ
 商標名がそのまま一般名詞として使われる例は多々ある。身近なものでいえばティッシュを「スコッティ」と言ったり、コーヒークリームを「クリープ」と言ったりするのがそれだ。このような現象は韓国にももちろんある。コーヒーに入れる粉末クリームがたまたま「phu-lim プリ」という製品がよく用いられたため、そのまま一般名詞として使うようになったのである。今では粉末クリームだけでなく、液体のコーヒーミルクもすべて「phu-lim」と呼んでいる。喫茶店でコーヒーミルクがほしいときは「phu-lim cwu-sey-yo プリ チュセヨ」と言おう。

ヤギ トロジダ  yak-i ttel-e-ci-ta ヤギ トロジダ
 「ttel-e-ci-ta トロジダ」はここでは「落ちる」の意ではなく、「(蓄えられていたものが)なくなる」という意味である。だから、「yak-i ttel-e-ci-ta ヤギ トロジダ」は文字どおりには「薬が底をつく」ということになる。しかし、朝鮮語の「yak ヤ」は実にさまざまな薬を表すことがあり、はなはだしくは「薬」でないものでさえも「yak」と言ってのける。例えば、懐中電灯がつかなくなったときに「yak-i ttel-e-cyess-na pwa ヤギ トロジョンナブァ(電池がなくなったみたい)」というように、乾電池を「yak」ということがある。

パランブル  pha-lan pwul-i tul-ess-ta パランブリ トゥロッタ
 直訳すれば「青い火が入った」ということだが、これで「青信号になった」という意味になるから驚き。「赤信号」はもちろん「ppal-kan pwul パガンブ」という。信号灯のみならず、電灯一般を朝鮮語では「pwul プ」と呼ぶのがふつうだ。ちなみに「電灯が切れる」は「pwul-i na-ka-da プリ ナガダ」という。「火が出て行く」というわけだ。このあたりの表現は日本語と全然違うので面白い。ところで、韓国の歩行者用信号で、赤信号の絵の人が仁王立ちになっているのを、おちゃめだと思ったのは私だけであろうか。

マッタン  mas-thang マッタン
 いわゆる「大学いも」のこと。しかしながら、この単語はどうも分からないことだらけである。まずもって、つづりがはっきりしない。「mas-thang」なのか「ma-thang」なのか分からない。いずれにせよ発音自体は大差なく、韓国人に尋ねてもどちらなのか分からないというから、私などはお手上げである。おまけに、語源も定かでない。「thang」は漢字語「糖」であることはほぼ間違いないが、「mas」は微妙だ。字面そのままの意味は「味」で、「mas-thang」は「味糖」ということになるが、いまひとつしっくりこない。「mas」を「ma」にサイシオッがついたものと考えると、「ma」とは山芋なので「山芋糖」になってしまう。しかし「ma」は「ko-kwu-ma コグマ(さつまいも)」の略ではないかとも言われ、そうすれば「mas-thang」は「さつまいも糖」ということになる。意味的にはぴったりだが、解釈に無理がなくもない。いずれにせよ不思議な単語である。

ピーグ  phi-kwu ピーグ
 球技にはいろいろ種類があるが、朝鮮語では漢字語を用いることが多い。例えばサッカーは「chwuk-kwu チュック<蹴球>」、バレーボールは「pay-kwu ペグ<排球>」、バスケットボールは「nong-kwu ノング、北:long-kwu ロング<篭球>」のように、日本では使われなくなって久しい漢字語が韓国では今でも用いられる。「phi-kwu ピーグ」も漢字語だが、日本では使わない単語で「避球」と書く。「避ける球」で「ドッジボール」を指すのだが、球を避けてばかりいては勝てないだろうに。日本の辞書にはないが、韓国の辞書には載っている。



 
  こんな言葉、あんな言葉  
 
私が韓国滞在中に出会った言葉をいろいろ拾い集めてみた。日本で勉強しているとなかなか使う機会のない言葉や「ああ、こんな言い方をするんだな」と感じいった言葉など、朝鮮語のさまざまな「断片」集。
ウェグレ  ウェーグレ
 ku-lay の原形は形容詞「ku-leh-ta クロッタ(そうだ)」ではなく動詞「ku-le-ta クロダ(そうする)」。つまり、「way ku-lay」は直訳すると「なぜそうするのか」となる。何とも味気ない言葉だが、実際の語感からすると「なんでそんなことするの?」という感じか。やや非難調の問いかけで、話し言葉では非常によく耳にする。例はヘ体だが、後ろに「-yo ヨ」をつければもちろんヘヨ体になり、「-sey-yo セヨ」を用いて「way ku-le-sey-yo ウェーグロセヨ」とすれば尊敬形となって目上にも使える。
 話し言葉では「ku-le-ta クロダ」という動詞が意外と頻繁に用いられる。II-l-kka hay-yo (…しようかと思います)の代わりに II-l-kka ku-lay-yo といったり、I-ci (…したら?)に ku-le-ta をつけて I-ci ku-lay といったりする。ku-le-ta は知っていて損のない1語だ。

クロックナ  クロックナ
 直訳をすれば「そうだなあ」であるが、これは相づちの「なるほど」という意味。「ku-leh-kwun-yo クロックニョ」とすればヘヨ体になる。「なるほど」って何ていうんだろうという疑問も、これで一挙的に解決である。在日朝鮮人の間では、以前「成程」をそのまま朝鮮語読みした「seng-ceng ソンジョン」という言葉があったらしいが、私はいまだかつてこの語を耳にしたことがない。
 「なるほど」に当たる語は「kwa-yen<果然> クァヨン」もあるが、こちらは「彼は芸が細かいと聞いていたが、なるほど確かに」というようなときに用いられ、「なるほど果たして」という意味である。

ハルチ  ハルチ
 「-chi チ」は期間を表す名詞について「…分」を表す接尾辞で、「ha-lwu-chi」は「1日分」という意味になる。日本で朝鮮語の勉強をしていたときには、ほとんど使ったことがなかったが、留学1ヶ月めにして風邪をひいてしまい、薬屋で風邪薬を買うときに店の人に「ha-lwu-chi? i-thul-chi? ハルチ? イトゥチ?(1日分?2日分?)」と聞かれて、ああそういえばこんな言葉があったっけと感じ入った、記憶に残る一語。なお、紛らわしいものとして、値段を表す語について「…分」というときは、「-e-chi オチ」という別の接尾辞を用いる。「1000ウォン分」は「1000-wen-e-chi チョヌォノチ」となる。屋台でトポッキをたのむとき、「ttek-pokk-ki 1000-wen-e-chi cwu-sey-yo トポッキ チョヌォノチ チュセヨ(トポッキ1000ウォン分ください)」というフレーズをよく使ったっけ。

ピョル サーラム ター インネ  ピョ サーラ ター インネ
 pyel は漢字語「別」で「変わった」という意味。従って直訳すると「変わった人がみないるねえ」となるのだが、「pyel … ta … ピョ … ター …」というフレーズは「何ともまあ…」といった驚きや呆れの意味で用いられる。よって、この文も「まあ、何とも変わった人がいるもんだねえ」という意味である。他には例えば、 のように使う。日本語の直訳がきかない言い回しで、私などは「いかにも朝鮮語的」と好んで使う表現である。こういう言い回しがスラリと口から出てくると、朝鮮語の勉強もますます楽しくなってくる。

サモクタ  サモンヌンダ, ヘモンヌンダ
 これを初めて聞いたときは何を言っているのか分からなかった。「sa mek-nun-ta」は直訳すれば「買って食べる」だから何となく分かるような気がするが、「hay mek-nun-ta」は直訳すると「して食べる」だから、何のことかてんで分からない。これらは要するに「外で食たべる」「家で作って食べる」という意味で、結局「外食する」「自炊する」という意味なのである。そりゃ確かに「買って食べ」れば外食になるし、「やって(作って)食べ」れば自炊になるだろうが、日本語と全然言い方が違うので度肝を抜いた。
 そういえば、朝鮮語では「…して食べる」というときは「第III語基⌒mek-ta」という。調理方法によって「salm-a mek-ta サマモタ(煮て食べる)、kwu-we mek-ta クウォモタ(焼いて食べる)、pi-pye mek-ta ピビョモタ(かき混ぜて食べる)」などがあるし、それ以外にも「et-e mek-ta オドモタ(おごってもらう;直訳は「得て食べる」)、pil-e mek-ta ピロモタ(物乞いする;直訳は「乞うて食べる」)」なんていうのもある。

チャドンイチェ  チャドンイチェ
 現代は現金を持ち歩かない時代だが、だからこそこの単語をしらないと生活上不便が起きるに違いない。銀行口座の自動振り替えを意味するこの「ca-tong-i-chey」は漢字で書くと「自動移替」である。「移替」は「移し替え」という日本語の漢字を朝鮮語読みしたものだ。銀行の業務で「移し替え」という語を日本語で使わないため、「i-chey」という単語の漢字が何であるのか、しばらく分からずにいたが、「移替」だと分かってからは、なるほどと思って使っている。
 この類の単語は日本語と朝鮮語とで、かなり違うのに気づかされる。例えば「口座」は「kye-cwa<計座> ケージュァ」というし、電話料などの「通知書」は「ko-ci-se<告知書> コージソ」といい、契約の「解約」は「hay-ci<解止> ヘージ」という。韓国に滞在する人ならば知っておいたほうがいい単語である。

チングハンテ  チングハンテ チョーヌァガ ワッタ
 そのまま考えれば「友だちに電話が来た」という、何の変哲もない文だが、こう言った場合、ふつうは「友だちに」ではなく「友だちから」という意味である。「-han-they ハンテ」はふつう「(人)に」という意味で、「(人)から」というときは「-han-they-se ハンテソ」を使うのだが、「(人)から電話/連絡/手紙が来る」というときに限って「-han-they」が使われる。もちろん「-han-they-se」を使っても間違いではないが、実際の会話では「-han-they」を使う場合が圧倒的に多い。
 では、「友だちに電話が来た」と言いたい場合はどうするのか、という疑問が湧かないわけがないのだが、この場合も全く同じく「-han-they」を使うのである。つまり、「友だちから電話が来た」と「友だちに電話が来た」は全く同じ言い方をし、文脈で判断するわけである。もっとも、その場にいる人の顔ぶれを見れば「友だちから」なのか「友だちに」なのか一目瞭然ではあるが、それにしても全く逆の事がらを同じ方法で表現するというのは、何とも不可思議である。


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