文字サイズ小 文字サイズ中 文字サイズ大

「フェルナンド・ペソアとその時代――1920年頃のペソア」  釜田尚子

研 究

  今回の調査は、ポルトガル近代文学におけるフェルナンド・ペソアの①研究の現状調査、②資料の探索および収集の2点を主たる目的とした。

  ①の研究の現状調査に関していうと、フェルナンド・ペソアという文学者は作品群がまとめられていない文学者である。例えばペソアが生前に刊行した著作は一冊の詩集(ポルトガル語の書籍に限定)にすぎない。著作だけを資料とするとペソアのことはほとんどがわからないといっても過言ではない。だが一方でペソアは様々な雑誌に論考や詩篇などの小品を発表しており、また膨大な数におよぶ未発表の手稿を残している。これらの小品や手稿を資料として新たに用いればペソア研究は豊かな成果をあげることが可能である。そのため研究に際しては、まずポルトガル本国において資料研究がどれほど進展しているか、常に注意しなければならない。資料は現在整理が進められており、資料の整理とともにペソア研究は日々進展しているのである。

  この資料整理の進捗状態の最新を知る方法としては、ポルトガル本国における第一線の研究者との面会することが最も効率がよいのは言うまでもない。筆者は博士課程後期での研究活動の起点として、ペソアの書簡を用いることを考えている。この書簡はペソア自身が異名の起源を説明しているものとして重要視されているものの、その書簡自体に問題が多く存在しており、ペソアが語る内容と過去の事実との間に多くの齟齬があることが既に指摘されている。この問題を解決するためには、未発表の資料、つまりペソアが生前に発表しなかった資料を参照することが必要である。

  ②の資料の探索および収集に関しては、1920年前後のペソアおよびポルトガル近代文学に関する資料を対象とする。現在ではインターネットの普及・発達により、ポルトガル国立図書館の所蔵資料を日本に居ながらにして検索することが可能であり、またサイト上での販売を行う書店や古書店が少なくないのも事実である。しかしそうした手段で入手できる資料は既に入手しており、博士課程後期における研究では、それ以上の資料が必要となる。そのためにはポルトガル本国における調査が必須である。

  これまでの研究を通じて、ペソア本人の著作については、管見のかぎりでは入手済みであるが、ペソアをより的確に評価するための同時代資料や研究書は不足している。今回の調査ではペソアが生きた時代の状況を示す資料の収集に特に力を入れたいと考えた。 さらに上記2点に付け加えると、今回は哲学を専門とする研究者との面会も実現する。ポルトガル近代文学および近代思想におけるペソアの位置づけについて質問することを今回の調査旅行の目的の一つである。

  詳しくは学術調査報告書(PDF)をご覧ください。


報告者

  1. 名前:  釜田尚子
  2. 研究テーマ:  フェルナンド・ペソアとその時代――1920年頃のペソア
  3. 渡航先:  ポルトガル国リスボン市
  4. 旅行期間:  平成20年3月9日~3月22日(14日間)
  5. 調査旅行の概要:  ペソア手稿整理の進捗状況(特に未刊部分である書簡や個人的メモ等に関して)や文献学の観点から見たペソアの文学作品への評価等の聞き取りをリスボン国立大学文学部にて行い、カトリック大学人文学部哲学科ではポルトガル哲学史におけるペソアの位置づけやサウダーデおよびサウドジズモの系譜について聞き取り調査をした。さらに、ポルトガル国立図書館において絶版資料等の閲覧および複写を行った。
  6. 学術調査報告書(PDF


↑このページのトップへ