役職/
Position

大学院国際日本学研究院　元特別招へい准教授

研究分野/
Field

日本経済史

【English Page】

Q1.　ご自身の研究内容について簡単にお教えください。

A1.　専門は「経済史」です。研究を始めた当初は、日本がなぜ経済発展に成功したのか究明したいと考え、博士論文では石炭産業の発展、とりわけその国際貿易について研究しました。日本はたいてい「天然資源の乏しい国」といわれますが、事実ではありません。例えば、日本は「産業革命」を維持するために、フランスよりもはるかに多くの石炭を有しており、毎年莫大な量の石炭を輸出する余裕がありました......。一方、フランスはイギリスから大量の石炭をどんどん輸入しなければなりませんでした。現在、私は日本の航空機産業の発展に焦点を当てた研究をおこなっていますが、これは石炭産業とはまったく異なる「ハイテク」分野であり、19世紀からの日本の経済発展についてより深く理解させてくれるたいへん興味深いものです。

Q2.　東京外国語大学では学生に対してどのような講義をされていますか。

A2.　私がフランスで教えている「日本経済と経済学」についての講義を東京外国語大学の学生とも共有することにしました。この講義は、経済思想の発展と「物質的」経済のどちらにも関わるものですが、コロナ禍により来日が遅れたため、思想のほうに焦点を当てる運びとなっています。当講義の目的は、学問はたんなるコピーではあり得ないということを示すことです。学問はつねに既存の何かを参照するものであり、「コピー」や「模倣」は学問の初歩の一部として軽視するよりもむしろ重視した方がよいと思います......。それゆえ日本経済学を「輸入学」のイメージに限定してしまうことは的外れであり、この「輸入学」なる表現は無意味かつ有害にさえなりうるものです。

夏学期には「Evolution and Revolution: a compared history of Japan and France in Modernity (1600-2020) 進化と革命：近代における日本とフランスの比較史（1600-2020年）」という講義も担当します。この講義で私は、「近代フランス革命」と「封建的日本の後進性」を対立させるという古典的な視点、欧米諸国とくにフランスでいまだに根強いと感じられるこのイメージに異を唱えたいと考えています。

Q3.　国際日本専攻は、日本発信力の強化に力を入れる方針をだしています。このためには、何が必要と思われますか。

A3.　難しい質問です。いろいろな捉え方ができるからです。「日本」とは何か？ それが指しているのはたとえば日本政府なのか、日本に住む一般人なのか、日本国籍の人なのか？ また「国際」はどうでしょう？ 「日本」はたとえばアメリカとカンボジアに対し、同じメッセージを、同じ仕方で発することができるでしょうか？ 東京外国語大学のような場所では、さまざまな人間社会、文化、文明を学ぶことができるし、それぞれの言語を学ぶことができます。これは、「世界に向けて」メッセージを発信しようとする者が取り組むべき最も重要なことです。
「日本研究」そのものについて言えば、日本のポジティブなイメージを提示することが重要だと思いますが、それは決してナイーヴなものであってはなりません。たとえば、平和主義は日本が世界に向けて発信できる理想ですが、平和主義を理解するためには、たとえば近年の日本の歴史と向き合って、戦争の悲惨さや「諸理由」を研究することが重要だと思います。

Q4.　東京外大および学生に対してどのような印象をお持ちですか。

A4.　東京外国語大学はとても働きやすい職場です。学生たちはすばらしいと言わざるをえません。決してうるさくなく、オープンマインドで、遅刻をせず、不平を言わず勤勉で、私にとっては模範のような存在です！

Q5.　海外からみて、日本のいいところ、足りないところ

A5.　あまりにも大きな質問で適切にお答えすることができません。「海外」とは何を意味するのでしょうか？ ペルー、セネガル、イタリアでしょうか？ フランス出身でモロッコやベトナムに住んだことがある私にとって、「日本」の悪い点などとてもなかなか見当たりません。どこに行っても本屋があるし、図書館は巨大だし......。私のような本の虫にとってはパラダイスです。文化的視点からあえて言えば、日本は模範になりうるでしょう。これは私自身の「日本」から「世界」へのメッセージかもしれません。
また、平和主義は力強い政治的価値観であり、憲法が平和主義でありつづける限り、日本は世界規模での平和主義の先駆けとなりうると思います。