2013年度卒業論文・卒業研究の要旨

増井美佳 Kepustakaan Djawa(邦題『ジャワの文献』)全訳

種別:卒業研究

本研究は、R. M. Ng. プルボチョロコ著『ジャワの文献』(インドネシア語原題『Kepustakaan Djawa』、ジャワ語原題『Kapustakan Djawi』)の全訳を行ったものである。

著者のR. M. Ng. プルボチョロコ博士(1884―1964)はジャワの古典文学、ジャワ語学、史料学などの分野で現地ジャワにおいて現在でも最も高名な学者の一人である。中部ジャワのスラカルタに生まれ、オランダのレイデン大学にて文学博士号を取得したのち、ガジャ・マダ大学、インドネシア大学にて教鞭を執った。

本訳の原著『Kepustakaan Djawa』(邦訳:ジャワの文献)はジャワ語で書かれた文献を、初期の作品からジャワのマタラム王国の時代に創作された作品に至るまで、内容の説明や引用を用いて簡潔に解説した、「文献史」あるいは「文学史」である。1952年に初版がジャカルタのジャンバタン社により出版された後も、幾度にわたり再版がなされてきた。インドネシアの国立大学の国文学科・地域文学科等で参考書としても用いられ、ジャワの文学を学習・研究する者にとっての非常に基礎的かつ有益な本である。現地インドネシアではジャワ語で書かれた原著と、インドネシア語に訳出されているもの二種類が出版されており、今回の日本語への訳出に際しては便宜性を図りその両方を用いた。

澁谷舞香 インドネシアにおける母子健康手帳がいかにMDGsに適合的であったか

種別:卒業論文

堀口なりみ インドネシアの高校日本語教育における教師支援と今後の展望

種別:卒業論文

池田ちなみ インドネシアのノンフォーマル教育の効果と課題―ジョグジャカルタの事例から―

種別:卒業論文

本稿では日本の不就学児への対応とは異なったインドネシアの取り組みとしてのノンフォーマル教育について、現在のインドネシアの教育問題にそれが有効であるのかどうかを論じた。

第1章では、インドネシアの教育制度について述べ、それを踏まえた上で現在のインドネシアの教育が抱える問題点を挙げた。第2章では、教育の中でも正規教育ではなくノンフォーマルな教育(学校外教育)について、その定義を述べた後、特に発展途上国におけるノンフォーマル教育の特徴、さらにはインドネシアのノンフォーマル教育の性質や種類について述べた。第3章では、インドネシアのノンフォーマル教育の中の一つであるクジャール・ウサハ・プログラム(職業訓練校)の形態をとっているPanti Sosial Karya Wanita Yogyakartaという学校でのフィールドワークについてまとめた。そこでは生活力向上のためのスキル修得を目的とするだけでなく、一度社会からドロップアウトしてしまった子ども達がまた社会復帰を果たせるようなカリキュラムが組まれていることがわかった。第4章では、インドネシアのノンフォーマル教育の効果と課題についてインドネシア中央統計局のデータを元に数字から、そしてフィールドワークで現地を調査した結果からそれぞれ分析した。

最後に、インドネシアのノンフォーマル教育の効果と課題を踏まえた上でこれからのノンフォーマル教育がどうあるべきかを述べた。

島崎 彩 インドネシア地方分権化にみる都市開発の進展―ジャカルタ交通問題を事例に―

種別:卒業論文

経済発展が急速に進むインドネシアの首都ジャカルタでは、交通渋滞が長年の都市問題となっている。主な原因は車両台数の急増と道路建設の遅延、そして公共交通機関の少なさであり、渋滞が生み出す経済損失は年々増加する傾向にある。そこでジャカルタ州政府は、JICAからの援助を受けて作られた都市開発計画(SITRAMP)のもと新たな公共交通機関の建設に乗り出した。計画内で提案されていたBRT(高速輸送バス、通称トランスジャカルタ)は実現したが、長年の悲願であるMRT(高速輸送鉄道)については、建設案が浮かんでは消えていく状態を繰り返していた。しかし2013年10月、ようやくジャカルタMRTの着工が開始された。これには、2012年9月に新たなジャカルタ特別州知事の就任が大きな影響を与えている。彼の名前はジョコ・ウィドドといい、前職はスラカルタ市長を務めた人物である。いち市長であったウィドド氏が首都ジャカルタの知事に大抜擢されたのはなぜか。ここにきて、MRTが実現に向けて動き出したのはどうしてなのか。本論文では、スハルト政権の崩壊を機に加速した地方分権化と民主化、そして選挙制度の変遷に着目し、それによって変容してきた“都市開発の在り方”について論じている。

スカルノ・スハルトという中央集権体制を経験し、民主化と地方分権化が進められてきたインドネシアの都市開発は、もはや政府が一方的に行うものではなくなった。住民の要望に耳を傾け、実現に向けて政策を打ち出す、政府と国民による相互的なものに変化してきている。ジャカルタ市民は渋滞を始めとした様々な問題の解決を願い、庶民派で実績のあるジョコ・ウィドド氏を州知事に選んだ。そしていま、ウィドド知事がその交通網にメスを入れ、画期的な渋滞対策になりうるMRT政策は実現されようとしている。民主的な手続きで知事を選ぶことは、ウィドド知事のような決断力のあるリーダーを輩出し、MRTのような画期的な公共交通を実現させることにつながっていると言える。

菅沼千絵莉 インドネシアと日本の著作権制度及び海賊行為の比較研究―音楽パッケージの海賊版撲滅に向けて―

種別:卒業論文

筆者がバリ島を訪れた時に海賊版DVDの売買の瞬間を目撃し、私たちが身近に楽しんでいる音楽の中にもこのように不正に流通してしまっている海賊版に興味を持ったことをきっかけに、本稿を執筆することにした。海賊行為の現状と合わせて、より理解を深めるためにインドネシア、そして日本の著作権制度についても研究した。

第1章では日本における著作権と海賊行為について調べた。著作権の具体的な内容から歴史を述べることで著作権の重要性を強調した。その比較対象として第2章ではインドネシアにおける著作権について記した。著作権の発展から知的財産権関連法規を管理する知的財産局の活動等を通して、インドネシアには著作権がきちんと整備されているという確固たる土台が存在することがわかった。第3章では、第2章で判明した確固たる土台が存在してもなお海賊版が氾濫し続けるインドネシアの海賊版事情とその打開策について論じた。

著作権や著作権管理団体、さらには知的財産局等があったとしてもやはりそれをきちんと機能させていくことが必要だ。要するにインドネシアが今後一つの国として発展していくためには、適切な追加の法整備に加えて、啓発活動等を通して国民の法に対する理解を高めることで海賊版の氾濫を防ぎ、インドネシアの国の「バロメーター」をこれ以上海賊版の氾濫によって低下させない取り組みを継続的に行なっていくことが必要不可欠であるとして、本稿の結論とした。

山本真紀代 インドネシア・ムスリムの飲酒事情―若いイスラーム教徒を中心に―

種別:卒業論文

山﨑郁哉 インドネシアの格闘技プンチャック・シラットMerpati Putih

種別:卒業研究

本研究では、インドネシアの格闘技プンチャック・シラットとその流派の一つであるMerpati Putihを紹介する。第1章でプンチャック・シラット、第2章でMerpati Putihについて説明し、第3章では2013年10月末にインドネシアのバンドゥンで開催されたMerpatih Putihの世界大会に参加した際の活動報告を行う。巻末には大会の記録としてDVDを付けている。なお、本研究で使用している写真・動画は、図4を除き、同じ道場に通う門下生と筆者が撮影したものである。

南 芙美 ホスピタリティ実践に向けたインドネシア接客企業に求められる今後の取り組み

種別:卒業論文

東京ディズニーリゾートのキャスト育成法、その中心にある「ホスピタリティ」に興味をもったことをきっかけに、インドネシアの接客企業とホスピタリティの現状を追求したいと思った。インドネシア経済成長におけるいくつかの特徴が接客業界に今後プラスの影響を及ぼすというデータから、本稿は、接客企業が持続的に発展していくためのホスピタリティ実践を提案することを大きな目標としている。中でもホスピタリティ実践に向けて必要となる企業の取り組みは職場環境作りの徹底にあるとして具体的対策を提案する。

本稿は序章、最終章を含めた全6章からなる。序章でテーマの背景と本稿の流れを紹介し、第1章でホスピタリティとは何か、第2章で経済成長からみる接客業界の有望性を論じる。続く第3章は問題提起としてインドネシアの接客の実情を、第4章では問題に対する解決策として企業に必要な取り組みを提案し、最終章では論文全体のまとめを行う、という構成である。

中山葉月 深化するASEANの歩みと試み

種別:卒業論文

ASEANは、1967年に設立された東南アジアの地域協力機構である。国土面積、経済規模、人口等のさまざまな違いを独自の寛容性で乗り越えてきたASEANは、2015年にASEAN共同体という新たな統合形態に変わろうとしている。インドネシアをはじめとする東南アジアの国々はASEANという枠組みによってこそ、とりまく世界構造の中でその存在感、影響力を発揮してきた。TPP(環太平洋連携協定)等の新たな協力枠組みがつくられ、強化されようとしている昨今の状況において、ASEANは岐路に立っている。ASEANとして、今までのような協力体制を維持していけるのか、維持するだけでなく深化していくことはできるのか。こうした疑問を持ったことから、本論では今までのASEANの歩みと今後に向けた試みに目を向けることにした。]

第1章では、地域協力機構としてのASEAN設立からASEAN共同体創設へのASEAN全体の流れを、大きな動きに沿って見ている。続く第2章は、経済分野に絞った域内協力を軸に、ASEANの歩みをまとめた。域内経済協力としての大きな一歩として、まずAFTAを取り上げ、さらにASEAN共同体の核となるASEAN経済共同体について述べている。最後の第3章では、これまでの章でASEAN単体の域内協力に重点を置いてきたことを考慮し、域外国との関係について目を向ける。域外国の一例として中国を取り上げ、ASEANが主に中国をどのように認識し、その上で両者はどのような関係構築を模索しているのか考察した。

阿部千明 プカロンガンのバティック―模様の変遷―

種別:卒業論文

バティックとは、インドネシアのジャワ島で作られてきた布のことであり、ロウ防染により模様を描き出すものである。東西5000キロメートルに及ぶインドネシアにおいては、各地域が独自の文化を育んでいるが、これはバティックに関しても例外ではない。同じジャワ島でも地域が違えば、バティックの特色も全く異なったものになる。バティックの生産地としてはジョグジャカルタやスラカルタが有名だが、本レポートではインドネシア中部のプカロンガンのバティックを見ていきたいと思う。バティックには素材や工程など、見るべき所は多々あるが、ここでは模様に焦点を当てていきたい。諸外国との交易を経て、プカロンガンのバティックの模様がどのように移り変わっていったかを明らかにしていく。なお、近年ではロウ防染のバティックよりもプリント・バティック製品が普及しているが、本レポートにおいては基本的に伝統的なロウ防染の手描きバティックのみを取り扱う。

第1章では、バティック全般の概要を述べる。まずバティックの素材・道具・作業工程を紹介し、バティックに古くから積み重なってきた異文化の影響、中部ジャワ様式とジャワ北岸様式の違いについて解説している。第2章では、まず現在のプカロンガンとバティックとの関わりを述べた上で、プカロンガンにおけるバティックの模様の変遷を見ていく。プカロンガンでのバティック出現が確認できる1850年代頃から、年代順にプカロンガンの代表的な模様を紹介し、取り入れられているモチーフや、それらの模様が持つ意味について解説する。第3章では、プカロンガンのバティックが、ヨーロッパをはじめとする諸地域から様々なモチーフを取り入れつつ発展してきたことを明らかにしている。

淺野美月 性別二元制社会の解体における性的マイノリティの可能性

種別:卒業論文

男女の両性の間には絶対的な差異が存在するという考えを本質主義といい、一方セクシュアリティアは社会的な力によって形成されたものであるという考えを構築主義という。本論文は、構築主義の立場から本質主義を否定することにより、性別二元制社会を解体することを目的とする。

まず第1章では、セクシュアリティを構成する社会的要因について、家族システム・経済的要因・社会的規制・政治的介入の点から説明する。第2章では、セクシュアリティがなぜ重要視され、人々の興味の対象とされてきたのかについて、家族システム・性教育・宗教の面から考察する。第3章では、歴史的にみて最も抑圧の激しかった同性愛者を事例にとり、様々な国で行われてきた差別について述べた上で、同性愛嫌悪が起こる原因について考察する。また、同性愛に関して性科学や心理学が果たしてきた役割についても述べる。第4章では、性的マイノリティに焦点をあて、彼らが現在置かれている状況と今後必要とされる医療的・法的課題についてまとめる。最後に、インターセックスの事例を基に性別二元論批判を行い、性別二元制社会の解体のためには性的マイノリティたちの主張と、これまで性別二元制社会解体のために活動してきたフェミニストたちの経験が活かされること、両者が協力し合うことが重要であることを結論とする。

芝田悠介 英蘭東インド会社の比較研究―18世紀から19世紀を中心に―

種別:卒業論文

本論文「英蘭東インド会社の比較研究 ―18世紀から19世紀を中心に―」の目的は、イギリスおよびオランダの東インド会社を比較研究し、両者の性格の違いについて明らかにすることである。論文執筆にあたり、筆者が特に注目したのが両者の解散時期の差である。「なぜ英蘭東インド会社の解散時期に、半世紀以上もの差が生じたのだろうか」、これが論文の出発点となる「問い」となる。

序章では21世紀現在における東インド会社研究の意義を述べる。特に2000年代末の金融危機以降、国家と経済の関係が問い直されている中で、名目上は民間企業でありながらも国家と密接な関係を維持し、独占的に活動を展開した東インド会社の研究は、今日においてもいまだ有益であると筆者は考える。第1章および第2章では歴史的背景を検討する。東インド会社の設立に先駆けてアジアに進出したポルトガルやスペインの王室独占貿易、さらに会社設立後のイギリスやオランダの活動について、それぞれの比較や関係を重視しながら考察を進める。第3章では前章で確認した歴史的背景を踏まえ、英蘭東インド会社の比較研究を深めていく。特にフランス革命、本国への経済的・社会的貢献、イギリス東インド会社軍の存在、以上の3点に特に注目し、解散時期の差をもたらした要因を探る。

植田章友 インドネシアの電力事情―原子力発電所を建設すべきか否か―

種別:卒業論文

2011年に起きた東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を受け、反原発ムードが高まる中、インドネシアは着々と原発導入の準備を進め、現在、大統領命令さえ下れば原子力発電所の建設に着工できる状態にある。原発導入の経緯等、インドネシアには日本との類似点が多数あり、インドネシアにおいても同じような悲劇が起こり得るのではないかと筆者は考えている。そこで本稿では、インドネシアに原子力発電所は必要であるか否かということについて論じた。

序章で問題提起後、第1章においては、現在のインドネシアの電力事情について、第2章では、インドネシアにおける原子力発電の歴史について明らかにしている。電力不足の解消及び経済発展の達成等の目的からインドネシアは原発導入の道を選んだのであった。

そして第3章では、そもそも原子力発電とはどのようなものであるのかということ、そのメリット・デメリットについて言及し、最後に、インドネシアに原子力発電所は不必要であるという結論を導いた。続く第4章では、原発なしでどのように目的を達成するのか、本当に達成することができるのか等について、再生可能エネルギーの可能性を明らかにし、筆者の結論の裏付けを行い、おわりにで締め括った。

黒岩早紀 国民形成期における道徳教育の役割―インドネシアにおけるパンチャシラ道徳教育の時代と日本における修身科の時代の比較―

種別:卒業論文

国民という概念は近代に作られた用語である。パンチャシラ誕生演説においてスカルノは、独立国インドネシアにおいてこそ民衆をインドネシア人として独立させると述べた。1980年から本格的に授業が行われるようになった「パンチャシラ道徳教育」の国定教科書には公定のナショナリズムがよく示されている。中でも、パンチャシラの実践という名目のもとに具体的な躾や家庭的調和が道徳として説かれ、その秩序理論を学校、地域、社会一般へとゲマイシャフト的に教え込んでいくという構造が特徴的である。

一方、日本にも道徳教育が科目として教えられる時代があった。鎖国を終え明治維新の時代の教育思想では、幕藩体制の破綻にもとづく国内的危機の克服と、欧米列強の圧力への抵抗と民族国家の独立の確保が目指され、ここで初めて日本人としての自覚を持たせる国民教育が行われるようになった。1880年に筆頭科目となった修身科では、天皇を頂点とする社会構造が、家族や祖先を敬う気持ちの応用としてゲマイシャフト的に教えられた。

以上のように、時代は異なっても政治主導で国民を形成していく時期に行われた道徳教育には構造的な類似点がある。言い換えれば、道徳教育は宗教などに依らないその時代に応じた「徳」を教える政治的手段として用いられることがあるとも言える。一方、類似した構造をもっていた両国の道徳教育のその後まで視野を広げてみると、多民族・多文化社会のインドネシアの道徳教育では現在も国民精神を教える内容が盛り込まれているのに対し、日本の道徳教育ではそのような事柄は取り立てて教えらていない等の相違点も見えてくる。