2019年度卒業論文・卒業研究の要旨

宇野瑞香 チャナンのエスノグラフィ

種別:卒業論文

本論文の目的は、フィールドワークで得たデータをもとに、チャナンの商業化の現状を概観し、チャナンの商業化に対する人々の認識を明らかにすることである。チャナンとは、バリで信仰されるヒンドゥー教のお供え物で、バリの人々は毎日チャナンを捧げる。それは作る行為からが大切で、チャナンを作る時に費やす時間や労力自体が自己犠牲として、神に感謝を伝えるために必要なものである。しかし、現在ではチャナンは市場で購入できる。この現状に対し、本来自分で作るべきものを他者から買うことに罪悪感は抱かないのだろうかという疑問を持った。そこで、チャナンを買うという行為は、近代化に伴う信仰心の薄れからくるものではないかという仮説を立て、検証する。

第1章では、バリの宗教とチャナンがどのようなものなのかを述べた。第2章では、チャナンの売り手に密着した調査の記録をもとに、チャナンの売買の様子を概観する。第3章では、アンケート調査の結果を踏まえ、チャナンの商業化の現状とその背景を検討する。また、チャナンの商業化に対して、チャナンを日常的に買う人と作る人の間で認識の差はあるのだろうか。そして、チャナンの売り手に関しては、チャナンの商業化、更には「チャナン売り」という職業が彼女らにとってどのようなものなのかに迫る。終章では、仮説の検証をした後、バリの現状を踏まえ、チャナンの商業化に関する筆者の考えを述べる。

岡田亜里 マタラム王国に展開される音楽表象―イスラームと土着的伝統の拮抗

種別:卒業論文

セノパティからスルタン・アグンの治世にかけてのマタラム王国を舞台に、ジャワにおいてイスラームが広がる一方で、ジャワ的伝統は引き続き維持されていた歴史的背景が、ジャワの伝統音楽成立において、どのような影響を与えたかを論じた。具体的には、マタラム王国期に誕生しスラカルタ王家へと引き継がれた、スカテン(ムハンマド生誕祭)とブドヨとよばれる舞踊をとりあげた。スカテンは、ムハンマド生誕祭のジャワでの呼び名であり、一週間毎日ガムランが演奏されるのが特徴的な儀礼である。ブドヨは、王家の秘宝として代々引き継がれてきた神秘性の高いもので、本論では舞踊だけでなく、音楽とくに歌詞に注目した。スカテンとブドヨの分析の結果、王と頂点とする位階制秩序の中に取り込まれるイスラームとジャワ的伝統という政治的構造が、音楽にも表象されていることが明らかとなった。

河西恵理子 清日系企業のインドネシア進出において検討すべき条件

種別:卒業論文

近年、数多くの日系企業がインドネシアに進出している。日系企業のインドネシア進出背景は経済の流れとともに、生産拠点を求めた進出から、市場マーケットとしての可能性に期待を込めた進出へと変化しつつある。そのような状況において、インドネシアのポテンシャルや今後の日本のリスクを踏まえると、日系企業のインドネシア進出数は今後も増加する見込みである。しかし、インドネシア進出は決して容易ではなく、そこには様々な観点で検討されるべき条件がある。本稿では、そのような条件を、インフラ、ソフトインフラ、文化的差異の3つの観点から検討した。特に、文化的差異では人々が文化の違いを乗り越えて、心地よく、良いパフォーマンスを出せる環境を作り出すために必要なことについて、日本人と労働経験のあるインドネシア人へのインタビューを通じて分析した。結論として、今後日系企業のインドネシア進出数の増加が見込まれる中で、人々が心に留めておくべき点について筆者の視点で明らかにした。

鈴木健人 北スラウェシ州ミナハサ地域における奇食文化の実態・変遷及び今後の展望

種別:卒業論文

しばらくお待ちください。

豊丸太誠 なぜダンドゥットは今もインドネシアで人気なのか―中部ジャワ若年層の意見から考える―

種別:卒業論文

しばらくお待ちください。

目見田智也 インドネシアにおえるセクシュアルマイノリティー

種別:卒業論文

まず第1章においては、筆者の研究動機及び、インドネシアにおいて今LGBT問題を考える重要性について述べる。また、本論文においては先行研究において行われた調査を検証、補完する目的でオンライン調査を実施した。その調査対象、内容、結果の概略についても述べることとする。

第2章では、本論文において主題とする、セクシュアルマイノリティについての定義を行う。現在、どういったセクシュアルマイノリティが存在すると言われているか、またどういった切り口で分類され得るか等を体系的にまとめる。

第3章においては、インドネシアにおけるセクシュアルマイノリティ研究の先駆けである、デデ・ウトモ氏による先行研究を主に参照し、様々な視点からLGBTの置かれている環境をまとめる。特に、3.3.4 宗教との関わりにおいては、インドネシアにおいてLGBTが認められない最も根強い理由である宗教教義について記述している。LGBTを禁ずる論拠とみなされるクルアーンにおける該当章句やMUIによるファトワーを引用し、まとめた。また、キリスト教徒がLGBTに対して、ムスリムと異なる立場を表明したことには注目するべきであろう。

第4章においては、キヤイ・フセイン・ムハンマドやムスダ・ムリアなどのリベラル派イスラーム学者のLGBTに関する解釈を取り上げる。フセイン・ムハンマドは、タアウィールと呼ばれるテクストの明白な意味だけでなく、隠された意味にも注意を払うことによってクルアーンを理解する手法を重視した。タアウィール手法に基づいてクルアーンを理解する際にはテクストを取り巻く環境やその含意などの様々な側面から合理的で包括的な分析が行われる。こうした手法によって、現代インドネシアに即した教義解釈を行うことで、LGBT問題にも解決の糸口を得られるのではないだろうか。

第5章においては、宗教教義と絡みあい不寛容のスパイラルを生み出している陰謀論、排外主義の蔓延を取り上げる。これらがインドネシア社会に広がり、大きな影響を与えていることは実施した調査からも明らかである。また、陰謀論、排外主義の蔓延の原因の一端として、政治的に利用されている点を検討する。

第6章においては、本論文を総括するに加え、今後LGBT運動において求められることについて筆者の見解を述べる。長い時間をかけて形成されたLGBTを認められない社会的文脈を乗り越えるためには、同じく時間をかけてLGBTを認める多様性に寛容な文化を形成する必要であると筆者は考える。実際に、急進的主張や、過激な運動はむしろ逆効果であることが調査からも示されている。LGBT側は、こうした主張、運動は避け、共感や親近感といった側面からアプローチすることが求められるのではないだろうか。

渡辺秀輔 インドネシア ナショナリズムの過去と未来―マラナタ大学でのフィールドワークをもとに

種別:卒業論文

インドネシアの国民統合やナショナリズムについては、これまでに多くの文献が執筆されているが、スカルノ大統領やスハルト大統領時代の現象を中心に考察されたものが多い印象がある。スハルト大統領が退陣した民主化以後に生まれ、その時代を経験してない現代の若い世代のインドネシア人が、ナショナリズムや統一国家インドネシアについてどのように考えているのか。それを探ることにより、インドネシアのナショナリズムは今後どうあるべきか提言を図った。

第1章でオランダによる植民地支配がインドネシアにもたらしたことを確認し、第2章ではこれまでのナショナリズム政策を確認した。第3章では「華人」について言及した。 第4章は、マラナタ大学でのフィールドワークの結果を記述した。今後はパンチャシラなどの制度や、植民地支配の歴史だけでなく、他者を尊重すること、寛容性を持つことなど「社会的」なことを、他者との交流を通じて学ぶことが重要だと学生は考えていることが分かった。終章で、華人などのマイノリティが差別されず、暮らしやすいインドネシアを作ることが、多様性の中の統一を国是とするインドネシアが目指すべき姿であることを確認した。