国際日本学

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教員インタビュー

ジョン・ポーター John Porter

役職/
Position
大学院国際日本学研究院 准教授
研究分野/
Field
日本近代史、都市社会史、貧困史

古文書には現代人の想像力を遙かに超える世界が潜んでいる

 私の専門は、日本近世史です。日本近世社会における都市の社会構造や貧困について実証的かつ具体的な研究を行っています。すなわち、近世巨大城下町(江戸/東京・大坂/大阪)を主なフィールドにしながら、一次史料の分析に基づいて、都市貧困者の存在形態と居住様式を解明するとともに、貧困者の生命と世代的再生産を支えた諸構造を浮き彫りにしています。こうした研究を通じて、近世日本の巨大都市における貧困の特質を明らかにするだけでなく、都市下層社会の形成過程と展開過程について考察を深めています。ただし、従来の研究と異なる点は、都市貧困者を社会から排除された存在としてのみとらえるのではなく、むしろ彼らの生業活動や生存様式に注目しつつ、都市社会の全体構造に位置づけることを目的とする点であります。つまり、私の研究は、巨大都市の社会的実態に着目しながら、都市下層社会の存立構造を具体的な分析対象とし、民衆の視座に立ちつつ、都市社会の全体像を「下」から把握しようとするものであります。

 以上のような研究手法を用いた成果を、日本国内の最先端の研究の文脈において発表しているだけではなく、英語圏においても積極的に発信し、また注目すべき日本の歴史研究の紹介にもつとめてきています。現在の日本史研究にとって、国際的な発信力の強化は喫緊の課題であり、引き続きこのような役割を積極的に担ってゆきたい。

 次に、教育の面においても、研究上のアプローチを持ち込んでいます。具体的には、学術論文や教科書だけから歴史像を構築するのではなく、一次史料も最大限に利用することであります。私の授業を受ける学生は、専門家の解釈に頼って近世史の通説を学ぶのではなく、自ら行う古文書解析を通じて社会の具体像を把握するとともに、日本社会に生きた人々の営みを掬い上げることができるだろう。このような教育方式を実現するためには、学生に史料の読解力を身につけさせる必要があります。それゆえ、日本近世史の内容そのものだけでなく、歴史方法論や古文書解析に関する教育にも力を注いでいる。つまり、学生に歴史学に関わる基礎知識を与えるとともに、自分でオリジナルかつ実証的な研究を行えるような史料解析能力を身につけさせることを目標としています。

 なお、英語圏出身の大学院生を対象として日本史を教える場合にも、この方法を基本的に貫きたい。言語の壁もあり、英語圏で日本史を学ぶ学生はほとんど一次史料に触れる機会がありません。言語の壁は容易に克服できる問題ではないが、翻訳を通じて、日本語を母語としない学生にも一次史料へのアクセスを与えることが可能となります。私は2012年から2013年にかけて、大阪市立大学の塚田孝教授とともに、英語圏で日本史を学ぶ学生向けの古文書教科書(『Early Modern Osaka from the Documents: English Edition』)を作成しました。これは、近世大坂の町に関する史料を素材とし、ひとつひとつの古文書の読み方や文法を解説し、英訳文と徹底した語義の説明を加えたものであります。このような経験と方法を教育に導入することによって、日本語を母語としない学生であっても、日本の古文書に直接触れ、専門家の解釈をただ受け入れるだけではなく、自分自身で歴史社会の構造的特質とその社会に生きた人々の生活実態に迫っていくことが可能となります。

 最後に、授業においては、中央政治などの動向を十分に考慮しながら、個別の地域に注意を払い、特定の地域に即して議論を行うことによって、学生と一緒にその地域の固有性や他地域との共通性について考えています。そのようなアプローチを活用することによって、歴史学を通じて、日本全体を画一的にとらえるような見方ではなく、学生たちが日本の地域的な多様性と普遍性に自ら気づき、理解を深められる視点を獲得できると考えています。

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