2005年度卒業論文・卒業研究の要旨

有田麻耶「インドネシアから日本への労働力移動」

種別:卒業論文

インドネシアから日本へのヒトの移動に興味を持ち、その中でも特に日本の少子高齢化に伴う労働力不足が憂慮されている現状などを考慮して労働力としての移動に注目し、来日するインドネシア人はどのような在留資格で入国・滞在しているのか、今後どのような展開が考えられるかについて、統計資料等を使いその傾向を探り、考察したものをまとめてみた。

これらの考察を行う上で、第1章、2章において一般的な国際的労働力移動の背景にある要因やインドネシア国内における労働力移動の要因、マレーシア、サウジアラビア、シンガポールといったインドネシア人労働者の受け入れ国の傾向について調べ、まとめることで参考とした。

第3章では日本の入国管理法で定められた在留資格の解説をした上で、インドネシア国籍の入国者数について法務省入国管理局が発行する『出入国管理統計』から該当統計を抽出し表を作成、それを元にグラフを作成し、さらにその中から労働力と推測される人数を算出するなどし、そこから読み取ることが出来る日本におけるインドネシア人労働者の入国目的や在留状況等を考察した。その中で、「研修」という在留資格での入国・滞在が特徴的であること、外国人研修制度・技能実習制度が外国人労働者受け入れの枠組みとして機能していることが分かった。さらに、労働を目的として入国するインドネシア人は年々増加し続けているが中でもその増加を支えているのは「専門技術・技能を有する労働者」、「研修」としての入国者数の伸びである。

これらのことを踏まえて、第4章では来日インドネシア人の今後の展望は日本の少子高齢化に伴う労働力不足に対する外国人労働者の導入の是非に関する議論と、労働力受け入れの枠組みとしての外国人研修制度・技能実習制度のあり方に対する議論を考察する必要があると考え、これらの議論の中のいくつかの意見に触れた上で自身の考えを述べた。

岩田 剛「南スラウェシのブギス神話叙事詩『イ・ラ・ガリゴ』にみる神話的世界」

種別:卒業論文

卒業論文においては、インドネシアの南スラウェシ地方に伝わるブギス語の神話叙事詩『イ・ラ・ガリゴ』を取り上げ、その研究史と写本の所在を俯瞰したうえで、インドネシア語訳テキストを使って物語の概略を記した。そして、物語のなかから、穀物の起源を語ったエピソード(穀物化生譚)と、主人公的存在であるサウェリガディンの武勲航海譚を取り上げ、内容の分析を試みた。

まず、前者においては、世界各地の神話にみられる穀物化生譚の分類に照らし合わせ、『イ・ラ・ガリゴ』の穀物化生譚にみられる特徴を述べた。次に、後者については、サウェリガディンを文化英雄とみなしたうえで、17世紀後半に活躍し現代に至るまでブギス人の間では英雄とされるアルン・パラッカとの比較を通じて、ブギス社会における英雄像について検討を試みた。最後に、最近世界各地で公演がおこなわれている『イ・ラ・ガリゴ』劇についても言及し、むすびとして全体のまとめをおこなった。

佐藤千広「日本におけるテンペの今後」

種別:卒業論文

インドネシアの食文化、特に近年テレビや雑誌で健康食品として取り上げられるのを目にする機会が急速に増えた「インドネシアの納豆」とも呼ばれることの多いインドネシアの伝統的な無塩大豆発酵食品「テンペ」に興味を持ち、卒論では日本におけるテンペに的を絞り、テンペがここまで日本に普及してきた過程、現状、今後の展望について論じていきたいと考えた。

テンペとはインドネシアの伝統的な発酵食品で400年以上も前から食べられていたようである。現在でも値段が安いことからインドネシアでは重要なタンパク源として日常的に食されている。

テンペの作り方は納豆の作り方と似ている。大豆の煮豆をバクテリアの一種である「納豆菌」で発酵させると納豆になり、カビの一種「テンペ菌」で発酵させるとテンペになる。納豆菌は稲ワラなどにいる「枯草菌」の一種なのに対し、「テンペ菌」はハイビスカスやバナナの葉などにいる「白カビ」の一種である。 論文の構成は以下の通りである。

前半部ではテンペの起源、製造方法、栄養成分などのテンペの詳細を把握した上で、テンペと同じ無塩大豆発酵食品である日本の納豆との比較を行った。また、テンペが日本で歩んできた過程と現状、述べ、後半部ではテンペを製造する側と消費者の側から見たテンペに対する視点と動向を探り、又、近年日本で起こっているヘルシー・ブームとの関連から日本におけるテンペの今後の姿に関して考察を行った。

内藤えりか「バリ舞踊案内:東京外国語大学外語祭を例に」

種別:卒業研究(製作)

この研究では、東京外国語大学インドネシア語専攻に2005年度現在伝わるバリ舞踊の保存を目的として、舞踊の解説のための冊子とDVDを製作した。

冊子は四章構成になっている。第一章「外語祭におけるインドネシア舞踊」では、外語祭での公演の簡単な歴史と、現在伝わる舞踊11曲について作者や由来など舞踊に関する基本的情報と、習ってきた人、年度別の踊り手の名前など外語祭に関する情報をまとめた。第二章「バリ舞踊」では、概要としてバリ島の歴史、舞踊の種類、現代舞踊の特徴、基本的動きに関する語彙、音楽について記した。第三章「外語祭で披露したバリ舞踊4曲」では、舞踊の説明や衣裳の名前、着方を写真を用いて説明した。第四章では化粧の方法について記録した。DVDは2枚製作した。1枚目には、バリ島で活躍している舞踊家の踊りと、インドネシアで舞踊を習った先輩の舞踊を収録した。また、付録として、バリ島ウブドでのティルタサリ舞踊団による公演の映像を加えた。2枚目には、外語祭の公演の記録として、2005年11月23日に行われた野外ステージでの公演の映像を収録した。

比嘉英倫子「インドネシアにおける家庭内暴力に対する取り組み」

種別:卒業論文

2004年9月に、家庭内暴力防止法が成立した。この法律成立以前は、インドネシアでは家父長制が強かったこともあり、女性は権利を制限され、男性に従属する立場に置かれており、家族又は家庭の中の権利を、人権として保護されていなかった。この法律が成立したことで、女性は精神的暴力、身体的暴力、経済的暴力、性的暴力から法的に保護される権利を持つようになり、また、子供や、家庭内に住み込んでいる使用人も、これらの暴力から保護される権利を持つようになった。

本卒業論文では、第1章で、家庭内暴力に対する国際的な取り組みを取り上げ、第2章で、インドネシアにおける家庭内暴力の現状と、家庭内暴力防止法が成立する以前の家庭内暴力に関する法について延べた。第3章では、成立までに時間のかかった家庭内暴力防止法が成立するまでの長い過程を調べ、第4章では、家庭内暴力法に相当する日本の法律との比較を行った。最後に、家庭内暴力の廃止に関するインドネシア共和国政令2004年第23号を和訳し、参考として載せた。

福井茉莉「インドネシア、ジョグジャカルタ市における現代住宅」

種別:卒業論文

インドネシアの多様な文化を語る上で、欠かせないもののひとつに家屋がある。筆者はジャワ島のジョグジャカルタのインドネシア人家庭に滞在したが、そこではジャワの伝統的家屋とも異なり、また普段私たちが日本で暮らしている住宅とも異なる住まいであった。そこで、実際に現代のインドネシアでは人々はどのような住まいに暮らしているのだろうか、という疑問から本論文は生まれたものである。

本論文では、前述のジョグジャカルタ市内にあるインドネシア人家庭の住宅を中心に調査した結果を中心にまとめた。第1章ではジョグジャカルタ市の住宅を調査対象とする上で、その背景となる歴史や人口、社会の特色、市街地類型について記した。第2章では、今回の調査結果から疑問が浮かび上がった建築様式について、ジャワの伝統様式とコロニアルスタイルの建築様式についてその特色をまとめた。第3章では、今回の調査内容と、そこから筆者の分析した住宅の特色について記した。そこで浮かび上がったことは、住宅の中を3つの空間に分類し使用していること、ジャワに根付く客間の重要性である。最後の第4章では、簡単にではあるが、私たちが日本で住んでいる住宅とどのように異なるのかを述べた。これによって、ジョグジャカルタの現代住宅も、ジャワ文化の特色を持った住宅であるということを考察した。

三橋佐那子「日本企業から見たインドネシアの投資環境:輸送機器業界を例にあげて」

種別:卒業論文

1965年にスハルトにインドネシアの大統領に就任して外資歓迎の姿勢を表すようになってから、これまで海外から多くの企業がインドネシアに参入してきた。しかし、その過程には日本企業をはじめとする外資系企業のオーバープレゼンスによる暴動や、プリブミ系である地場産業の保護・育成を目的とした外資規制、そして規制緩和などインドネシアの投資環境は多様な変化が見られる。

そこで本論文では、80年代後半以降の規制緩和政策を外資参入活発化の要因と捉えながら、規制緩和施行による日本企業の参入の移り変わりを調べ、グラフにまとめた。さらに輸送機器業界に焦点を当て、バイク、自動車に関してそれぞれ企業からインタビューを行い、企業から見たインドネシアの外資政策について伺った。そして政策・グラフ・インタビューの3つを柱に、インドネシアの投資環境やこれからについて考察した。