国際日本学

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教員インタビュー

小沼イザベル Isabelle Konuma

役職/
Position
大学院国際日本学研究院 元特別招へい教授
研究分野/
Field
法学

【English Page】

Q1. ご自身の研究内容について簡単にお教えください。

A1. 現在主に三つのテーマで研究しています。一つ目は、日本社会における優生思想と法についてです。こちらは、フランスで出版を目的として現在執筆中ですが、その最終章に加える予定である強制不妊手術をめぐる訴訟を紹介するにあたり、特に人権と優生思想の関係を追究したいと思っています。二つ目は、二年程前から中国(明・清)より日本に伝えられた「刑法」がいかに適用されていたのか、江戸時代に遡り裁判例などを通してその実態を調べることにあります。こちらは、中国法・韓国法と比較する研究プロジェクトの一環として、例えば殺死姦夫規定の変遷をたどるなど、現在資料調査にあたっています。さらに、アジアにおける移民問題に関する学際的プロジェクトの一環として、難民と法律の問題(無国籍問題、難民の人権)を新しく研究の対象とすることを目的とし、そのベースを固める作業をしています。

Q2. 東京外国語大学では学生に対してどのような講義をされていますか。

A2. 『日本社会における優生思想と法』というテーマで一週間の集中講義を行いました。優生思想と一言で言いましても、アプローチの方法は限りなくあります。東京外大では、主に法律学との関係を授業の対象としました。進化論などと近いところで、優生思想もいかに法学者に吸収され、その学問に影響を与えてきたのかということを、明治まで遡り、民法・刑法・憲法などの資料(法律の条文・国会の議事録・法学者の著書)を通して紹介し、天賦人権説や産児制限論、フェミニズム運動や家族計画などとの関係についても考えてみました。これらの言説や法規定を通し実証したかったことは、戦後の社会では、憲法の人権思想と優生思想は必ずしも矛盾するものではないという意識もしくは主張が、一部の法学者の間に確かにあったということです。このような現実に光をあてることは、決して優生思想を肯定することを意味しませんが、これにより現在の人権訴訟もまた異なる見方ができるのではないかと思います。

Q3. 国際日本専攻は、日本発信力の強化に力を入れる方針をだしています。このためには、何が必要と思われますか。

A3. フランスで日本社会や日本法を教える際の課題は、フランスのシステムとも比較することで、遠くにある奇抜な島国という日本の一般的なイメージを分析対象とし、強いてはフランスの社会や法とも距離を置くことにあります。日本で国際日本学を専攻する学生が第一に超えるべきハードルは、日本を相対化することかもしれません。ずっと生活していたその空間に対し距離をとり、作られた社会に生きているという自覚をもつことは大変難しいことです。しかし、外国の研究者の授業を受けることにより、また異なった日本が見えてくることもあるかと思います。そのような姿勢をもって日本を知ることは、外国を勉強する上でも不可欠ですし、世界に通じていくことの第一歩のように思います。

Q4. 東京外大および学生に対してどのような印象をお持ちですか。

A4. 東京外大の学生は、多様な専攻を通し、様々な言語・文化を勉強しています。共通点は、矛盾しているように見えるかもしれませんが、「日本」かもしれません。すなわち、日本を他国とのつながりの中で再定義することを必然的に受け入れていることのように思います。「日本」の更なる理解により、研究対象の国(留学生の場合は自国)との重要な架け橋になって行くことを期待しています。

Q5. 海外からみて、日本のいいところ、足りないところ

A5. 日本の特徴として、衛生の良さ、効率的なところ、過ごしやすい環境などが第一に挙げられます。しかし同時に、戦前・戦後の社会を研究しておりますと、そのような特徴が実はかなり真剣に政治の課題となっていたことに気がつきます。現在の少子化問題も、たくさん要因はありますが、戦後の産児制限・家族計画の成果であるとも言えるわけです。従って、いいところは、社会を「改良」する必要があるというコンセンサスが得られた場合、日本は驚く早さで変化する可能性を持っているということです。しかし、一度そのようなコンセンサスが内面化され、日本人のアイデンティティーとして固定化されてしまうと、なかなかそこから抜け出せなくなります。

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