2018年度卒業論文・卒業研究の要旨

阿久津 愛 インドネシアにおけるインバウンド政策の現状と課題、今後の展望―首都ジャカルタに着目して―

種別:卒業論文

近年、インドネシアにおいて観光は外貨獲得のための重要な産業と位置付けられ、国が力を入れて取り組む産業の一つである。着実に外国人訪問者数を増やす一方で、これまでインドネシアにおける観光というと、バリ島といったリゾート地への一極集中で、政治経済の中心である首都ジャカルタをはじめ、他の数えきれないほど多くの島や地域は観光地としての脚光を浴びていないのが現状である。実際、これまでのインドネシアにおけるインバウンド観光の研究や、政府による取り組みは、バリを対象としたものが圧倒的に多い。しかし、観光業を国の重要産業として、インドネシアのさらなる経済活性化を図っていくためには、すでに国際的にも有名な観光地として確立しているバリ島だけではなく、多様な魅力溢れるその他の地域にも目を向け、国全体で盛り上げていくべきではないだろうか。

そこで本稿では、特に首都ジャカルタに着目し、インドネシア政府によるこれまでのインバウンド政策を見ながら、インバウンドの現状、インバウンドの振興をしていくにあたっての課題と今後の展望について論じていく。

川本祥子 インドネシアにおけるハラール医薬品市場の現状と今後の展開

種別:卒業論文

本論文ではインドネシアのハラール医薬品市場の現状について調査し、日系企業が同市場に参入する余地はあるのか、今後の展望について論じた。

第1章「ハラールについて」では、前提としてイスラーム教徒が豚やアルコール等を禁じ、ハラールを重要視している根拠を聖典クルアーンから明らかにし、ハラールの詳細と国ごとで異なるハラール認証制度について詳しく説明した。第2章「ハラール産業の市場規模」では、ムスリム人口の増加とともに拡大傾向にあるハラール産業の規模について論じ、その後、インドネシアの医薬品市場の規模を明らかにし、市場の拡大する根拠を示した。第3章「ハラール医薬品について」では、ハラール医薬品を定義した後、ハラール医薬品で問題となるゼラチンとアルコールについて具体的に見ていった。第4章「インドネシアにおけるハラール医薬品市場参入への課題と解決法」では日系企業がインドネシアのハラール医薬品市場へ参入する上で障壁となっている点を明らかにした。

インドネシア政府による外資規制やハラール製品保証法の施行が未だされておらず、政府が決定を保留している点が多いため、インドネシア医薬品市場の参入には懸念が多いのが現状であった。懸念が多い一方で、日本はインドネシアの製薬業界への投資額が一番多いという実績があり、今後投資という形で、日系企業の参入が増えていくことを期待できると結論づけた。

田中恵理 清朝末期に東南アジアに移住した華人を「難民」として定義できるのか

種別:卒業論文

しばらくお待ちください。

冨髙志穂 なぜジルバブは禁止されたのか―1982年の公立校における制服規定に関して―

種別:卒業論文

本論文では、当時スハルト政権が推奨していたイスラームの慣習の1つであるヴェールが禁じられた背景を論じている。

まず第1章で前提となるイスラームのヴェールに関して確認し、続く第2章で、国家とイスラームの不可分の関係、当時のスハルト政権の強権的性格を振り返った。政治的には制限下にあったイスラームは、社会では敬虔な教徒が増加し、着用者の少なかったヴェールも限定的ではあるが普及し始めた。

ヴェールが浸透しつつあった1982年に制服規定が発布され、公立校内でのヴェール着用が実質的に禁じられた。この規定や学校・生徒間の摩擦を、第3章で説明している。

第4章では、ヴェールの政治性を探るべく他国の類似事例と比較し、上記の規定の意義・背景を考察した。対象としてヴェール論争の激しいフランスと、インドネシア同様 イスラームが多数派のトルコを取り上げた。比較からは厳格な政教分離の他、イスラームに対するネガティブな印象が、ヴェールを排する動きの後押しになっていることが見て取れた。特に、ヴェールはイスラーム主義のシンボルとの認識が主要な要因である。この認識により、当時のインドネシアのイスラーム復興がイスラーム主義の拡大と誤認され、その政治関与を危惧した政府に制限された。

調査・分析を通じ、ヴェールは、着用者・社会にとって多義的な意味を持っており、単なる慣習の1つとは言い難いことが判明した。規定改定後の今なおヴェールを取り巻く課題は残っている。「Bhinneka tunggal ika(多様性の中の統一)」を国是とするインドネシアで、国民一人ひとりの自分らしさが共存する真の共生社会になることを願い、本稿を結んだ。

藤井理沙 Peraturan Perlalu Lintas Di Jepang(日本の交通ルール)

種別:卒業研究

筆者は卒業研究として、訪日インドネシア人に向けた日本の交通ルールを紹介する絵本を製作した。製作する際に、警察庁のホームページに記載されている「歩行者と自転車のための日本における交通安全ガイド」の英語版を参考とした。

主な内容は、歩くときに心がけること、横断の方法(信号のない場所や踏切での横断など)、信号の意味、夜歩くとき、自転車に乗るときに心がけること、交通標識の意味、交通事故に対する対応、である。絵本の中ではうさぎのキャラクターを使用し、読んだ人が親しみやすいように描きあげた。交通関係のインドネシア語の語彙が乏しかったので、インドネシア語の文を考えるのに苦労した。現在、インドネシアから日本を訪れる人の数は増加してきている。そういった状況の中で、訪日インドネシア人に日本滞在を楽しく安全に過ごしてもらうためにできることはないかと考え、この研究テーマを選んだ。インドネシアを訪れた際に、日本で行われているような交通安全教育がまだまだ未発達だと感じたこともこのテーマに決定する理由となった。本研究のような訪日インドネシア人のための交通安全啓発ツールが今後増えていくことを願う。

松本晴那 現代のムスリムファッションのあり方とビジネス―インドネシアを事例に―

種別:卒業論文

本稿はインドネシアにおけるムスリム女性たちのヴェール着用に関するより現代的な現象について、着用者の立場、供給側の立場から論じた。

第1章では問題設定をし、先行研究をまとめた。第2章ではイスラーム教義における女性の衣服に関する規定と、インドネシアにおいてヴェールの呼び名が着用する女性たち自身の意識に呼応し、クルドゥンからジルバブ、ジルバブからヒジャブへと変遷してきた経緯についてまとめた。第3章ではインドネシア人ムスリム女性の間で現在流行しているファッションスタイルはどのようなものなのか、SNSで影響力を持つ4人のインドネシア人ヒジャバーから考察した。第4章ではヴェールをヒジャブと呼ぶ若い世代のインドネシア人ムスリム女性のファッションと信仰の関係をインタビュー調査や質問紙調査を通して見ていった。第5章では世界各地で開催されるムスリムファッションショーや世界のアパレルブランドの動きを含む、世界の服飾関係のビジネスやマーケティングの分野に注目し、その現状と今後の展望について考察した。

飛躍的に拡大するムスリムファッション市場に世界が注目する中、ムスリム人口が世界一多い国であるインドネシアは政府の積極的な支援のもと、世界のムスリムファッション発信の中心地になると予想できる。今後もインドネシアのムスリム女性のヴェールの呼び名や着用のスタイルはさらに変化していき、それに伴いヴェールの需要と供給も多様化していき、ムスリムファッション市場はインドネシアを発端にますます盛り上がっていくのではないかと述べ、結びとした。

村尾美帆 在日ムスリムの学校教育

種別:卒業論文

本論文では在日ムスリムが日本の学校教育を受けるにあたって直面する問題について、給食、礼拝、服装、イスラム教育の4つの観点から論じた。日本にムスリムが増加し始めたのは1980年代、出稼ぎのためにやってきた人がほとんどであった。彼らが日本での生活を確立し、子育てを始め、その子どもたちが日本の学校に入学したことで、近年学校でムスリム児童が直面する問題が明らかになってきた。上述の4つの観点から、現状の把握と問題点の抽出を試みる。

どの観点から見てもムスリムは、日本社会が求める同化・同質性とムスリムとしてのアイデンティティの保持の間で葛藤していることが分かった。在日ムスリムが抱える問題を解決するには多くの日本人がイスラム教に対して表面的ではない理解を示さなくてはならない。また在日ムスリムは多様なバックグラウンドを持ち、イスラム教に対する考え方も一様ではない。マニュアルを作って一括で対応することはふさわしくない。現状、日本の学校はある程度融通を利かせ、比較的柔軟にムスリム児童への対応を行っている。しかし改善点は未だ大いに残されている。今後さらにムスリム児童は増えることが予想されているが、彼らがよりよい教育を受けることができるよう体制を整えていかなければならない。

立古智久 ジャカルタの交通渋滞

種別:卒業論文

東南アジアでも有数の大都市である首都ジャカルタにおいて、交通渋滞は深刻な問題となっている。本論文ではこの渋滞は果たして改善されうるのかというテーマの元、渋滞が引き起こされている原因を明らかにし、そして今後どう変化していくのかについて論じた。

第1章ではジャカルタの交通事情について、現状及び課題の把握とその背景、そしてジャカルタ州政府がこれまでどういった対策を講じてきたのかについて探る。加えて、2018年8月に開催されたジャカルタアジア大会での交通規制についても説明した。第2章ではジャカルタの交通網が抱える大きな欠点である、公共交通機関の不足について挙げた。既存のTrans Jakartaの他、2019年に開通予定である新たな公共交通機関MRT、LRT等について、交通渋滞の解消という軸のもと取り上げた。そしてこうした新旧の交通機関について、今後展開していくべき政策、サービスについて考察した。第3章では、ジャカルタの目指す交通について、他の国の公共交通機関や政策を取り上げてどう活かしていくことができるのか、検討・考察する。特にジャカルタに比較的交通事情が近く、モデルとして参考になる考えられるシンガポール及びタイのバンコクについて論じた。

これらの要点を踏まえ、「州政府の対策の強化」、「公共交通機関の整備」を中心にジャカルタの交通渋滞は将来的に改善されるという結論を導いた。