2016年度卒業論文・卒業研究の要旨

板井史織 ジョグジャカルタ特別州におけるインフォーマル・セクター―西ジャワ州クニンガン県出身者によるワルン・ブルジョを例に―

種別:卒業論文

ジョグジャカルタ特別州にはワルン・ブルジョ(warung burjo)というワルンが至る所にあり、いつも地域住民でにぎわいを見せているが、働いているのは西ジャワ州クニンガン県の出身者ばかりである。本論文では、ジョグジャカルタ特別州のインフォーマル・セクターとしてワルン・ブルジョを取り上げ、連鎖型の出稼ぎ移住とワルン・ブルジョの現状を明らかにし、今後について考察することを目的とした。

第1章では、インフォーマル・セクター研究の歴史から定義を整理し、インドネシアにおけるインフォーマル・セクターの概要を述べた。第2章では地縁・血縁を頼ったインドネシア国内の連鎖移住の事例を挙げた。また西ジャワ州クニンガン県の概況から連鎖移住を促す要因を探り、彼らが移住先のジョグジャカルタ特別州で経営するワルン・ブルジョの概要と、学生街におけるワルン・ブルジョの広がりを紹介した。第3章では筆者が現地で行ったアンケート調査や聞き取りの結果を、ワルン・ブルジョのオーナー、従業員、利用客にわけて分析し、連鎖移住の背景や利用客の動向を探った。第4章ではまとめとして、クニンガン県出身者のつながりの強固さや、ワルン・ブルジョが利用客から支持を得る要素について述べ、インフォーマル・セクターがインドネシア国内において果たす役割とこれからの変化について考察した。

奥山裕美子 インドネシアの若者におけるファッション志向の変化と日系企業の今後の展望

種別:卒業論文

本稿では、人口約2億4000万人を抱えるインドネシアにおいておよそ900万人の人々が密集する、首都・ジャカルタを中心とした首都圏におけるファッション産業の構造と若者のファッション志向の変化を昨今の消費傾向を踏まえ考察し、その上で、全人口の内約40%を占める15歳以上39歳以下の若者世代のうち主に富裕層から中間所得層を含む消費者をターゲットとした、日系アパレル企業の今後の展望を明らかにする。

これまでインドネシアを含む東南アジア地域は、安価で豊富な労働力を保有するという理由から繊維産業における縫製拠点として日本や欧米と関係を築いてきた。しかし昨今、それらの地域で急速に経済発展が進み、富裕層に加え増加する中間所得層が「より良い品」を求める時代に突入した。また、インターネットの発達や日系企業の積極的な展開により、インドネシア市場における日本のファッション需要が高まっている。

これらの視点を踏まえ、第1に「インドネシアの首都圏における若者のファッション志向は国内・海外からの様々な影響を受けどのように変化してきたのか」、第2に「若者世代をターゲットとした日本のアパレル企業は今後どういったビジネスモデルによりインドネシアという東南アジアの巨大市場を開拓できるのか」の2点を焦点と定め結論を導いた。

平野裕子 呼び名と個人名から見たバリ人の名前

種別:卒業論文

本論文では、バリ人の名前というテーマに関し、先行研究間で相違のあった点や、筆者の経験から真偽を明らかにしたい点について、特に呼び名と個人名という側面を中心にアンケート調査を用いて検討した。

第1章では自身の経験と先行研究をふまえ、研究の目的を述べた。具体的には、呼び名はどのようなタイミングで変化し、どのような呼び名が用いられるのか、呼び名に使われる名前の構成部分は何らかの傾向があるのか、ニックネームの有無、個人名に込められる意味の有無、個人名の語数の傾向について明らかにすることを目的とした。第2章では文献やインターネットの情報を元に、バリ人の名前の構成を身分名・性別名・出生順位名・個人名の4節に分けて説明した。第3章ではバリ人へのアンケート結果をグラフにまとめ、上述の疑問点を明らかにした。アンケートから、特定の出来事で呼び名が変わるわけではないこと、呼び名には個人名が使われる傾向にあること、ニックネームをつける文化は存在すること、個人名に意味を込める人が一定数存在すること、個人名の語数は2語が多いという結果が得られた。第4章では第3章までの内容をまとめた上で、バリ人の名前は古くからの慣習を守りつつも、変化を受け入れているものであると結論付けた。

横山紗也香 インドネシア・ジャワ島における現代舞台芸術の現状と展望―国際共同制作の潮流と異文化コラボレーション―

種別:卒業論文

この論文では、これまでの日本と東南アジアの文化交流の歴史を概観しつつ、ASEAN地域の現代舞台芸術のようすについて明らかにした上で、フィールドワークで得た観客層や観劇志向のデータを踏まえ、現在のジョグジャカルタ特別州における舞台芸術がどのようなものかを探っている。また、近年盛んになってきた国際共同制作において、異文化コラボレーションを伴う作品づくりがもたらす成果と課題について論じた。

ジョグジャカルタ特別州において、現代的な作品は伝統芸能に比べて集客がしづらく、元々ジャンルや俳優に興味がある人々にやや観客層が固定化しているのが現状のようだ。とはいえ、インドネシアの人口の多くを占める若い年代の観客が友人たちと誘い合って劇場に来る楽しげな様子を見るにつけ、その将来を悲観的に憂うる必要はないように感じられる。

1980年代から徐々に日本で盛んになってきた国際共同制作の波に乗り、インドネシアと日本は芸術分野で交流を深める機会を増やしてきた。

異なる文化を持つ集団が一つの作品を作り上げるとき、彼らは様々な課題に直面することとなる。それらを乗り越えるには、①目的やテーマを理解・共有すること②互いを尊重すること③「普遍」を見出すこと、といった意識が重要になってくるのではないか。

また、興行収益を見込めない大半の共同制作作品を作り出すためには、多額の資金が必要だ。よって国や自治体、企業や文化財団による支援も大切な要素である。

海外のアーティストや芸術団体との交流が今後さらに盛んになることで、豊かな芸術作品が生み出されていくことを期待したい。そして、それが日本とインドネシアの友好な関係を築くことにつながればと考える。