2021年度卒業論文・卒業研究の要旨

魚躬彩希 現地記事 KOMPAS からみるインドネシアの首都移転

種別:卒業研究

本稿では、インドネシアを代表する日刊紙KOMPASに掲載された2019年8月から2021年11月までの記事21本をとりあげ、4つのテーマに分類した。そのうえで、時系列に並べ、インドネシアの中で巻き起こっている首都移転に対する賛否両論を概観できるようにした。

最初のテーマは、「インドネシアの首都移転の概要」である。このテーマでは、首都移転の理由、新しい首都が目指す姿や行政体制、新型コロナウイルス禍における首都移転計画の進捗状況などについてまとめている。2つ目のテーマは、「社会の反応」である。インドネシアの民間調査機関が行ったアンケートをもとに、インドネシアの地域ごとに首都移転に対する反応が異なるといったインドネシア社会の反応を伝えている。3つ目のテーマは「首都移転における課題」であり、その中で資金調達・環境・インフラ整備という3つの課題を取り上げている。資金調達では、国家予算には大きく頼らずに官民連携事業や民間セクターから首都移転費用の調達を行うとされているが、先行きが不透明な現状であると伝えている。環境面では、首都移転先である東カリマンタンの豊かな自然環境を維持し、首都の開発を行うべきだとまとめている。一方、インフラ整備では、新しい首都の開発においてインフラ整備が最も重要だと伝えているが、拙速な計画作成では余剰なインフラを生んでしまうと警鐘を鳴らしている。最後のテーマは、「今後のジャカルタはどうなるか」である。首都移転後には「行政」の役割を失うジャカルタであるが、首都移転後も経済の中心として発展し続けていくだろうという見方を伝えている。

齋藤晃平 インドネシアにおける公的医療保険制度JKNについて

種別:卒業論文

2014年1月より、インドネシアにおいて、公的医療保険制度である国民健康保険制度(JKN : Jaminan Kesehatan Nasional)が開始された。それまでは全国民を対象とする公的医療保険制度は存在せず、異なる保険制度が異なる階層の対象者を保障する構造であった。従来の制度の中では、多数の無保険者が存在し、貧困層は一度重度の疾患を患うと、治療費が払えないために、医療サービスの享受が困難であるという状況が存在していた。新制度のJKNにおいては、理論上、不平等性は緩和され、全国民が公平で平等な医療サービスを享受することが可能になる。しかし、制度の成立過程でJKNは様々な問題に直面している。その課題に対する取り組みや制度の展望を分析することを本稿の作成の目的とする。

新制度は「財源の問題」、「地方間医療格差の問題」、「インドネシア人の健康問題」に直面している。公的医療保険制度は一種のエコシステムであり、持続可能な公的医療保険制度の運営とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC : Universal Health Coverage)の達成のためには制度に関わる全ての関係者による相互の歩み寄りと努力が必要である。

坂東ちなつ インドネシアのポピュラー音楽にみられる同時代的ハイブリッド性について

種別:卒業論文

本稿では、従来個々に論じられてきたポピュラー音楽をジャンル・地域横断的に比較研究し、どのジャンル・地域・時代においても異文化間での交配(ハイブリッド化)が続いてきており、その行為がインドネシアの文化を都度活性化してきた事実について論じた。

比較対象として、まず国民的なポピュラー音楽であるクロンチョン、ダンドゥットのほか、地方音楽でも市場規模の大きいミナンカバウ、バタック、スンダ、ジャワのポピュラー音楽も取り上げた。

比較分析すると、インドネシアの人々はグローバル化の影響で急速に流入した西洋のポピュラー音楽を柔軟に取り込み、伝統的な音楽とも西洋の音楽ともどちらともいえないハイブリッドかつ同時代的な音楽文化をその都度形成した事実が見えてくる。こうした行為は、伝統的な文化を単なるノスタルジーとして維持するだけではない、変化の激しい現代社会において、文化の維持・創造を喚起する重要な行為である。