2014年度卒業論文・卒業研究の要旨

池山由季美 インドネシアのイスラーム寄宿学校「ポンドック・プサントレン」が果たす社会的役割の変化―ポンドック・プサントレン・ダルナジャを例に―

種別:卒業論文

本稿では、インドネシア社会に古くから存在するイスラーム教育機関のひとつ、「プサントレン」(イスラーム寄宿学校)を扱い、現代的プサントレンと伝統的プサントレンの社会的役割の変化について論じた。

2012年に筆者はジャカルタに位置する「ポンドック・プサントレン・ダルナジャ」(以下、ダルナジャ)を訪れた。その際に、伝統を重んじ、宣教師を輩出するような古めかしい宗教学校、という筆者が抱いていたプサントレンのイメージとは大きく異なる、近代的な建物、最新の教育設備、一般教育と宗教教育のバランスが取れたカリキュラムなど「イスラーム総合学園」と呼べるようなプサントレンの実態を目の当たりにした。これを受け、伝統的プサントレンが宗教指導者の養成を主なミッションとしていたのに対して、現代的プサントレンは宗教分野に限定せず、多種多様な分野で活躍できる力を身に付けた人材育成の場であることが関係者から期待されているのではないかという仮説を立てた。本稿では、文献調査および、ダルナジャでの実地調査で得られたデータを用いて、この仮説を検証した。

本稿は、第1章でイスラーム概説、第2章でインドネシアのイスラーム教育の現状、第3章でポンドック・プサントレンの実態と変容、第4章でダルナジャの概要、第5章でダルナジャで得られたデータの紹介および検証、最後に文献調査及び実地調査をふまえた現代的プサントレンの社会的役割の変化について考察を述べるという構成になっている。

小倉淳寛 ジャワガムラン概説

種別:卒業論文

インドネシアの人々にとって伝統音楽であるガムランはなくてはならない存在である。音楽はより身近に存在し、人々の生活と密接に関わっている。ガムランの中でも、ジョグジャカルタとソロで代々伝承されているジャワガムランに焦点をあて、ガムランという音楽文化を理解することに努めた。

第1章では、ガムラン音楽、ガムラン楽器とはどういったものかということの概要を述べている。またその中でジャワガムランにはどういった特徴があるのかという点にも触れている。ガムラン楽器に関しては、ジャワガムランで使われる楽器の一つ一つの特徴を紹介した。

第2章では、ガムラン音楽の音楽的な仕組みに関して述べている。「コロトミー構造」と呼ばれる特徴的なリズム構造や、様々な形式、曲の速度であるイラマ、音程、音階などの説明のあとジャワガムランの楽譜について説明を加えた。

第3章では、ガムラン音楽と人々のかかわりに関して述べている。インドネシアという国が、ヒンドゥー文化や仏教文化との交流、その後のイスラーム文化との交流を経てきたという経緯を理解したうえで、ガムランという文化はそれ以前のアニミズム的信仰とのかかわりが大きいことを記した。また「影絵芝居」として知られるワヤンとの関係、ジャワガムランの特徴である歌詞の特徴、結婚式などの儀式とガムランのかかわりについても触れた。

第4章では、ここまでで述べてきたような「伝統的な」ガムラン音楽とは離れた、新しいガムラン音楽の形が生まれている現状に関して述べている。Tradisi Baruと呼ばれるこの活動は、海外からの留学生やジャワの作曲家の間で広まっている。この活動がどういったものか、どのように世間に披露されているのかということを述べた。

千田りんご インドネシア国章に用いられた神鳥ガルダに関する考察

種別:卒業論文

本論文の研究目的は、現在インドネシア共和国の国章に用いられ、国の象徴として君臨する“ガルダ”が、如何にしてその地位を獲得したのか、その経緯を明らかにすることである。また同時に、国章制定を経た現在、インドネシア国民が抱くガルダに対するイメージはいかなるものか、国章制定による影響は存在するか否か、その検証をアンケート調査で得たデータをもとに実施した

第1章では、『リグ・ヴェーダ』や『マハーバーラタ』からの引用を用いながら、神話におけるガルダ像を考察した。第2章では、東南アジアへのインド文化や仏教の伝播の歴史を辿るとともに、ジャワ文化やバリ文化に根付くガルダの具体例を挙げながら、インドネシアに伝わったガルダについて述べた。第3章では、インドネシア国章制定の経緯と、国章そのものの解説を行い、政府が制定に際して込めた思いはいかなるものであったかを検討した。第4章では、アンケート調査を経て得たデータをもとに、インドネシア国民が抱くガルダに対するイメージについて、“インドネシア国民のガルダに対するイメージは、国章制定に際して政府が意図したイメージと重なる”という仮説を立てて検証した。

長野太一朗 インドネシアにおけるルワックコーヒー産業の現状と今後―ランプン州の事例から―

種別:卒業論文

本論文では、「ルワックコーヒー」という、現在インドネシアのコーヒー産業において新たに知名度が高まっている、ジャコウネコの糞から採取されたユニークなコーヒーについて、その生産の現状と今後について考察した。

まず第1章では、コーヒーの基本事項に加え、飲料としてのコーヒーの存在が現代までいかにして世界中へ伝播したのかについて歴史的経緯を述べた。第2章では、第1章で述べた歴史的経緯の内、17世紀から現代にいたるまでのインドネシアにおけるコーヒー産業について、更に現在のインドネシアの社会におけるコーヒーの飲まれ方についても触れた。第3章では、筆者が実際に行ったスマトラ島ランプン州でのフィールドワークの結果をふまえ、そもそもルワックコーヒーとはどのようなコーヒーなのか、その生産方法と生産に関わる人々の仕事内容についての現状を論じた上で、生産者の考えるルワックコーヒービジネスの今後についても論じた。最後に、第4章は結論として、インドネシアのコーヒー産業におけるルワックコーヒービジネスは、現段階では知名度が高まっただけで一過性のブームに過ぎないと冷静に捉えられていること、かつこのユニークなコーヒーをより多くの消費者に届けるためには、より安全で安定的な流通システム・枠組みの構築が必須だという今後への課題があること、などの考察を結論とした。

本田 麻衣子 現代におけるメッカ巡礼と観光

種別:卒業論文

本稿では、現代のメッカ巡礼には観光的要素が含まれているのかということに主眼を置き、特に巡礼者がメッカ巡礼をどのように捉えているかという枠組みで、文献及びインターネット上のブログを元に考察を行った。

第1章では巡礼と観光の接近、第2章では観光の定義を、観光学における観光の構造的理論に基づいて整理し、観光者が観光に求めているものについて述べた。続く第3章では巡礼についての先行研究の領域区分に触れ、第4章でメッカ巡礼の歴史をイスラーム成立前後に分けて辿り、巡礼が巡礼者にとってどのような意味を持つのかを考えた。第5章でインターネット上のブログに見られるメッカ巡礼者の巡礼の記録を追い、メッカ巡礼中の巡礼及び観光の要素を分析した。最後にメッカ巡礼者が巡礼と観光をどのように体験しているかを、巡礼及び観光の理論に照らし合わせて考察した