2006年度卒業論文・卒業研究の要旨

佐川由紀子「インドネシアにおける持続可能な経済開発」

種別:卒業論文

観光開発の経済効果は高い。一方、観光開発に伴って発生するマイナス面も大きい。文化・環境・地元民の生活等を守りながらも経済的に潤うためにはどのような観光開発をなすべきなのかという問いを、インドネシアを参考にしながら検証した。具体的には、先行研究である持続可能な観光論とコミュニティー・ディベロップメント論を用いて、インドネシアのジャワ島西部のボゴールとアロール島の2個所でのフィールドワークを実施した。そして、地方政府主導の観光開発と市民主導のそれとを比較しながら、地方分権が観光開発に与える影響と、各観光に関係するステークホルダーを繋ぐ仲介者の役割を分析し、新たな観光論を展開した。

はじめに、第1章で持続可能な観光あらましを簡単に紹介し、歴史的背景や理論などを追い、第2章では、インドネシアの観光開発の実態とその変遷をみた。その際、地方分権化によってどのように観光開発の仕方が変わったのかという点を重視した。そして第3章では、フィールドワークの実例を2つ紹介して、背景にある問題点や参考にすべき点を明らかにした。終章では、持続可能な観光を実施するための方策を具体的に考察した。

新宅紗季「アチェ:和平協定調印への道のり」

種別:卒業論文

アチェでは、30年近くにわたりインドネシア国軍とGAM(自由アチェ運動)部隊との間で衝突が続いてきた。この紛争の中で多くの一般市民が行方不明になり、拷問、レイプ、殺害などの人権侵害を受けてきた。インドネシアで最も豊かなはずのアチェが、4番目に貧しい地域となり、まともに生きる権利が剥奪された。国軍のアチェに対する弾圧はますます残酷なものとなり、アチェ紛争の平和的解決は非常に困難であるかのようにみえた。しかし2004年12月26日のスマトラ沖大地震およびインド洋大津波が一つの契機となる形で、数回にわたる和平交渉が行われた結果、2005年8月15日に和平協定が結ばれ、30年も続いたアチェの紛争が解決に向けて大きく前進した。

卒論では、これで本当にアチェに平和が訪れたのか、またこれからの課題は何なのかについて論じていきたいと考え、アチェ王国の成立から各政権下でのアチェを振り返り、和平協定調印によって変わった点、課題として残っている点についてまとめた。

高橋明奈「ジャカルタのゴミ問題とごみ処理システム改善策」

種別:卒業論文

世界中で環境問題が叫ばれる中、途上国のごみ問題も日々深刻化している。この論文は、インドネシア大学留学を通じて実際に目の当たりにしてきたジャカルタのごみ事情を分析し、その問題点を指摘するとともに改善策を提案することを目的として執筆したものである。

第1章では、ジャカルタのごみ処理システムの現状を論文資料を基にしてまとめた。第2章では、これまでに行われたジャカルタのごみ問題に対する取り組みについて述べた。具体的には、JETROによって行われた「ジャカルタ特別市固形廃棄物処理改善(ごみ焼却・発電)プロジェクト」についてなどである。第3章では、インドネシア近隣国におけるゴミ問題改善への取り組みとして、マレーシアとタイでの例を参考としてあげている。第4章では、先進国でのゴミ処理とリサイクルシステムおよび環境ビジネスについてまとめた。この章では、日本のごみ処理システムと環境先進国といわれるドイツのごみ処理システムについて述べている。そして第5章では、ジャカルタのゴミ問題解決策の提案として、2章から4章で述べたことを参考に、自分なりにジャカルタのごみ問題解決策を提案した。

高橋早苗「アチェ舞踊入門-サマン習得の手引き」

種別:卒業研究

本研究では、アチェの舞踊、サマンを写真や映像を使って解説している。踊りを収録したDVDと、アチェ舞踊に関する説明や踊り方などを載せた冊子を作成した。

本研究の主な目的は、日本においてアチェ舞踊のサマンを広めることである。インドネシアに留学した時に習得したアチェ舞踊を私の所属する東京外国語大学インドネシア舞踊サークルの仲間に教え、一緒に踊り、学内だけでなく他大学の文化祭や地域の文化祭などで発表した。インドネシアでの舞台と日本での活動をDVDに収録した。そして、サマンを中心に、アチェの舞踊について解説した冊子を作成した。

冊子の構成は以下のとおりである。まず第1章では、アチェに関する地理的な事柄と歴史を述べた。次に第2章では、アチェの舞踊に関して全般的に説明した。舞踊の持つ意味、伴奏に使われる楽器、舞踊の種類について述べた。そして第3章では、アチェの舞踊の中でも特に有名なサマンについて述べており、DVDの解説をしている。サマンの特徴、衣装、化粧の仕方、踊りの順序と歌を載せている。衣装、化粧の仕方については、写真を使い説明している。踊りの順序は、各動きの写真と、動きに合わせた歌を載せ、練習の参考になるよう工夫した。また歌に関してはアチェ語の他に、インドネシア語訳と日本語訳を載せた。最後に第4章では、留学後、日本で行った活動に関して述べた。

DVDには、インドネシア留学中に撮影したものと、日本で撮影したものの他、練習用の映像を収録した(7シーン、計54分19秒)。

辻亜矢子「インドネシア・ロンボク島の観光」

種別:卒業論文

インドネシアのロンボク島は、世界的観光地となったバリ島を目指し、近年観光開発を急ピッチで進めている。日本でも注目されつつあるロンボク島において、観光開発はどの程度進み、また将来より多くの観光客を呼び込める可能性があるのかという観点から研究を進めた。

第1章では自然環境や人口構成などロンボク島の基本情報を述べた。第2章ではフィールドワークで得た情報を中心にして、様々な角度から観光の現状を述べた。第3章では州政府の文書を基に今後の課題をまとめた。最後の第4章では、前章で挙げた課題点を踏まえて日本人観光客を呼び込む方法を提案した。

この論文で得た結論は、ロンボク島の観光開発は進むが、バリ島のように大規模な観光地になるのはすぐには困難だということだ。開発が進んだといっても、国内外のアクセスの悪さやホテル・レストランの不足など課題点は多い。それを政府や企業の適切な援助と住民の力でうまく解決していかなければならず、容易ではない。

西野恵子「ジャワ舞踊の実践:古典ジャワ舞踊ジョグジャカルタ様式と創作舞踊」

種別:卒業研究

この卒業研究は私が2004年8月から2005年8月までのインドネシア、ジョグジャカルタでの留学期間中に習った5つのジャワ舞踊について、映像とそれについての説明をおこない、それにジャワ舞踊全体についての説明を加えて一冊の本にまとめたものである。巻末に2枚のVCDを付けた。DISK1は、2006年9月23日(土)にジョグジャカルタ、バンドゥルのSD Karanggondang(カランゴンダン小学校)で撮影したもので、これを見て舞踊の練習が出来るような作りになっている。DISK2には、私留学した際に踊り手として参加した様々なイベントでの様子を収めた。ここで扱ったジャワ舞踊はインドネシア語でTari klasikと呼ばれる古典舞踊1つと、Tari Kreasi baruと呼ばれる比較的最近作られた創作舞踊4つである。

古典舞踊についてはスラカルタ(ソロ)様式と呼ばれるものとジョグジャカルタ様式と呼ばれるものの2つが存在するが、ここでは主にジョグジャカルタ様式について取り上げた。2-1-3で述べるように、スラカルタ様式の方がジョグジャカルタ様式よりも発展し、広く一般に踊られているので、文献もスラカルタ様式についてのものが多い。そのため文献より実践を中心とする研究となったが、ここでジョグジャカルタ様式についてまとめることには大きな意味があると考えている。私がジョグジャカルタで古典舞踊を勉強したときに舞踊独特の言い回しがわからなかったこと、また日本語でこれについての十分な文献がないことを考慮して、写真つきで説明を加えた。

また創作舞踊については必ずこうしなくてはいけないという決まりごとがない上、インドネシア語でも文献が少ないため、ここでは私が知りうる限りの説明をおこなうにとどめた。この卒業研究がジャワ舞踊の実践に役立ち、またこれを通してジャワ舞踊の魅力が少しでも伝わることを願う。

武藤裕紀子「東マレーシア・サラワク州における持続可能な観光形態」

種別:卒業論文

首都、クアラルンプールが位置する半島マレーシアに比べ、東マレーシア・ボルネオ島はおそらくあまり知られてはいないし、研究対象にされることも少ない。しかしそこには27もの多様な先住民族と伝統文化、世界遺産にも登録されている国立公園の豊かな自然など、観光客を引き付ける要素が存在している。以前から観光業に興味を持っていた私は、東マレーシア・ボルネオ島のツーリズムを、サスティナブル・ツーリズム(持続可能な観光)という理論と共に研究題材として取り上げることにし、本稿ではより深く掘り下げるために東マレーシア・サラワク州に研究対象を絞ることとした。

サスティナブル・ツーリズムの中でも、サラワク州の国立公園や自然保護区を舞台に活発に行われている、エコツーリズムに焦点を当てている。また、サラワクのもう一つの特徴である多民族社会の民族文化を観光材料にしたエスニック・ツーリズムにも触れた。本論文では、東マレーシア・サラワク州で行われているエコツーリズム、エスニック・ツーリズムの実態を明らかにすること、サラワク熱帯雨林の豊かな自然と民族文化が、将来の東マレーシア発展につながる持続可能な観光という観点において、有効的な活用をされているかどうかを明らかにすること、という2点の課題を挙げ、以下の構成で論じている。

第1章で東マレーシア・ボルネオ島のサラワク州の概要をまとめ、第2章では持続可能な観光(サスティナブル・ツーリズム)の理念を、その定義と共に先行文献を参考に論じた。また、サスティナブル・ツーリズムの具体的な形である、エコツーリズム、エスニック・ツーリズムについてもまとめた。第3章では、サラワク州における持続可能な観光として、2006年夏休みに行ったフィールドワークに基づき、エコツーリズムとエスニック・ツーリズムの現状についての報告と考察を行い、終章で総括として結論を導き出した。