2017年度卒業論文・卒業研究の要旨

礒﨑晴香 パングルラン文化的受肉カトリック教会教会堂に見るトバ・バタックの宗教観

種別:卒業論文

インドネシアでカトリックが本格的に布教され始めたのは、オランダで、フランス革命の余波による「信教の自由」宣言がなされた1807年以降である。ヨーロッパの様々なカトリックの会派たちが、オランダ植民地政庁とにらみ合いながらインドネシアの各地で宣教活動を行っていった。

サモシール島にカトリックが到来したのは1939年、パングルラン小教区が設立されたのはその2年後の1941年である。1997年には主任教会であるGKIPの教会堂が設立されたが、当時教会堂建設を先導した主任司祭によれば、教会堂は地元の信徒の声をかなり反映させたつくりであった。「子孫たちにバタックの文化を忘れてほしくない」という信者らの思いから、教会堂とトバ・バタックの伝統家屋の融合は生まれたのである。

GKIPの教会堂の装飾は、トバ・バタックの土着宗教の世界観を表す伝統家屋ルマ・ゴルガに基づいているものの、実際に施されているのはキリスト教にまつわるものがほとんどであった。通常ルマ・ゴルガに魔除けとして施されていた装飾の多くは、キリストの教のモチーフに置き換えられていたのである。以上から、トバ・バタックの土着宗教は、伝統家屋に見られるひとつの文化として認識され、信仰の中心はカトリックにあると結論付けた。

衣川瑞穂 現代インドネシアにおけるジャムウビジネスの現状と今後の展望

種別:卒業論文

本論文では、現代インドネシアにおけるジャムウビジネスの現状と今後の展望について論じた。ジャムウはインドネシアで千年以上も前から伝承されている伝統的治療薬であるが、現在では時代に合わせた新しい形で提供され、経済界や政府からも注目される産業となっている。

第1章では、自身の経験をふまえ、研究の背景と目的を述べた。第2章では、インドネシアの伝統薬の概要について述べ、ジャムウの由来や歴史、種類、材料、販売方法について説明した。第3章では、インドネシア経済の概況について述べ、経済発展が国民の健康意識の高まりを生むと同時に貧富の格差を拡大させており、その両者に対応するものとしてジャムウ産業が注目されていることを論じた。第4章では、化学物質入りジャムウや輸入ジャムウなど、ジャムウ産業が抱える課題と、それに対する政府の取り組みについて検討した。第5章では、新しい形のジャムウ産業として、フランチャイズで全国展開を進めるシド・ムンチュル社のカフェジャムウについて取り上げ、経済効果だけでなく、貧困対策としても期待できることを論じた。また、政府主導で行われたジャムウ産業を盛り上げるための運動や、その他の事例を挙げた。第6章では、ジャムウ産業の将来性や今後の課題について考察し、まとめとした。

斎藤萌 ピーター・レノン―“路上流し”という生き方―

種別:卒業研究

私は卒業研究として、インドネシア中部ジャワ地方のジョグジャカルタで活躍する“路上流し”のミュージシャンであるピーター・レノンPieter Lennonに関する25分程度のドキュメンタリー映像作品を制作した。

ピーターはジョン・レノンを彷彿とさせる容姿と親しみやすい人柄で人気を誇る、62歳のベテラン“路上流し”だ。毎日昼食と夕食の時間帯にジョグジャカルタの学生街であるカリウラン通りの飲食店を巡り、ハーモニカとギターでビートルズの曲を演奏する。本作品を制作した背景に、大学3年時にジョグジャカルタのガジャマダ大学に留学した際に、インフォーマルセクターの人々の生活に関心を持った事が挙げられる。帰国後、留学中に出会ったピーターに連絡を取ったところ、取材の許可を得ることが出来た。撮影期間は2017年の9月5日~11日の1週間だ。基本的に自分でカメラを回しながら取材する撮影方式を取った。インドネシアにゆかりのない方にも視聴して貰えるよう、編集段階で日本語字幕とナレーションを加えた

本作品の目標は、インフォーマルセクターに従事する一人として、ピーターの「仕事」と「人生観」を紐解く事だ。彼のビジネス志向と、「誠意を持って与えられた道を進む」という姿勢が垣間見える作品となっている。

・本作品はYoutubeで視聴ができます。ピーター・レノン~”路上流し”という生き方~(Youtube)

藤浦爽 ジャワの鳥飼文化―クラトンを背景とした人と鳥の生活―

種別:卒業論文

本論文では古都ジョグジャカルタに焦点を当て、鳥飼文化や王宮にまつわる文献と現地でのフィールドワーク結果をもとに、ジョグジャカルタにおいて独自の鳥飼文化が発展した背景及び王宮との関係を明らかにすることを目的とした。

ジャワの人々は鳥に対し独自の価値観をもっている。Perkututは代々の王に好まれ、そのさえずりの美しさには高い評価が与えられており、宮中行事においてもPerkututは尊敬の対象として崇められる鳥であった。現在に続く伝統的な鳥の鳴きあわせコンクールもその起源は王が始めた行事にある。Perkututにまつわる伝承や思想、その鳥が持つとされる霊力は、権力や高い地位に関連するものが多々存在するが、こうした考えは、高尚な文化として確立した「鳥を飼う」ことに王や貴族階級への尊敬や憧れが相俟った形で人々に影響を与えたと推測できる。しかしながら今日においては、思想や行事を通した王宮からの直接的な影響はみられないことがフィールドワークを通して明らかになった。人々は自分の好みや目的に合わせて鳥を飼っているだけだ。愛玩鳥とされる鳥は多種多様化し、鳥のさえずりに対する価値の先にはビジネスが垣間見える。現代の鳥飼文化は本来の形に新たな要素が加わってきているといえる。

以上から、ジャワの鳥飼文化は王宮文化に深く関わりながら発展し、多くの人に親しまれる伝統ある文化となった。そして時代に合う形に変化することで、現在も発展し続けているのだと結論付ける。