2020年度卒業論文・卒業研究の要旨

池内亜美 介護分野における技術移転の実現と今後の展望:介護福祉士資格合格者の活躍フィールドから考える

種別:卒業論文

本稿は、日本における外国人労働者の受け入れについて、その運用方法が幾度となく問題視されてきた原因やこれまで行われてきた改善案を研究し、今後の受入国・送出国の発展に必要な策を考えることを目的としている。本稿では、特に元介護福祉士候補生/実習生の帰国後の活躍フィールドに着目しながら、「日本からインドネシアへの技術移転は実現されているのか」また「双方の発展を前提とした外国人受け入れ制度とはどのようなものか」を考察した。

第4章までで、日本の受け入れ制度や受け入れ状況、インドネシアの介護におけるイメージや送り出し状況をまとめている。受入国の日本は、外国人人材の受け入れルートが多様化する一方で、その人数は伸びていないことや、送出国のインドネシアは、伝統的に介護は親族内で行うものであるというイメージが高齢者福祉施設や介護福祉士という職業への印象が高くない要因の一つであることなどが分かった。第5章で、研修/就労内容や、新型コロナウイルスによる影響・日本政府の対応について触れ、新しい政策が介護分野に与えている影響を考察している。第6章で、元介護福祉士候補生/実習生の帰国後の活躍フィールドに着目する。帰国生の活躍フィールドから、日本での学びや経験が帰国後にどのような影響をもたらしているか、現状「介護人材不足」という両国の問題にどれだけ貢献しているのか考察する。

最後に、世界的に外国人介護人材の確保をめぐる争いはより一層激しくなると予想される中で、日本が外国人人材から選ばれる「受け入れ先進国」となり、そうあり続けるために必要な工夫や制度について提言し、結論とする。

大崎勇直 愛国心とは何か:盲目的愛国と批判的愛国〜日本の愛国思想の未来〜

種別:卒業論文

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奥野叡 インドネシア通勤電鉄における快速運転にまつわる現状と展望

種別:卒業論文

しばらくお待ちください。

栗坂舞 インドネシアにおけるプラスチックごみ汚染の現状と対策

種別:卒業論文

本論文では、現在世界各地で急速に対策が進んでいるプラスチックごみ問題について、様々な地域での取り組みや廃棄物管理を参考にしつつ、インドネシアでのプラスチックごみ対策や廃棄物マネジメントが今後どうあるべきなのかについて論じていく。先進諸国で進んでいるプラスチックごみ対策や廃棄物処理システムを、インドネシアのような途上国でどう活用し、現地に合わせた手法をとるかについて考察した。

本論文の構成は以下の通りである。まず初めにプラスチック製品が現在までどのように使われ、なぜ問題視されるようになったのかという歴史や現在のプラスチックごみ汚染の概要について説明する。その次にインドネシアやその他の東南アジア諸国の現状を分析する。そして、次の4章ではプラスチックごみ問題を解決するための理論的な枠組みやアプローチ方法について紹介する。5章では、4章で紹介した理論などを参考に、欧州と日本を中心に現在の取り組みや各国の廃棄物管理・プラスチックごみ対策について解説する。最後に、以上を参考にインドネシアではどのような取り組みが今後必要なのかを検討しまとめている。

田口ひかり ゴジェックがインドネシアに与えた影響

種別:卒業論文

本論文では、インドネシアのゴジェック社が多くのサービスを展開していく中で、同国に与えた影響が何であったのかについて分析した。

第1章では、ゴジェック社の概要について述べ、分析の導入とした。第2章から第5章では、ゴーライド(goride)、ゴーカー(gocar)、ゴーフード(gofood)、ゴーマート(gomart)、荷物配達サービス、ゴーペイ(gopay)などのサービスに焦点を当てた分析を通じて、ゴジェック社のサービスはこれまでのインドネシア人の習慣を変え、多方面からインドネシア人の生活の改善に貢献してきたことを明らかにした。一方で、課題を生み出したことも分かった。ゴーカーは、既存の類似産業との対立を生み出し、結果的に両者が共存していくための法規制が生まれるに至った。ゴーライドは、デモを通じて、ドライバーの労働環境保護の必要性が叫ばれるに至り、未だにゴーライドのドライバーに与えられた法的保護は限定的である。今後、ゴジェック社による労働環境の見直しや、政府による事業への規制、監視が求められることを自身の考えとして挙げ、結びとした。

田中希沙 クバヤ:インドネシアのナショナル・コスチュームの誕生

種別:卒業論文

本稿では、インドネシアで着用されている長袖の女性用ブラウスであるクバヤ(kebaya)が、なぜ、どのような過程を経てナショナル・コスチュームとなったのかを論じた。そして、クバヤを例にして、ナショナル・コスチュームとはどういったものなのかを再考した。

第1章では民族衣装への基本的な理解を深め、第2章以降ではクバヤがどのような歴史的変遷を経て、インドネシアのナショナル・コスチュームとなっていったのかを時系列に沿って論じた。クバヤの長い歴史を振り返ると、広い地域、そしてさまざまな人種や民族によって着用されてきたことがよくわかった。オランダからの独立後は国家建設の象徴となり、国民統合のための道具として、また世界各国に独立を華やかにアピールする道具として利用されてきた。スハルト時代にはさまざまなものが制度的に定められていき、「創られた伝統」としての存在感が強まったが、民主化後には若いデザイナーたちによって自由で斬新なクバヤが生み出されるようになり、多くの女性たちから支持されるようになった。

歴史を振り返ると実に「多様性」そのものであるクバヤは、75回目の独立記念日を迎えた現在でも、インドネシア国民の間で「ナショナル・コスチューム」として認識され続けている。

長谷川愛理 日本に暮らすインドネシア人ムスリムの子どもたちの学び:イスラーム教育の現状と課題

種別:卒業論文

近年、在留外国人数の増加に伴い、日本に暮らす外国人ムスリムの数も増加している。さらに定住化や家族形成も進んできており、外国人ムスリムたちは、いかにして日本の環境の中で子どもたちをムスリムとして育てるかという新たな問題に直面している。

そこで、本論文では、日本の外国人ムスリム人口において最大の割合を占めるインドネシア人ムスリムに注目し、東京で取り組みを行っているモスクやコミュニティへの聞き取り調査や、インドネシア人ムスリムへのインタビュー調査から、ムスリムの子どもたちに向けた宗教教育の現状を考察し、その抱えている問題を探る。インタビュー調査については、2014年から日本に留学しており、14歳と6歳の2人の男の子を持つインドネシア人女性のAさんにご協力いただいた。

本論では、第2章で法務省が発表している『在留外国人統計』を参考に、在留資格や居住地などから在日インドネシア人人口の特徴について概観し、第3章ではインドネシア本国においてムスリムの子どもたちがどのような宗教教育を受けて育っているのか確認する。第4章では、第3章を踏まえた上で日本に暮らすインドネシア人の子どもたちがどのような教育環境に置かれているか現状を考察し、第6章では聞き取り調査をもとに、モスクやコミュニティがムスリムの子どもたちに向けて行っている具体的な取り組みについて言及する。最後に、まとめとして日本に暮らすムスリムの子どもたちのイスラーム教育の現状と課題について考察することとする。

本多主弥 ジャカルタにおける露天商の存在意義と都市開発による今後の在り方

種別:卒業論文

本論文では、インドネシア都市部(特にジャカルタ)における露天商の持つ役割がいったい何なのかをインフォーマル・セクターと都市貧困層の観点から考察し、都市開発などの国の近代化政策によって露天商がどのように変化していき、今後どうあるべきかを考察することを目的とする。農村部からの流入者などから形成される都市貧困層の人々にとって露天商をはじめとするインフォーマル・セクター職種は、稼ぎを得るための重要なものとなっている。その中でも露天商は比較的安定した収入を得ることができる点で、多くの都市貧困層が従事している。ただ、露天商がもつ役割はそれだけではなく、彼らが都市部にて生き残っていくための「生存戦略」として重要な役割を担っていた。しかし、政府側にとっては露天商という存在は排除すべき邪魔なものとして捉えられており、近年行われている都市開発をはじめとした近代化政策によってさまざまな対応策が講じられてきた。露天商には、政府の考えるような負の影響もあるが、上述のように都市貧困層の人々にとっては必要不可欠なものでもある。そのため、この露天商問題に対する取り組みとしては、ただ露天商を排除・移転するのではなく、露天商のもつメリットをできる限り活かした対応策を講じる必要がある。

安田樹 インドネシアにおける今後の防災の在り方:日本の防災知見を活用して

種別:卒業論文

自然災害が各地で増加しており、持続可能な開発の大きな障害となっている現在、災害への対策に注力し被害を軽減していくことが国際社会の重要な課題となっている。特に世界全体に占めるアジアの被害状況は、発生件数で世界の約4割、死者数の約6割、被災者数の約9割、被害額で約5割にも及んでいる。東南アジアの一国であるインドネシアもその地形的な条件により、地震、津波、火山、洪水、地滑り、干ばつ、森林火災などの多くの自然災害が発生している。一方、同じアジアに位置する日本も自然災害の発生件数が多い国であるが、防災対策が優れている国として世界に認知されている。特に2011年に発生した東日本大震災では、東北地方を中心に多くの被災者が発生したが、岩手県釜石市では約3,000人の小中学生がほぼ全員避難し、無事であった事例がある。このことは多くの人々に希望を与え、後に「釜石の奇跡」と呼ばれるようになった。

そこで本論文の目的を、日本と同様に多くのプレートに囲まれ、常に自然災害の危機にあるインドネシアが日本の防災知見を活用して、どのように自然災害を減らし、防いでいくか、とする。

第1章では、防災分野に関わる国際社会の動向を、先行研究を参考にまとめた。第2章では、インドネシアにおける防災の経緯を、主に法改正に関わる行政面と実際の施策を中心に明らかにした。第3章では、インドネシアにおける防災の課題点をハード面とソフト面に分け、論じた。第4章では、日本の防災経緯について明らかにし、その特長を述べた。最後に第5章では、インドネシアが目指していくべき今後の防災の在り方について、日本の防災知見を活用して考察した。

渡邊宏治朗 インドネシア公認宗教制度の形成における近代化の影響

種別:卒業論文

インドネシアではイスラーム、カトリック、プロテスタント、ヒンドゥー、仏教、儒教の6宗教が国家により公認されているが、国是であるパンチャシラにより「唯一神への信仰」が規定されているため、ヒンドゥーや仏教、儒教といった唯一神を持たないであろう宗教も、国家においては唯一神宗教として取り扱われる。こうした奇妙な帰結がどのようにして生まれたのか、歴史的経緯以外の側面からの説明を試みた。

その際、着目したのがオランダ植民地下に進んだ近代化の影響であり、西洋的教育の開始やイスラーム改革運動は、客観的・科学的自己批判を可能ならしめたと分析した。さらに20世紀初頭の知識人らが用いる「理性」という語に注目し、ハーバーマスの『近代の哲学的ディスクルス』をもとに、近代的な理性の、「マクロな主体」中心の目的合理的な在り方を考察した。

結論としては、「マクロな主体」による主体中心理性は、やがてシステムの機能主義的合理性に包摂されるというハーバーマスの論考から、国家という「マクロな主体」が、システム的合理性に基づく「宗教」を生み出し、その「宗教」のもとに本来先立ってあったはずの宗教実践が従属化したのではないかという仮説を述べた。